アグリテック(Agri Tech)とは?農業の課題をICTで解決

アグリテック(AgriTech)とは、農業(Agriculture)と科学技術(Technology)の造語で、農業分野にロボット技術や、情報通信技術(ICT)などの先端技術を活用する取り組みを指します。

近年日本では、食料自給率の著しい低下や、農業従事者の減少/高齢化など、農業における様々な課題が顕在化しています。

こうした現状を打破するため、ドローン、AI、ビッグデータ、IoT、ブロックチェーンのような最新テクノロジーを活用し、農作業の超省力化や生産物の高品質化を実現しようとする動きが活発です。

農林水産省も、アグリテックと同義である「スマート農業」をスローガンに掲げており、令和元年には「農業新技術の現場実装推進プログラム」を発表しました。

2022年度までにスマート農業の要素技術の現場実装を進め、農業従事者への相談体制を構築するため、官民挙げての取り組みが続けられています。[注1]

拡大するアグリテックの市場規模

アグリテックの市場は成長しています。

富士経済グループの「農林水産ビジネス最前線と将来展望2019」によると、水産業・畜産業を除くスマート農業における2018年度の市場規模は698億円でした。

2030年度の市場規模は2018年比で53.9%増加し、1,074億円の大台に達すると予測されています。

テクノロジー分野別に見ても、農業用ドローンの市場規模は2018年比で5.4倍(65億円)の増加が見込まれます。[注3]

大企業だけでなく、スタートアップやベンチャー企業も積極的に参入しており、今後期待できる成長市場です。

アグリテックが注目される2つの社会的背景

スマート農業の市場規模を見ても、アグリテックへの関心の高まりは明らかです。

以下で、アグリテック が注目を集める2つの理由について解説します。

日本の食料自給率は半世紀でほぼ半減

農林水産省の統計では、日本の食料自給率をカロリーベース(1人あたりの供給熱量)で見ると、半世紀でほぼ半減しています。

1965年(昭和40年)にはカロリーベースで73%だった自給率は、2018年(平成30年)にはわずか37%まで低下。

農林水産省は令和12年度までの食料自給率の目標を45%に設定し、その一環としてスマート農業(アグリテック)による農業生産の効率化を目指しているのです。[注2]

農業従事者の人手不足と深刻な高齢化

日本の農業就業人口は、1995年から2015年の20年間で、414万人から210万人に半減しました。

さらに農業就業人口の年齢構成を見ると、農業従事者の平均年齢は66.4歳で、65歳以上の労働者が全体の63.5%を占めています。[注1]

農業就業人口の減少と高齢化が同時に進行しつつあり、アグリテックによる農作業の超省力化と、若者が活躍できる現場づくりが喫緊の課題です。

アグリテックによる2つのメリット

アグリテックの導入で農業の何が変わるのでしょうか。

農作業の超省力化と、ノウハウの可視化による生産性向上の2点がポイントです。

農作業の負担や時間を軽減

アグリテックは農業用ドローンの活用や、AIによる無人モニタリングシステムの導入、ロボット農機による選果作業の自動化などにより、農作業の超省力化を目指します。

就労人口の高齢化が進み、新規就農者の確保が困難な中、就労者1人あたりの作業負担や作業時間の軽減が急務です。

また、きつい・汚い・危険の3Kのイメージがある農作業をテクノロジーで代替すれば、若者や女性の就農促進にもつながります。

ノウハウの可視化と農業生産の効率化

収穫時期の判断や農地の土壌分析など、従来の農業生産は熟練した就労者による「勘・コツ」頼みでした。

AIやIoTを活用し、こうした「勘・コツ」を可視化すれば、重要なノウハウを簡単に集約・継承できます。

そうすれば、就農して間もない労働者でも、熟練労働者と同等の判断が可能です。

また、生産品の生育状況や病虫害を正確に分析できるため、農業生産の効率化にもつながります。

アグリテックに関わる4つのテクノロジー分野と事例

アグリテックやスマート農業ととくに関わりが深いのは、次の4つのテクノロジー分野です。

農業用ドローン:農薬散布や種まきを自動化

耐荷重数kg~数十kgの小型ドローンが農作業で活躍しています。

農業用ドローンを操縦し、上空から農薬・肥料散布や種まきを行えば、手作業よりも効率的に作業可能です。

スタートアップ企業のBioCarbon Engineeringは、農業用ドローンを使い、ミャンマーのマングローブ林の植林を行っています。[注6]

