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時価総額とは?流動株式時価総額についても解説
時価総額は、企業価値を評価する重要な指標の1つです。日本経済の動向を見る上で重要となる株価やTOPIXにも関係しています。時価総額について、東京証券取引所の再編で注目されている流動株式時価総額とともに解説します。
時価総額とは?
時価総額は株価の総額を表しており、上場企業の場合は「株価×発行済株式数」という式から算出できます。企業の価値や規模を評価する指標の1つです。時価総額が上がることで、株主や市場からの信頼を得てより多くの資金を調達し、事業拡大などを行うことで企業価値の向上につながります。
時価総額と企業価値の違い
企業価値とは、株主や債権者などに対する企業の価値です。企業価値は「時価総額(株価×発行済株式数)+負債の価値」であるため、時価総額は企業価値の一部ということになります。無借金経営を行っていて負債が存在しない企業の場合は、時価総額と企業価値は一致していることにも注意が必要です。
時価総額の活用例
経営者や投資家にとって重要となる時価総額ですが、様々な場面で活用できます。ここでは、代表的な活用例を確認していきましょう。
業界内での企業の比較
業界内の企業を時価総額で比較すると、業界への理解を深められます。例えば、2021年1月時点では大手自動車メーカーの時価総額はトヨタが圧倒的で、2番手であるホンダの3倍以上の時価総額を誇っています。また、3大メガバンクといわれることが多い大手銀行の中でも、2021年1月時点で三菱UFJフィナンシャル・グループの時価総額が特に高く、業界内でも存在感があります。このように、売上高などから抱いている企業のイメージと時価総額から分析した実際の企業価値には大きな差があることがわかります。
<参考>
自動車業界 : 銘柄一覧 : 日経会社情報DIGITAL : 日経電子版
銀行業界 : 銘柄一覧 : 日経会社情報DIGITAL : 日経電子
国際間での企業の比較
時価総額の特徴として、国際間でも企業を比較できる点が挙げられます。国内での比較だけでなく、グローバルな視点での比較をする場合に活用してみましょう。例えば日本のEC業界の中で大きな存在感のある世界最大手のAmazonと日本最大手の楽天の時価総額を比較すると前者が1兆5000億ドル(日本円で約150兆円前後)、後者が約1.5兆円と、2020~2021年時点で大きな差があります。このように、世界時価総額ランキングの推移などをチェックするとビジネストレンドを把握することが可能です。
<参考>
Amazon、株価3000ドル超え 時価総額もApple猛追 (写真=AP) :日本経済新聞
4755 楽天 | 企業情報FISCO
M&Aでの参考指標
M&Aの中で、買い手側と売り手側で買収価格を決定する際の一つの指標となるのが時価総額です。株式譲渡によるM&Aを行う場合、株式から算出することができる時価総額は買収価格のベースを決める重要な指標となります。また、株式の譲渡以外の方法でM&Aが行われる場合でも時価総額は重要です。例えば、合併により消滅する企業の株主に、株式ではなく現金を交付するスクイーズ・アウトの場合、交付する額を決める際に売り手企業の時価総額を参考にすることがあります。
株価の分析
株価の分析にも時価総額は活用可能です。「時価総額÷純利益」または「株価÷一株当たり利益」で算出する「PER(株価収益率)」などの指標と合わせてチェックすると、株価の分析ができるようになります。また、代表的な株価指数として有名なTOPIX(東証株価指数)は、東証一部上場企業の全銘柄の時価総額を合計して算出する指数です。日経平均株価の変動やTOPIXの変動は日本経済の動向を表しています。
時価総額を確認する際の注意点
様々な場面で活用できる時価総額ですが、確認する際にいくつか注意しなければならないポイントがあります。
注意点➀ 新株、優先株を発行しているかどうか
企業の時価総額が過去のデータよりも大きくなっている場合、企業が成長して時価総額が大きくなっているケースと、新株や優先株の発行により時価総額が大きくなっているケースがあります。
新株を大量に発行すると発行済株式数が増えて時価総額は上がるため、株価の動向も合わせてチェックしましょう。また、株式には普通株式だけでなく、優先株式や劣後株式などいくつかの種類があります。一定の利益を確保できるものの流動性が低い優先株式については、企業の自己資本比率を上げるために発行している可能性があります。
優先株式を発行している企業の場合は優先株式の分も時価総額に含める必要があり、普通株式のみを発行している企業と同条件で評価できないため注意が必要です。企業が発行している株式の情報は有価証券報告書から見ることができるため、確認してみましょう。
注意点➁ 未上場企業の場合は算出方法が複雑
上場企業の時価総額については証券市場で取引されている株価から算出できます。しかし、未上場企業の場合、株式が証券市場で売買されていないため時価総額の算出も困難です。資産や負債、収益性、キャッシュフローなどの様々な要素を指標とした評価により算定します。近年、起業してから10年未満で未上場でありながら企業の評価額が10億ドル以上であるユニコーン企業の存在感も大きくなっており、未上場でありながら勢いのあるベンチャー企業が増えてきています。
東京証券取引所市場再編と流動株式時価総額
2020年12月、東京証券取引所は、東証一部、東証二部、マザーズ、JASDAQで構成されている現在の市場区分を廃止し、プライム、スタンダード、グロース(いずれも仮称)という3つの市場に再編することを発表しました。再編にあたって、新たな上場基準の中で使われている「流通株式時価総額」という言葉が注目されています。ここでは、単なる時価総額とは何が違うのか見ていきましょう。
流通株式時価総額とは
流通株式時価総額とは、企業が発行する株式の中でも、流動性が高いと判断される株式の価値のことです。「株価×流通株式数」で算出できます。なお、再編後の最上位市場であるプライムの上場条件は流通株式時価総額が100億円以上となっています。
時価総額と流動株式時価総額の違い
時価総額を求める際に使われる発行済株式数とは、企業が発行している全株式数のことを指します。一方、流動株式時価総額の算出で使う流通株式数は、以下の計算式で求めることができます。
流通株式数は有価証券報告書で公開されている情報から計算できるため、気になる方は確認してみましょう。
時価総額を正しく理解して活用する
時価総額は、企業価値を評価する上で重要な数値であり、様々な活用方法があります。しかし、現在日本でも増えてきている未上場のベンチャー企業などの時価総額の算定については、代表的なアプローチはいくつか存在しますが明確に定められた計算方法はありません。
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