一過性ではない、高級ブランドの好調

loftイメージ
中国の小売販売は順調に回復をみせており、特に中国国内での高級ブランド品の販売の好調が目立つ。

※ラグジュアリー(高級)ブランドには、衣服、革製品、化粧品、アクセサリー、宝石、時計、酒類、自動車、航空輸送、ホスピタリティ、コンシェルジュ等が幅広く含まれる。
しかし、この記事では特に衣類、革製品、化粧品、アクセサリーを中心に見ていく。

4月以降、ショッピングモールやデパートの営業の再開時には、一時的な「リベンジ消費」ではないかとの見方が大勢を占めたが、その勢いはまだ続いている。

高級ブランド販売は、都市封鎖の2月は前年比80%減であったが1-6月累計では既に同1%プラスと他業種より早い回復を示している。
4月に広東省広州市のエルメス旗艦店で1,900万元(約3億円)の日商を記録と話題になり、
8月でもLV上海旗艦店が月商1.5億元(23億円)、日商500万元(7.500万円)を記録したと報道された。

中国での売上減少がグループ全体の業績不振につながったとされたティファニーでも、4月は前年比各30%増、5月は90増%と大幅に増加。Monclerは20年上半期に3,550万ユーロ(約43.7億円)の損失を計上しているが、中国市場では10%以上の伸長を報告している。

ボストンコンサルティンググループ(BCG)の調査では、2020年の中国のファッション関連の売上は全体で24-31%減少するものの、高級ブランド品販売は10%前後の拡大との見方をしており、実際にその方向に進んでいるように見える。

2019年の全世界の高級ブランド市場規模は1.3兆ユーロ(160兆円)。個人用高級ブランド市場が2,810億ユーロの規模(34.6兆円、前年比+4.4%)、そのうち中国籍の消費者は全体の35%、世界一のシェアを占める。(Bain & Company とFONDAZIONE ALTAGAMMA 共同レポートより)
中国の消費動向は、ファッション業界に大きな影響を持つ。

海外での「爆買い」が減り、国内に

銀座イメージ

2019年、年間1.55億人(中国旅遊研究院データより 対前年比+3.3%)の海外渡航人口が、20年は80%前後落ち込んでいると推測される。ここでは、その影響について考える。

2020年10月1日から始まった国慶節休暇では、中国人旅行者の数は約6億人と予測されている。2019年の7.8億人、国内観光収入約6,500億元(9.8兆円)、出国者数700万人に比較すれば、大幅な減少が予想されている。
移動の規制が緩和されたとはいえ、観光地での旅行客数制限も反映されている。国内観光収入は第3四半期で昨年比90%近くまで回復するとの見方もあるが、筆者は難しいのではないかと予想する。

海外渡航(爆買い)とブランド消費

従来、中国での高級ブランド品販売価格は、他地域よりも高く設定されていた。
海外渡航する人口が増えるにつれ、高級品を中国より設定価格の低い国で購買する動きが活発になった。日本でも「爆買い」と呼ばれる現象があちこちで見られたのは記憶に新しい。

また、越境ECで、個人サイトから安く購買するなどの動きもみられた。

中国政府は2017年と18年2年連続して輸入関税の引き下げを行い、内外価格差が縮まった。また、2019年より越境ECの新制度導入により、不正輸入(個人輸入制度は一般輸入と相違点あるがここでは省略する)が減少した。
これにより高級ブランド品販売が中国国内で拡大される環境が整ってきた。

とは言え、海外渡航人口は2019年まで増加していき、中国人の海外での高級ブランド品購入の勢いは、衰えていなかった。

なぜなら、個人用高級ブランド品市場のシェア(購入者別)で、中国(35%)に次ぐ第2位が米国で22%、欧州17%、日本10%と続く。しかし販売された地域別では、欧州と米州で計61%と、購入者別より20ポイント以上割合が大きい。また、中国、日本を含むアジアの合計が35%と、購入者の国籍別で言うと、中国1国とさほどかわらない。(Bain& Company及び Fondazione Altagamma データより)つまり、中国は大量に海外で高級品を買い求めてきた。

