スタートアップがスケールしない根本的課題とFMIのソリューション

日本国内のスタートアップ*1向け投資は2022年に1兆円に迫る規模となり、その後も一定規模を維持しています。一方で、評価額10億ドル以上の未上場企業であるユニコーン数はアメリカの10分の1以下と今後の成長・スケールアップが期待されている分野です。

スタートアップの現場で日々、壁打ちや支援を行っていると、「投資が集まらない」「優秀人材が集まらない」「事業が大きくならない」「投資回収ができない」、だから投資が集まらない、という負の循環をよく聞きます。こうした課題を背景に、経済産業省によるスタートアップ育成5カ年計画をベースとした各種支援も始まっています。

そのような環境下、2002年に理工系大学生・大学院生15名が集まって設立し、現在は世界のディープテック領域5000チーム超とのネットワークを築き、創業と共創の場を創出し続けているリバネスの代表取締役社長CCOである井上浄氏にスタートアップがスケールしない根本的課題についてお話をお伺いします。

*1:革新的なビジネスモデルを有し、短期間での急成長を目指す企業を指す

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話し手:井上浄氏
博士(薬学)、薬剤師。2002年、大学院在学中に理工系大学生・大学院生のみでリバネスを設立。博士課程を修了後、北里大学理学部助教および講師、京都大学大学院医学研究科助教、慶應義塾大学特任准教授を経て、2018年より熊本大学薬学部先端薬学教授、慶應義塾大学薬学部客員教授に就任・兼務。研究開発を行いながら、大学・研究機関との共同研究事業の立ち上げや研究所設立の支援などに携わる研究者であり経営者。
北里大学薬学部客員教授、武蔵野大学アントレプレナーシップ学部客員教授、経済産業省産業構造審議会委員、文部科学省技術専門審査員、JST START-大学推進型およびスタートアップ・エコシステム形成支援委員会委員などを務めるとともに、多くのベンチャー企業の立ち上げにも携わり顧問を務める。

聞き手:(プリンシパル・マネジメント部門)仁平洋亮 シニア・ディレクター、大西由莉 アソシエイト・ディレクター、洪錫珍 ジュニア・アソシエイト

リバネスから見た日本のスタートアップ

リバネスから見た日本のスタートアップ

仁平:御社(リバネス)は理工系大学生・大学院生が集まり中高生向けの理科実験教室から始まり、現在は国内外でのディープテックを中心とした大企業との協業支援、学会運営、人材教育、さらにはスタートアップ向け投資まで手掛けられています。個人の主観ですが日本で最もディープテックベンチャーとのネットワークを有する会社はリバネスだと思っており、リバネスが感じる日本のスタートアップについての動向を教えてください。

井上:大変光栄です。かれこれ23年間、教育事業から始まったリバネスは、2014年から大学でのシーズから創業、スタートアップの育成や協業、大企業へのバイアウトや株式公開(IPO)まで一貫してスタートアップの支援に関わってきました。2022年の経済産業省によるスタートアップ育成5カ年計画など、スタートアップ向けの支援は拡充しており、実際に多くのスタートアップが誕生しています。

ただ、我々が関わるスタートアップはソフトウェア(クラウド、SaaS、アプリケーション)領域というよりも、研究から生まれる基盤技術、フード、アグリ、バイオなどの領域です。ソフトウェア系スタートアップと異なり、取り扱うテーマが社会課題や地球課題解決といったものが多く、認知され収益化するまでの時間軸が非常に長いのが特徴です。

仁平:日本は世界と比べてユニコーンが少ない、スケールしにくい、と言われています。この観点でどう思われますか?

井上:お金は集まり始めており、国を挙げての支援もあり、実際に創業も増えている現状を考えるとスケールアップするのも時間の問題かと思います。ただ、創業してから事業化し、さらに拡大を担う経営人材が不足していることがスケールしない一要因、とは言えると思います。ディープテック系スタートアップは研究者が創業者となるケースが多いです。ただ、彼らはやはり研究が得意であって必ずしも経営が得意とは限りません。それゆえ成長のための経営人材が足りていません。

スタートアップの経営人材の課題と取り組み

スタートアップの経営人材の課題と取り組み

仁平:ここ10年ほど、スタートアップ・ベンチャーのCOOやCFOなどの経営陣としての求人が増えていますし、報酬水準が大企業と変わらないことも多くなってきました。実際にコンサルティング業界から転職される方も増えている印象で、一定の経験を積んだ30代、40代の方から「スタートアップ・ベンチャーで働きたい」という話もよく聞きます。明らかに過去と比べてスタートアップ・ベンチャーへの就業のハードルは下がっているように思いますがそれでもまだまだ不足している、ということでしょうか。