1人あたり6機のドローンを操縦・監視し、1日に10万本のペースで植林が可能です。

手作業よりもはるかに早く、その分の労働力を若木の世話などに集中できます。

ビッグデータ/AI:熟練労働者の「勘・コツ」を可視化

農業用ドローンやセンサーから得たビッグデータをAIで分析すれば、熟練労働者の「勘・コツ」を見える化できます。

水田の水位データを活用した灌水管理や、農作物に害虫・病気がないかの異常検知、画像認識技術を応用した収穫時期の判断など、「勘・コツ」を数字やデータとして形式知化できます。

たとえば、株式会社セラクの「みどりクラウド」は、圃場の気温・雨量・雲量などの気象データを収集し、農作物の状態をモニタリング可能です。

気象データはクラウド環境で管理されているため、いつでもどこでもアプリから確認でき、圃場環境の異常が発生されるとメールやアプリからお知らせしてくれます。[注4]

また、これらのデータを生産者同士で共有することで、成功例・問題点の発見や検討ができるのです。

IoT:生産物の品質管理を24時間リアルタイム化

IoT(Internet of Things)とは、モノにセンサーや通信機能を取り付け、ネットワークを通じてデータを収集・利活用する技術です。

農業分野でもIoTの活用が進んでおり、生産物や農機にセンサー(センシングデバイス)を取り付け、農場管理に役立つセンシングデータや環境データを取得・活用しています。

山梨県の奥野田葡萄酒醸造株式会社(奥野田ワイナリー)の事例では、葡萄園に温度センサーや湿度センサーを設置し、気象データを10分間隔で取得して、生産物の品質管理に役立てています。[注5]

ブロックチェーン:農作物を追跡して品質管理を改善

アグリテックは農作業の現場だけでなく、安心安全なサプライチェーンの構築にも役立ちます。

サプライチェーンが複雑化・長大化しつつある中、生産品を追跡し、品質管理に欠かせないトレーサビリティ(追跡可能性)を高めるには、安全な通信技術が必要です。。

そこで注目を集めるのが、ビットコインなどの仮想通貨に使われるブロックチェーン(分散型台帳技術)です。

ブロックチェーン技術の活用により、複雑化したサプライチェーンの一元化を実現し、食の安全性の透明化を図ることができると期待されています。

オーストラリアのスタートアップが開発したAgriDigitalは、ブロックチェーン技術を応用した農作物取引システムです。[注7]

プラットフォーム上でのリアルタイム取引だけでなく、農作物をサプライチェーンの全プロセスにまたがって追跡できます。

アグリテックが日本農業の課題を解決する

上述のように、農業分野への最新テクノロジーの活用が、官民一体の取り組みとして推進されています。

農業人口の減少や高齢化が問題視される一方で、49歳以下の新規就農者は近年増加傾向にあります。

それに伴い、個人経営農家の法人化や、一般企業の農業参入により農業法人数は増加しているのです。

農林水産省や地方自治体などは、これらの新規参入を後押しするため、各種補助金の拡充を進めています。

たとえば、農業用ドローンやICT農機など、新たに機械や設備を導入する場合、「中小企業等経営強化法に基づく支援措置」による10%の法人税・所得税控除や、「生産性向上特別措置法に基づく支援措置」による固定資産税の減額が受けられます。[注8]

また、土壌改善のデータ活用を進める場合は、「スマート農業総合推進対策事業のうちデータ駆動型土づくり推進(土づくりイノベーションの実装加速化)」の補助金を利用できます。[注9]

こうした国の支援制度も手伝い、食料自給率の低下や農業就労人口の減少/高齢化といった課題解決のため、アグリテックの注目度はますます高まっていくでしょう。

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参照
[注1]農林水産省 スマート農業の展開について
[注2]農林水産省 日本の食料自給率
[注3]富士経済グループ 注目を集める“スマート農業”関連の市場を調査
[注4]株式会社セラク みどりモニタってなに?
[注5]株式会社富士通マーケティング 奥野田ワイナリーの挑戦:なぜヨーロッパのワイン産地とは対照的な山梨で高品質のワインが作れるのか?
[注6]Drones Planting Trees: An interview with BioCarbon Engineering – Impakter
[注7]AgriDigital – Platform Overview
[注8]農林水産省:農業経営に使える税制・融資・補助金について(2019年度版)
[注9]農林水産省 データ駆動型土づくり推進(土づくりイノベーションの実装加速化)に係る公募要領

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