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分散型電源の時代は来るか? カーボンニュートラルに向けた大転換
岸田政権下において、第6次エネルギー基本計画が閣議決定された。2030年のCO2の46%削減(2013年対比)、2050年カーボンニュートラルの実現が、日本の達成すべき目標として明確になった。再生可能エネルギー電源の大幅増加が不可欠となったが、そのためには大規模な発電施設に頼っていた電力網を、安定供給可能な範囲内で分散型電源に切り替えていく、発想の大転換が必要だ。
分散型電源の時代へ
分散型電源とは、電気の需要家である法人や個人の所有エリアや近隣エリアに分散して配置される小規模な発電設備のことを言う。これは、従来からわが国の電力需給システムの主流であった電力会社による大規模な集中的発電設備に対峙する概念であり、需要家の自家消費をメインとしつつも余剰電力の販売も行う小規模発電設備だ。
例えば、個人住宅の屋根、マンションやビルの屋上、企業の事業所の屋上や敷地内に太陽光パネルと蓄電池を設置し、発電を行う場合がまず想定される。
また、需要家である地域全体のために、太陽光発電、バイオマス発電や地熱発電を行うスマートシティ等も実証実験も全国各地で行われている。ここでは、IOTを活用した高度なエネルギーマネジメント技術によりこれらを束ね(アグリゲーション)、遠隔・統合制御することで、電力の需給バランス調整に活用することが重要となる。
主な分散型電源
電力自由化の影響
分散型電源の議論の背景は、カーボンニュートラルに加え、忘れてはならないのは電力自由化の影響だ。
従前の電力制度においては、電気料金が「総括原価方式」により定められていた。これは、電気を安定的に供給するために必要であると見込まれる費用に利潤を加えた額(総原価等)と電気料金収入が等しくなるように電気料金が設定される制度だ。
この制度下だと、電力会社は電気の安定供給のために、コストをかけて大容量の設備(発電所等)を設置するインセンティブが働きやすい。そのため、電力料金が高止まりすることになる。
このため、異業種の電力業界(小売・発電等)への参入を促し、発電に伴う卸電気料金や小売電気料金の設定を自由にして、競争環境に晒す制度が電力自由化だ。
日本の電力自由化は、電気事業を「発電部門(電気を作る)」「小売部門(電気を売る)」「送配電部門(電気を送る)」に分け、段階的に進められてきた。
最初に自由化されたのは発電部門。その後小売部門の自由化が順次進められ、2016年4月から電力小売の全面自由化が実施された。これによって、「低圧」区分にある家庭や商店などにおいても電力会社が自由に選べるようになった。
電力自由化後の料金の決め方
電力自由化後において、小売事業者が定める料金は、図①の通り事業者の裁量で算定される費目(燃料費、修繕費、減価償却費、購入電力料、人件費等)と、法令等により算定される費目(託送料金、税金、再生可能エネルギー発電促進賦課金等)の合計となる(※)。
※消費者保護のため、競争が十分に進展するまでの間、全国すべての地域において規制部門の電気料金(経過措置料金)は存続している。
このうち、事業者の裁量で算定される費用如何によって、電力小売事業者が電気料金を自由に設定することができる。
電力自由化後は、小売事業者間の競争の激化により、自社の利潤を確保するため、いかに「裁量費用」を安価に設定できるかの争いとなっている。
加えて、電力自由化に晒されて経営環境が厳しい電力会社は、電力収入以外の収入の道を増やしていくことも戦略上重要となってきている。
大規模設備から適正な規模に
電力自由化後では、電力会社が、常時一定の利潤の確保ができた「総括原価方式」の時代は大きく一変し、省エネルギーとともに、電力にかかる諸費用をいかにミニマイズできるかが重要だ。
図①からも明らかの通り、総括原価主義の下では、電力料金収入自体が、コスト及び事業報酬の計算結果として算定されていた。しかし、電力自由化の下では、他業界の事業者と同様に、電力料金収入等からコストを控除した結果が、事業者が収受する事業利益となっている。
各電気事業者は大型の発電設備ではなく、需要に見合った規模、需要と供給の効率的なバランスを主眼において、発電設備を設置することになった。
何故なら、総括原価主義では過大な発電設備を設置しても、コストの回収が保証されていた。自由化後は、安定供給の役割を維持しつつも、需要に応じた効率的な供給体制を構築する経営方針に変わらざるを得なくなったのである。
よって、需要家が太陽光発電など自家消費目的の電源を求めるのであれば、電気事業者としてもその設置するサポートをする必要がある。顧客の需要に合わせて柔軟に、電力供給の調整や余剰電力の購入を行うことで、効率的な系統(送電網)の運用を行うことが必要となってきている。
カーボンニュートラルに関する政府の政策
第6次エネルギー基本計画では、既に述べた通り、2050年カーボンニュートラルの実現、2030年のCO2の46%削減(2013年対比)を目指すため、再生可能エネルギーの構成比率を現在(2019年)の18%から2030年には36%~38%になることを目標に置いている(図②参照)。
チャレンジングな目標値
2019年及び2030年の電源構成図を対比してみると、再エネは、ほぼ2030年で倍増。原子力も再稼働がほぼできる前提で3.5倍増となっている。
現状からすると、チャレンジングな目標値となっている。その結果、化石燃料電源の構成比は、2019年の76%から約41%にまで大幅に減少している。