井上:はい、その通りです。確かに過去と比べて就業希望者は増えており、ハードルは下がっている、と感じます。ただ、経営や事業運営の経験とスキルをもつ方が、必ずしもスタートアップ・ベンチャーで求められている経営人材としてフィットするとも限りません。もちろんそれらのスキルは重要であり、求められるものではありますが、何よりも大事なのは互いの理解を深めるコミュニケーションです。

スタートアップ・ベンチャーでは「技術や研究のテーマがおもしろそうだから」という動機で参画すると、想定以外の業務に忙殺されたり、日々変わるタスクや役割に疲弊したりして残念ながら去ってしまう、というケースがあります。もちろんベンチャーの場合はステージによりますが、ディープテック系のスタートアップの経営という観点では、そうですね、「生命力のある人」が向いている、と感じます。

仁平:「生命力のある人」は確かにイメージがつきますね。0から1が起こり、1から10、いや0.1から1にしていくステージでは、とにかく信じて、這いつくばって、圧倒的な熱量をもって取り組まないと実現しえないと思っています。

自分は過去とある経営者から「熱がないから仕事を任せられない」と言われました。悔しくて自分は熱量あるぞと証明するために社外での事業活動や今回のリバネスさんとの協業に関しても自分から発信し推進している原動力になっています。少なくとも「熱がないと仕事を任せられない」、すなわち「熱がないと続かない」というのは正しいと思っています。経営を担う方々はみなさんそれがわかっていらっしゃる。同時にそういう熱がある人材が自社にいないことが経営者の方々の悩みでもあったりします。
スタートアップにこういった貴重な人材を流入させられる、そんな手段はないのでしょうか?

井上:あります。まず、自分も関わっていますが科学技術振興機構(JST)による「スタートアップ・エコシステム共創プログラム」という取り組みがあり、大学を中心とした全国の9つのプラットフォームの中で経営人材を募集する仕組みを構築しています。

しかし、これもスキルをもつ方が、必ずしもスタートアップ・ベンチャーで求められている経営人材としてマッチングしない現状があります。そのため、リバネスでは、特に創業期における経営人材の確保という点で「ベンチャービルダープログラム」という取り組みを進めています。事業化に距離のある技術シーズは対象にしづらいという課題や単なるやりたい・できそうのマッチングではない、「価値認識」をそろえるマインドセットが重要であるとの仮説を立て、プログラムを進めています。

大西:全国の自治体でもスタートアップ支援の取り組みが広がっています。Aという自治体では研究機関や金融機関・ベンチャーキャピタル(VC)に加え、会計士や税理士、中小企業診断士などのプロフェッショナル人材をスタートアップとマッチングすることでスタートアップの創出・成長を促す施策に取り組んでいました。

一方でBという自治体では充実したインキュベーション施設を提供し、その施設の中でスタートアップとプロフェッショナル人材や大手企業・VCなどの支援者がコミュニケーションを図れるイベントなどを実施しました。

何が起こったかというと、Aは効果が限定的で足踏み状態が続いている一方で、Bは新たなスタートアップの創出やオープンイノベーションの事例を多数生み出すことに成功したのです。Bが“場”ときっかけを提供したことで勝手に参加者同士のコミュニケーションが起こり、関係者同士の必要十分な相互理解が進んだのです。

井上:まさに相互の理解、コミュニケーションが全ての土台だったという事例ですね。一緒に事業を作るならば「気が合うか」に尽きるのかもしれません。

フロンティア・マネジメントの経営執行支援

フロンティア・マネジメントの経営執行支援

井上:スタートアップの経営人材不足は社会的な課題です。ですので、常に経営課題に対しての解決支援をしているフロンティア・マネジメントのみなさんに参画いただけると新しい生態系を創ることが出来るかもしれません。

仁平:フロンティア・マネジメントでは、クライアントやクライアントの投資先にCxO派遣を含む経営執行支援というサービスがあり、CEOを含めた経営執行の場へ累計150名超を送り込んできた実績があります。

経営執行支援を担う、我々プリンシパル・マネジメント部門には、事業会社の経営を経験してきたベテランだけではなく、若手でも経営執行に関わりたいという熱いメンバーが約100名集まっています。私自身も上場の老舗企業の役員として経営に関わる機会をいただきましたが、独特の文化や、知識・スキル・ロジックでは解決できない経営の難しさに直面し非常に苦労しました。この規模感で経営執行が可能な組織は多くなく、スタートアップ経営という観点でもお役に立てることがあると信じています。

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