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コロナ時代における大企業の経営改革 ターンアラウンド(企業再生)のノウハウを活用 ㊥再生企業におけるターンアラウンド
コロナウイルスの影響長期化にともない、多くの大企業がビジネスモデルの転換や改革を迫られている。㊥では、再生企業におけるターンアラウンドの手法について、詳しく解説する。
事業再生におけるターンアラウンドでの経営改革
事業再生の場合、ターンアラウンドをどのように行うかについては、当社が既に執筆した「ターンアラウンドマネージャーの実務」(商事法務・2015年10月20日刊行)に詳細を記載しているが、そのポイントは概ね次の通りである。
1 意識改革
再生会社は、そもそも現状のままで推移すると会社が倒産する危機にあるので、会社全体で危機感を共有することが出発点である。そして、ターンアラウンドの担い手である新経営者は、経営責任のある旧経営陣から交代した者であり、内部からの登用する場合もあるが、外部から招聘される場合が多い。
このような場合、ターンアラウンドの序盤で行われる意識改革においては、以下の施策が実施される。
① 危機感の共有(行動しなければ明日はない)と一体感の醸成(危機時には会
社が一丸となって協力体制を構築)
② 過去の失敗の原因を除去、及び過去の否定(旧経営者時代にはできなかった
過去の失敗を直視することが重要)
③ 再生会社を新しい会社として実質的動かしていくために必要な柔軟な思考
(過去の経済的、心理的なしがらみを捨て、自由な思考を行う中で答えを
発見)
④ 経営改革をやり遂げるための積極的行動(挑戦しない人よりも、挑戦して失
敗する人の方を称賛する)
ここでは、再生企業であることを逆手にとって危機感を醸成し、全てを前向きな活動のためのエネルギーに変えていくことが重要であり、新経営者は社員に対し、このような趣旨による働きかけを頻繁に行う。
2ビジネス改革
① 構造改革
不採算な事業や店舗等からの撤退と各種コスト削減を実施する。その他、業務の効率化を図り、必要に応じて人員削減等を実施する。これによって固定費を削減し、損益分岐点売上高を下げることを目指す。
② 営業改革
収益性の観点から商品・サービス内容を見直す。それとともに、自社の商品・サービスの強みを再認識し、経営資源の投入を行って攻める分野とそうでない分野を選別する。攻める分野の営業に集中的に人材や資金を投入し、営業のPDCAが回るようモニタリングしていく。
③ 組織改革
ターンアラウンド期間中は、中央集権的に組織を動かす。指揮命令が機能するよう、新しい経営者が直接管轄する組織(取締役会、経営会議、経営企画部、社長室など)に権限を集中させる。中核的部署に各事業部から精鋭の中堅社員を集め、プロジェクト的に会社の経営課題を議論し、今後の生成計画のアクションプランを策定する。
なお、再生が軌道に乗ってきた段階では、集中した権限を分散し、部署ごとに自律的な権限行使ができるように戻していく。
④ ビジネスポートフォリオ改革
複数の事業を行う再生会社の場合は、ビジネスポートフォリオをどのように整備していくか、が重要となる。かつては、「選択と集中」という言葉が事業再生において頻繁に使用されていた。確かに、コア事業が属している産業が成長産業であり、コア事業に集中していけば継続的に利益を上げられる企業の場合は、コア事業に「集中」する戦略も妥当する。しかしながら、現在のように変化が激しい経営環境の場合、現在利益を出しているコア事業であっても、5年後までそのような状況が継続する保証はない。
一方で、現在利益を出していない事業又は赤字事業であっても、その後の経営努力次第で十分な水準まで収益化できる可能性はある。不振事業であっても、再生計画に基づいて収益化できる可能性が十分にある事業の場合には、直ちに撤退する必要性はない。
再生計画策定段階では徹底の可否を決めずに、収益化の可能性と今後の成長可能性を一定期間見極め、その間一定の経営努力をした上で撤退するかどうかの判断をする考え方もある。
ポートフォリオ構成でリスク分散を
コロナ時代になって明らかに言えることは、一つの大きな経済環境の変化で、会社の全ての事業が同時に悪影響を受けるような事業ポートフォリオ構成は好ましくない、ということである。将来の経済環境の変化の可能性を想定した上で、適切に事業リスクが分散されるようなポートフォリオ構成が望ましい。
次回㊦は、大企業におけるターンアラウンドの具体的な手法を紹介する
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コロナ時代における大企業の経営改革 ターンアラウンド(企業再生)のノウハウを活用 ㊤改革阻む縦割り組織
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