加えて、重要なことは、上記の前提が、大胆な省エネルギーの目標の達成を前提としていることだ(省エネ前の最終消費約3億5000万㎘に対し▲約6200万㎘エネルギー削減)。これが実現可能かどうかの検証は、今後の課題であろう。
再生可能エネルギーを倍増
再生可能エネルギーの倍増をどのようにして達成するかが大きな課題であるが、それを検討するうえで、下図3の再生可能エネルギー構成比を見てみる。
再生可能エネルギーの発電量がほぼ倍増となっていることを考慮した場合、2030年の太陽光発電とバイオマス発電は、再生可能エネルギー全体の増加割合と同様に倍増が想定されている。
また、風力発電は、陸上風力発電に加えて、洋上風力発電が2030年までの間に新たに立ち上がることを前提に約7倍増となっている。これらが達成可能かどうかは2030年の総発電量に占める再生可能エネルギー電源の36%~38%を達成するための大きな鍵だ。
分散型電源の到来とメリット
再生可能エネルギーの大幅な増加を考える場合、これまでは、大規模太陽光発電所(メガソーラー)、陸上・洋上風力発電及びダム等の水力発電所のように、比較的大規模な発電所の設置が想定されていた。
しかしながら、太陽光発電も風力発電も諸外国と比較して日本ではなかなか残された好立地が少ない点が課題であり、また新規のダム等の水力発電所の設置はほぼ見込めない状況となっている。
このような中で注目されたのが、分散型電源という考え方だ。
分散型電源のメリットには様々なメリットがあるが、それを整理すると、以下の通りとなる。
1 CO2削減への貢献
再生可能エネルギー電源による小規模設備の発電は、太陽光発電や風力発電等で大規模発電設備の立地が少ない中、カーボンニュートラルへの貢献策として重要である。
2 BCP的観点及び防災的観点
台風、地震等の災害時には停電が生じる場合が多いが、そのような場合でも、当該需要家エリアで発電が可能な分散型電源は、非常用電源として利用できる。これは、企業において近時重視されているBCP(事業継続計画)的観点、そして個人の防災的観点からも大変重要な要素となる。2020年10月も、首都圏(千葉県等)で直下型の比較的大きい地震(震度5強)があったが、今後30年以内に首都直下型地震が起きる可能性は高いと言われている中、このBCP的観点若しくは防災的観点は重要だ。
3 送電ロスの少なさ
分散型電源の場合、需要家エリアに隣接して発電することができる。そのため送電ロスが少なく、大規模な送電設備も不要であるため、この面ではコスト減となる。
4 経済的観点(経済性、安定性)
近時、化石燃料(石炭、LNG、石油)の値段の上昇が生じている。燃料価格の変動によってコストが増減する化石燃料電源よりは、再生可能エネルギーを中心とした分散型電源の方が、コスト面で安定しており優位性がある場合も多い。
以上のことから、環境負荷の低減やBCP的・防災的観点を考えると、需要家による自己消費を前提とした分散型電源時代の到来は容易に想定されよう。
分散型電源の到来とメリット
分散型電源時代の課題は、主として、各所の電源間を繋ぐ送電網(電力系統)において生じる課題である。太陽光発電や風力発電等は、気象条件によって発電量が大きく変動することから、このような分散型電源の大量導入によって、電力系統の需給バランスや電力品質等の面において、影響が生じる。
電力供給を行う場合、送電網を保有する電力会社が各発電所の発電量を制御し、常に需要と供給を一致させるよう運用しなければならない。
余剰電力の問題
再生可能エネルギーの分散型電源は、前述した通り気象条件等によって発電量が変動する。それが、需要と供給がアンマッチとなることにより余剰電力が生じる。
例えば、需要が比較的少ない春や秋の週末の昼間において、晴天が続き太陽光発電による電気が大量に発生すると、電気が大幅に余るのである。そして、港湾地域など大規模発電所の集中する発電エリアで発電された電力は、送電線を通って大都市部など需要家の集中する需要家エリアに送電される。
このような発電エリアに、太陽光や風力といった分散型電源が新設されて余剰電力が発生すると、送電線設備の容量を超過し送電線を使用できない状況が生まれてしまうのである。
また、電力系統の周波数(Hz、ヘルツで表される)は、電力会社と発電事業者が連係して瞬時の需給をバランスさせることで維持されている。太陽光発電や風力発電によって大量発電がなされると、周波数の調整が困難となるリスクが生じる。
このような電力系統の問題を、分散型電源時代の到来とともに解決していくことが送配電事業者である電力会社に求められるのである。
大きな環境変化を経て
これまで述べてきた通り、電力自由化とカーボンニュートラルという二つの大きな制度変更は、電力業界に大きな環境変化を生んだ。
従来の大規模な発電設備によって大量に発電した電気を、広範に張り巡らした送電網を使って各需要家に届ける時代は終わり、各需要家のエリアに設置された小規模な発電設備及び蓄電池によって電力を自家消費し、余剰が生じた場合には電力を販売するといった方向へ変化をもたらしたのである。
大きく変わった需要家の関心
このような変化の背景にある需要家の関心の変化も見逃せない。電気の安定供給と経済性という観点が従前は重視されていた。その点に加えて、脱炭素そして防災的観点をも重視する時代に少しずつマインドが変わりつつある。
企業は、このような変化を捉えて、大きなビジネスチャンスを掴んでいくことが可能と思われる。
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