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EVへの移行とエンジン部品の今(13)ターボチャージャー
電気自動車(EV)では不要となる、エンジン車特有の部品事業を取り上げる本連載。13回目はターボチャージャーを取り上げる。ターボチャージャーは、エンジンに送る空気を圧縮する「過給」装置の一種で、エンジンの出力を上げる機能を持つ。重工系の4大メーカーによる寡占市場である。参入障壁が高いのも特徴だ。
▼EVへの移行とエンジン部品の今(シリーズ通してお読み下さい)
「EVへの移行とエンジン部品の今」シリーズ
排気量を維持しつつ、出力を上げる構造
ターボチャージャーの構造を簡単に表現すると、1本の軸の両端に羽根車がついたもの。エンジンから排出されるガスを利用して一方の羽根車を回転させる。その回転が伝えられたもう一方の羽根車によって、吸気(エンジンに入る空気)を圧縮する。
ターボチャージャーがない「自然吸気」と比べ、エンジンの燃焼に多くの混合気(燃料と空気が混ざったもの)を使えるので、同じ排気量でありながら、出力を上げられる。
ディーゼルエンジンではターボチャージャーは必ず搭載され、ガソリンエンジンでも、エンジンシリンダー内部に直接燃料を噴射する「直噴型」で搭載されることが多い。スポーツカーでは「ツインターボ」など複数のターボが搭載されることもあるが、車一台につき一個搭載されるのが普通だ。
環境対応技術として再普及、ガソリンエンジン車の市場も拡大
日本では1980年代にターボエンジンのブームが起きたが、当時のターボチャージャーは単に出力アップの手段として使われていた。2000年ころからは、環境対応技術として、出力を上げてエンジンを小型化する「ダウンサイジングターボ」として、欧州を皮切りに各地で普及した。
2015年に発覚した独フォルクスワーゲンによる排ガス不正問題を受けて、ターボチャージャーの主要市場である欧州ディーゼルエンジン車の販売は停滞する。しかしガソリンエンジン車向けのターボチャージャーが拡大し、2021年のターボチャージャー世界市場は販売量にして約3,700万個、金額にして約8,100億円にまで成長した。
4大メーカーによる寡占市場

出典:富士キメラ総研「2023脱炭素社会に向けた自動車部品市場の将来展望」
上図は2021年のターボチャージャーの世界シェアである。米ボルグワーナー(2024年度売上高約2.1兆円、うちターボ&熱技術セグメントは同約9,000億円)、スイスのギャレットモーション(同約5,300億円)の海外メーカーと、三菱重工業子会社の三菱重工エンジン&ターボチャージャ(単体同約1,300億円)、IHI(同約1.6兆円、うち車両過給機事業は同約2,100億円)の日本勢を加えた4社の寡占となっている。
ほとんどの自動車メーカーは上記4社のいずれかからターボを調達しているが、トヨタ自動車は高級ブランド「レクサス」など一部車種で内製ターボを搭載したり、グループ会社の豊田自動織機製を採用したりしている。
航空機・造船をルーツとする高い参入障壁
ターボチャージャーは参入障壁が高いことで知られる。高度な流体解析技術や優れた耐久性と耐熱性を持つ材料、構造設計など技術的な難易度が高い上に、エンジンを開発する自動車メーカーと緊密な連携が必要で、長年で培った信頼関係が事業の基盤となる。
また、主要プレーヤーの出自が航空機部品や造船であることも特徴だ。ギャレットモーションの1936年創業時の製品は、航空機向けターボチャージャーの関連部品「インタークーラー」である。この技術を生かして自動車のターボチャージャーへと事業を広げた。
三菱重工業は1927年に、船用エンジンに搭載するため独MANからターボチャージャーを輸入し、その後間もなくして同社横浜造船所において国産化が始まった。1951年には、石川島芝浦タービンが船用エンジン向けに提供している。同社は現在のIHIである東京石川島造船所と、現在の東芝にあたる芝浦製作所が共同出資して設立した会社だ。
ボルグワーナーのターボチャージャー事業は1996年に買収した独Kühnle, Kopp & Kausch(KKK)などが母体であり、KKKは発電所の蒸気タービンなどを主力としていた。重工業をルーツとした高い技術がその他プレーヤーの新規参入を阻んでいる。なおギャレットモーションは米複合企業のハネウェルが1999年に買収したが、2018年に分離・独立した。
2008年、それまでターボを手がけていなかった自動車部品世界最大手の独ボッシュ(売上高約15兆円)が、同業の独マーレ(同約2.1兆円)と組んでターボ会社を設立したが、4強の牙城を崩すことなく、2017年に香港系投資会社に売却した。ちなみにボッシュの祖業は精密機器と電気技術作業、マーレの祖業はエンジンピストンである。
EVシフトでの減速、HVの新規開発案件も
ターボチャージャーが不要となるEVが普及すればターボチャージャーの市場は縮小する。一時下火となったが、昨今のEV普及の減速を受けて、欧米の自動車メーカーによるハイブリッド車(HV)やプラグインハイブリッド車(PHV)向けのターボチャージャーの新規開発案件も出ているという。
中国ではPHV向けの需要拡大も期待できる。ターボチャージャー各社は、HVやPHVに対応しつつ、燃料電池車(FCV)や水素エンジン用など次世代技術の開発を進めて、生き残りを図っている。
参考文献
富士キメラ総研「2021 ワールドワイド自動車部品マーケティング便覧」
「改定新版 最新オールカラー 車のメカニズム」青山元男著(ナツメ社)
「ターボチャージャーの性能と設計」浅妻金平著(グランプリ出版)
「海に陸にそして宇宙へ2(沿革-昭和から平成へ)三菱重工業社史」三菱重工業株式会社社史編さん委員会
2018/10/06 週刊ダイヤモンド「News(3)Inside EV隆盛でもガソリン車部品に注力 重工2社のターボ強気計画」 15ページ
2018/01/20 日刊工業新聞ニュースイッチ「中国は内燃機関を諦めていない」 ひそかに話題を集めたM&A
2008/03/12 日経産業新聞 「燃費改善の本命ガソリン車革命に挑む(下)部品、新技術発掘急ぐ。」14ページ
Garrett Motion 会社概要
車両過給機は脱炭素に商機あり…世界大手の一角、IHI・三菱重工系の戦略を追う|ニュースイッチ by 日刊工業新聞社
2024/07/25 NIKKEI Mobility「三菱重工、狙う欧米ターボ市場 HV・PHV復権が追い風」
ターボチャージャの累計販売台数1億台を達成 | 株式会社IHI
ECM – KK&K
2011/12/02 日刊工業新聞「独ボッシュとマーレ、16年めど過給機年産300万台に引き上げ」



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