コロナ禍で海外に渡航できない分、海外で購買していたものが国内にシフトしてきたのは、容易に想像できる。
また、海外旅行出来ない部分を、海外高級ブランド店で教育された店員の優良なサービスを受け、商品を購買する事で、海外旅行の楽しみを「疑似体験」で感じているのでもあろう。

以上、海外渡航人口の激減が、中国国内高級ブランド市場の活況に繋がっているのは明白である。

海外旅行

中国人の年代別渡航者比率(2019年)は、80后(パーリンホウ、1980年以降の生まれ)と90后(ジウリンホウ)、ミレニアル世代の合計で46%、Z世代となる00后(リンリンホウ)で14%を占める。直近4年の増加率は各28%(80后)、58%(90后)、40%(00后)と、若い世代の増加が目立つ。
また、地域別でも一線都市(北京、上海など超大都市)よりも二線、三線都市からの渡航者が急増しており、中国全体での消費力の上昇が見られる。
ブランド品購買者の年齢層別に見ると、ミレニアル世代の伸びが大きく5年後に約50%との予測もあり、この世代の海外旅行がブランド品購買に繋がっていると言える。

とすれば、海外購買が出来ない環境の中では、国内のリアル店舗での購買が続くのだろうか。

今後もリアル店舗で購買?

高級品については中国ではオンラインで検索、オフライン(リアル店舗)で購買が一般的であり、上述の店舗の記録的売上からもその傾向の様にうかがえる。
しかし、購買の中心が若年層に移行する中、2年ほど前よりブランド企業は他の消費財製品販売と同様に、オンライン販売を拡げている。

オンラインへの取り組み

欧米ブランドも自社運営のECサイトだけでなく、アリババ、T-モール、JDなど従来型のECプラットフォームへの出店を始めた。
さらに wechatミニアプリや、TikTok ,RED(小紅書)、Bilibiliなど多様なSNSを活用している。この中では、動画による商品紹介やライブコマース(直播)も行われている。

オンライン販売は他国でも展開されているが、富裕層だけではなく中国で増加している中間層そして若年層の取り込みもある。
最近ではライブコマースの有効性が認識され、高級ブランド企業も活用を進めている。ライブコマースでは、TikTokと同様のショートムービープラットフォームの快手(Kwai)が先行。T-モール、JDでも有名人を起用し、インフルエンサー(中国ではKOL)を育成しながら、拡販を進めている。小紅書(RED)、wechatは口コミサイトから、ECの販売につなげていく。
TikTokは、閲覧数が多く、広告効果も大きい。

ラグジュアリーブランドの価値

入口イメージ

ラグジュアリーとは

ラグジュアリーの語源は、贅沢、奢侈と行き過ぎた浪費の意味合いもある。
元々はメゾンとして小規模、生産地、製品の独自性、生産量限定による希少化を伴う高価格販売であった事にも通じる。その後LVMH社のように企業買収を行い、市場寡占化を図るコングロマリットが出現し、企業間競争が拡大している。

価値評価の維持

欧米や日本の市場が縮小する一方で、中国では「富裕層向け」とされたブランドに手が届き始めた「新中間層」が増加している。今後、中国に注力したいブランド側と、こうしたIT新興企業の間でのマッチングは急速に進むだろう。

課題となるのは、オンライン比率が拡大していく中、ブランド価値と高価格帯を、どのように維持していくかということだ。
そうでなければ、マス・ブランドとの差が縮まり、激しい競争市場に入っていく事になりかねない。

ECサイトでは、期間限定の割引セールも行われ始めており、11月11日には小売EC最大のイベントW11(独身の日)があり、こちらでの販売も注目される。
また、中国市場ではラグジュアリーブランドの中古取引比率は全体5%以下とみられる。日本や米国が20%超えるのと、大きく異なる。衣類の中古購買を避ける習慣に加え、中古品に対する真贋の疑義が強いことが原因だが、今後広がる余地がある。

