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EVへの移行とエンジン部品の今(11)燃料ポンプ
電気自動車(EV)では不要となる、エンジン車特有の部品事業を取り上げる本連載。11回目は燃料ポンプを取り上げる。燃料ポンプは燃料タンクにあるガソリンなどの燃料をくみだしてエンジンに供給する。EVシフトに伴って市場縮小が見込まれる中でも、大型買収を実施し残存者利益の確保を図る、愛三工業に焦点を当てる。
▼EVへの移行とエンジン部品の今(シリーズ通してお読み下さい)
「EVへの移行とエンジン部品の今」シリーズ
愛三工業が世界トップシェア
燃料ポンプの世界市場は4,000億円前後とみられる。愛三工業(全社売上高3,372億円)の燃料ポンプ世界シェアは39%と、その他海外主要プレーヤーの独ボッシュ(同約15兆円)、コンチネンタル(同約7兆円)などを上回る。
国内市場規模は173億円(2022年)。以下図に示すように国内シェアは、愛三工業が76%を占め、三菱電機(2024年に自動車機器部門が分社・独立し現在三菱電機モビリティ、同社の全社売上高9,441億円)、Astemo(同2.2兆円)が続く。
国内では、愛三工業はほとんどの日本の自動車メーカーに供給しており、三菱電機はホンダ、マツダ、スズキなど、Astemoは日産自動車が主な供給先となっている。

デンソーの事業を買収、売上倍増
愛三工業は、2022年にデンソー(同7.2兆円)の燃料ポンプ事業を190億円で買収し、世界シェアトップとなった。愛三工業の燃料ポンプ事業の売上高は2021年度の739億円から、2024年度に1,758億円と急増し、燃料ポンプは全社売上高の5割に上る最主力製品だ。
EVシフトが進めば燃料ポンプ市場は縮小するが、シェアを拡大することで規模の効果を引き出し、収益を確保するのが狙いである。いわゆる「残存者利益」を取り込もうという動きだ。
トヨタグループ内で「寄せる」

「トヨタグループの中で、我々に寄せた方がグループ全体で競争力を出せるのであれば、それで良い。売り上げも利益も上がり、それを次世代製品の開発にも投入できる」と野村得之社長は2023年の新聞インタビューで語っている。
愛三工業もデンソーもトヨタ自動車系列のサプライヤーだ。当時、トヨタグループは、グループ内で最も競争力のある企業に事業を任せて効率化を図る「ホーム&アウェイ戦略」を打ち出しており、デンソーから愛三工業への燃料ポンプ事業集約はその一環だ。
(エンジン車関連部品とは異なるが、トヨタグループのアイシン〈同4.9兆円〉が自動車シート骨格部品事業をトヨタ紡織〈同2兆円〉に移したのもこの一環だ。一方で、デンソーが「スパークプラグ」と「排気センサー」事業を独立系の日本特殊陶業〈同6,529億円〉に売却し、「ラジエーターキャップ」を生産するニッパ〈同96億円〉の全保有株をファンドに売却するなどグループ外への譲渡も散見される)
工場や人員は「寄せず」固定費抑制
愛三工業は現在、デンソーの工場から自社の工場に燃料ポンプの生産を移管しており、2026年には9割の生産を自社工場で行えるようにする計画だ。「基本的に工場や人員をこちらに寄せず、生産設備を購入する形をとっており、固定費を多くかけずに収益を上げていく」(野村社長)といい、早期の収益貢献が期待される。

エンジン領域全体を手掛ける「システムサプライヤー」へ
2025年2月に発表した中期経営計画で、愛三工業はエンジン重視の姿勢をさらに鮮明にした。エンジン領域を最後まで支えるグローバルNo.1メーカーを目指して、「エンジンシステムサプライヤー」を打ち出した。
愛三工業は燃料ポンプのほかに、「EGRバルブ」「キャニスタ」「スロットルボデー」などエンジン車特有の部品をほかにも生産しているが、こうした部品を単体で供給するだけでなく、エンジンを制御する「ECU(Electronic Control Unit)」を含めたエンジンシステムの設計まで事業領域を広げる。そのためにM&Aやアライアンスを活用し、エンジン全体の知見やノウハウを獲得する方針だ。
EVシフトの対応も並行で

一方で、保有するプレス技術などを生かして、EV関連部品である車載電池のケースを開発し2026年に生産を始める計画で、EVシフトへの備えも進めている。
中期経営計画では、2030年の売上高目標として、エンジン車関連部品を含むパワートレイン事業で5,200億円(2024年比1.6倍)、電動化製品で300億円(同60倍)、計5,500億円(同1.7倍)に設定した。残存者利益確保と新規事業拡大の両輪で成長を図るという。
エンジン技術を日本全体で守る必要性
野村社長は「日本の強みであるエンジン関連技術を今後もある程度、持ち続けるには、日本全体で考えることも必要ではないか」と語っている。自動車を屋台骨とする日本の産業にとって重要な問いかけだ。愛三工業は多様なエンジン車関連部品を生産し、それぞれ一定のシェアを有しており、エンジン車関連部品再編でキープレーヤーになる可能性がある。トヨタグループに閉じることなく、日本の産業競争力の維持・強化という視座で再編に臨むことを期待したい。
参考文献
総合技研株式会社『2023年版 主要自動車部品255品目の国内における納入マトリックスの現状分析』
マークラインズ
読売新聞中部支社版 朝刊 10ページ『[この人に聞く]エンジン部品事業 今なぜ買収? 野村得之氏62=中部』(2023/08/26)
愛三工業株式会社 中期経営計画 2025-2030年
愛三工業、有価証券報告書
日本経済新聞電子版 『愛三工業、エンジンで生き残る 6年後に売上高6割増へ-中部企業 針路を聞く』(2025/03/27 00:00)
読売新聞中部支社版 朝刊 13ページ『愛三エンジン部品強化 野村社長 電動化投資の原資に=中部』(2024/02/17)
日刊自動車新聞 3ページ『連載「流転2025 部品トップインタビュー」(49)愛三工業 野村得之社長 エンジンシステムに領域拡大』(2025/04/04)
日刊自動車新聞 3ページ『連載「未踏をゆく 部品トップインタビュー2024」(31)愛三工業 野村得之社長』(2024/02/29)
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