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常識を疑え② 人口減少と「良いご先祖様」
前回「番外①」では、宇宙は有重力であることを一例として、常識を疑ってみることの重要性を書きました。そこで、今回は世界の人口について考えてみたいと思います。
人間の数
人間の数は、過去2000年でみると年率0.1%~0.2%、過去500年では年率0.5%程度、過去100年では年率1.5%で増加してきたと見積もられています。
国連の予想では、2100年に109億人と予想されていますが、前号でも登場いただいたスティーブン・ホーキング博士は、「地球の容量を超えるのも遠くない、火星に移住するしかない」と提言しました。
複利増加、指数増加。いずれにしても本質は同じ。
よく引用される逸話を一つ。
豊臣秀吉が家来「曾呂利新左衛門」(一説に、落語の創始者ともいわれます)に「褒美は何がよい。なんでも申せ」と聞きます。
とんちの効いた新左衛門は「1日目はコメ1粒で十分でございますので、2日目は2粒、3日目は4粒、4日目は8粒・・・と増やしていただけませんか?」。秀吉は、「わはは、謙虚な奴じゃ。承知したぞ」と答えます。
しかし、わずか30日後に10億粒になることに秀吉は気づき(100日後の粒数はまさに宇宙的数字で紙面からあふれ出します)、褒美を変えてもらったとのことです。
人間の数は指数増加ではなく、幾何級数的増加、複利的増加ですが、増え続けるという点で本質は同じです。
ネイピア数の神秘
話がそれますが、アインシュタインは「人類最大の発明は複利である」と述べています。
100万円を年利100%で預けると一年後に200万円になります。100%の半年複利では1年後に225万円になります。
では、これを1か月複利、1日複利、1秒複利・・・と短縮していくとどうなるでしょうか?
無限複利にすると1年後に100万円は271.828…万円となります。この倍率2.71818・・・をネイピア数と呼びます。
我々が数学で習う「e」です。この「e」は、「π」(円周率)、「i」(虚数)と並び、最も神秘的な数字です。
そして、この三つの神秘(とゼロと1という基礎的数字)にはe(iπ)-1=0の関係があることを示したのが天才数学者オイラーで、最も美しい数式と言ってよいでしょう。(ネイピア数は、オイラー数とも呼ばれます)
不自然なグラフと自然なグラフ
閑話休題。
人口の推移を表すと図1のようなグラフになります。維持不可能で不自然なグラフです。
自然なグラフとは、図2や図3なのです。もしくは、世界人口は100億人ぐらいで安定するとみるのが現実的かもしれず、これはいわゆるロジスティック曲線(図4)になります。
確かに、人口減少は国力(世界力)の減少であり、50年、100年でみれば辛い事でしょう。
しかし、1000年、1万年でみればむしろ良い事でしょう。
80億人は、仮に0.1%成長でも1000年たつと280億人、0.2%成長だと590億人になってしまうのです。
人間中心:動物からみたら・・・
人間はわずか2000年前の2~4億人から80億人に至る過程において、森林を焼き、氷河を溶かし、大気を汚染してきました。
もし、これほど急激に増加する他の生物があるとしたら、人間は間違いなくその生物を間引くことでしょう。
「〇〇の急激な増加は生態系に悪影響を与える」、と。
人間一人が一生に消費するエネルギーは、示唆に富む良書「ゾウの時間、ネズミの時間」(本川達雄氏、中公新書)によれば、15億ジュール、灯油4万リットルに相当するそうです。
そして、そのエネルギー量は年々増加していることでしょう。
人間は牛のげっぷが環境汚染と言いますが、牛からみたら冗談もほどほどにしてね、と言ったところでしょう。
身近なところでは感染症下のマスクにも思います。
仮に世界人口80億人がマスクを毎日使い捨てしたとしたら、年間で2.5兆枚です。他の生物からしてみたら、「私たちはマスクをできない。感染症がおきれば自然淘汰されるのに」と思うことでしょう。マスクは人間を救い、地球を壊していることになります。
時間の概念:良いおばあちゃんおじいちゃん
英国の作家G・K・チェスタトンは「今たまたま生きているだけで、今の人間が投票権を独占することは寡頭政治以外のなにものでもない」「伝統とは選挙権の時間的拡大である」と書いています。
一方、ローマン・クルツナリック氏「グッド・アンセスター」(あすなろ出版)には、はっとさせられる図表が載っています(素晴らしい書なだけに、原題そのままのタイトルが本当に残念。海外映画のタイトルは原題よりも日本語タイトルのほうが洒落ていると言われることがあるように、編集者さんには再考いただきたいものです)。
その図表とは、以下の3つの数字を示したものです。
死者(過去5万年に生を享けた人間)1000億人、生者(今を生きる人)77億人、未者(今後5万年で生まれるであろう人間)6.75兆人。
チェスタトンには過去から現在、クルツナリックには現在から未来へ、それぞれ時間の概念があります。
同じく、クルルナリックの本ではこんな一文が紹介されています――
現在の喜びではなく、子孫まで使われること、永遠に使われることを想定して建物やインフラを整備することを「大聖堂思考」とよびます。
大聖堂思考の一例として、この本では伊勢神宮の式年遷宮や徳川家による植林が紹介されていることも誇らしい。
柳田国男「先祖の話」には、かつて日本に『御先祖になる』という美しい言葉があったことが紹介されています。
クルツナリック氏よりも前に日本の伝統的価値観はその良識に達しているのです。
株式会社においても
株式会社は優れた仕組みであることは論を俟たないのですが、時間の概念を加える必要を感じます。
昨今の巨大電機企業における混乱は誠に悲しいことです。
「経済を見る眼」(伊丹敬之氏、東洋経済新報社)で、長期的視野で将来の経済的果実を生むことを目指す「投資」と、短期の売買差益の利ざやのみを求める「投機」の違いについて触れていたことを思い出しました。
筆者は、ある高収益企業の社長との議論のなかで、(少なくとも売買が容易な上場企業においては)保有期間に連動して議決権が高まる株式があってもよいのではないかと申し上げたところ、「まさにその通り、ある証券会社に提案したがなしのつぶてであった」とのことでした。
質的な成長に転換を
適正な人口で森羅万象と共存することこそ正しいことです(いうまでもなく無理に減らせということではありません)。
人数は減るけれども一人一人はもっと豊かになる。そんな世界を目指すべきであり、人口減少は(1000年単位でみれば)歓迎されるべきことでしょう。
日本は人口減少を世界のなかでもいち早く迎えます。人口減少において、日本は先駆者かもしれません。
もちろん先駆者は厳しく、茨の道を切り開く必要があります。
しかしながら、量的拡大は維持不可能なのです。
自然な減少を寧ろ歓迎して、質的な成長に転換すべきでしょう。
▼村上春樹さんから学ぶ経営(シリーズ通してお読み下さい)
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