まとめ

 
中国はいまや、個人向け高級ブランドの最大市場となった。海外への買い物目的の渡航が激減した分、国内市場は更に活況を呈している。ただ、若年層の増加に合わせ、ブランド側と新興IT企業とのマッチングが進み、中国独自のブランド市場の形態が生まれる可能性がある。

関連記事

アリババは国有化されていくのか

アリババグループの金融・オンライン決済部門のアント・グループ(前アント・ファイナンス)は、2020年11月に予定されていた上場が延期され、そのまま現在に至っている。ジャック・マー氏の中国金融政策への批判発言から端を発し、アリババは金融業に限らず様々な制限が加えられていると報道されている。この記事では、アリババの現状とともに、中国のモバイル小口決済について考察したい。

ベトナムの事例から見る海外事業成功の秘訣 「長生き」するにはサステブルな体制の構築を

昨今、海外事業展開に関する相談が増えている。その内容は「コロナ後の海外事業の再活動」という“攻め”の相談から「海外進出をした事業の立て直し・撤退」という“守り”の相談まで様々だ。物理的に往来するには厳しい状況が続くが、充電期間と前向きに捉え、中期の視点で海外事業に関して検討する、再検討する「チャンス」である。今回は教育・人材派遣事業を皮切りに、昨今では小売り・AI・ロボティクスと広く展開、現在13カ国で事業を行っているTribe Holdings Japanの山本氏をゲストに、海外事業成功のヒントを紹介する。

オタク経済からナマケモノ経済へ 変わる中国の食文化

EC先進国の中国では新型コロナウイルス拡散以降、外食デリバリー事業や外食製品や生鮮食品のECビジネスが急激に拡大した。オタク経済からナマケモノ経済への生活習慣の変化と、安全志向の強まる中国食品市場を考察する。

ランキング記事

1

アリババは国有化されていくのか

アリババグループの金融・オンライン決済部門のアント・グループ(前アント・ファイナンス)は、2020年11月に予定されていた上場が延期され、そのまま現在に至っている。ジャック・マー氏の中国金融政策への批判発言から端を発し、アリババは金融業に限らず様々な制限が加えられていると報道されている。この記事では、アリババの現状とともに、中国のモバイル小口決済について考察したい。

2

品質不正多発の三菱電機に学ぶ、あるべき不正撲滅方法

三菱電機の品質不正が止まらない。2021年7月に35年以上に渡る品質不正が公表された。調査を進める中で不正の関与拠点、件数が膨らみ、直近の報告では実に150件近い不正が認定されている。一方で、当社に限らず不正そのものの発生や再発は止まらない。再発防止策がなぜ機能しないのか、当社の取り組みを題材にあるべき再発防止策について解説する。

3

進む地方銀行の持株会社体制への移行

経営統合によらない地方銀行の持株会社体制への移行が増えている。銀行法改正による後押しを受けて、地域の課題に向き合いながら、事業の多角化を進めやすくして収益拡大を図るのが狙いであるが、果たして中長期的な企業価値向上に資する事業ポートフォリオの構築は進むのだろうか。

4

人的資本とは 経営の新しい潮流

人材を資源ではなく付加価値を生む「資本」として見直す潮流が拡がっている。企業の「人的資本」に関する情報開示が制度化されるのに伴い、人事部門は従来の定型業務中心の役割から、企業の中長期戦略を実現するための戦略人事への転換が求められている。

5

村上春樹さんから学ぶ経営㉕ ニッチ再び。大谷選手と「何かを捨てないものには、何もとれない」

私が経営の根幹だと考える「ニッチ」(『隙間』の意味ではありません)について、再び論じたいと思います。大谷翔平選手の活躍が常識外であったため、少々長い回となります。それでは今月の文章です。

人気のキーワード

海外スタートアップ情報はこちら!  寄稿・執筆者募集中