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シェアド・リーダーシップとは?リーダーシップ論の変遷とともに解説~「経営人材」へのサプリメント■第1回〜
「リーダーシップ」に対する考え方が、近年変化している。多種多様なリーダーシップ論があふれているが、この記事ではチーム全体でリーダーシップを発揮するという「シェアド・リーダーシップ」を紹介する。
変化の時代に必要なシェアド・リーダーシップとは?
皆さんは「リーダーシップ」という言葉からどういうイメージを持たれるだろうか。一段上に立ったリーダーが指示をしたり、周囲を巻き込んだりしながら、部下を引っ張り牽引して先頭を走る姿をイメージする場合が多いのではないだろうか。あるいは一般の社員には関係のないもので、管理職が発揮するものというイメージを持たれる人もいるかも知れない。
しかし最近は、こうした伝統的で権力集中型のリーダーシップのあり方が見直されてきている。一部のカリスマ的な指導者が指揮を執ったり、限られた人が与えられた役職や権限で人を動かしたりということでなく、チームのメンバー全員が何らかの形で影響を与えリーダーシップを発揮する「シェアド・リーダーシップ」という考え方だ。
例えばチーム内に企画案作成に煮詰まっている人がいれば、あらたな視点や発想を提示したり、仕事でトラブルに直面してい人がいれば、自分の過去の経験からアドバイスをしたり、また仕事でミスを犯してしまい落ち込んでいる人には元気が出る言葉をかけたりする。
このような形でメンバーや同僚、場合によっては上司にまで影響を与えることは、チームの目標達成にプラスの影響力を与えたことになり、リーダーシップを発揮したということになる訳だ。
つまりリーダーシップとは一部のカリスマや管理職の特権ではなく、「職場やチームの目標達成のために、周囲に及ぼす影響力」とも言い換えることができる。シェアド・リーダーシップに関する研究によると、このようにチーム全体で周囲のさまざまなメンバーを巻き込んだリーダーシップを実現することで、従来型の役職や権限によるリーダーシップよりも職場での成果があがると言われている。
リーダーシップ論の変遷
ここでリーダーシップについて理解を深めるために、リーダーシップがどのような歴史をたどってきたのか簡潔に確認する。リーダー研究自体は古くは紀元前までさかのぼるが、リーダーシップ理論として確立されたのは、米国を中心に発達した20世紀が黎明期と言える。
特性的アプローチと行動アプローチ
最初の考え方は、リーダーシップを発揮する人物には共通する資質があらかじめ備わっているとした「特性的アプローチ」で、次に1940年代頃に現れた、優れたリーダーシップは持って生まれた資質によるものでなく、行動によって発揮されるとした「行動アプローチ」へと移る。
条件適合アプローチ
時代が進むにつれ1960年代頃からは、リーダーシップとは固定的な理想像ではなく、時と場合によって使い分けが必要であるとする「条件適合アプローチ」が主流になっていく。つまり「リーダーシップとはこうあるべきもの」という固定的なものでなく、状況に応じて柔軟に使い分けて結果へつなげられるリーダーこそが優れていると考えられるようになってきた。
変革型アプローチ
その後、1970年、1980年代には米国経済が膨大な貿易赤字と財政赤字に直面すると、経営環境の激変により、「組織を変革的に発展させられる」ことに軸足が移っていき、いわゆる変革型のリーダーを求める「変革型アプローチ」へと移行する。
支援型リーダーシップ
その後から、「人の上に立って牽引する存在」の意味合いがだんだんと薄れ、「リーダーはまず相手に奉仕し、その後相手を導くもの」というサーバントリーダーシップや、高い倫理観や道徳観がリーダーには必要とするオーセンティック・リーダーシップ、今回の「チームメンバー全員でリーダーシップを発揮する」というシェアド・リーダーシップなどが生まれた。
伝統的なリーダーシップに代わり、シェアド・リーダーシップをはじめとするこういった支援型のリーダーシップが求められる背景には、グローバル市場の拡大や、業界再編、相次ぐM&Aなど経営環境がより複雑化していることが挙げられる。
社会が多様化し、大きく変化する中で、組織に今まで以上に求められているのは、より高い柔軟性や幅広い知識、高度な専門性であり、それに対応するには一人のリーダーに頼るのでなく、組織内にある優れた能力や経験を集結させることが重要になってきているからと言える。
シェアド・リーダーシップを発揮するためのポイント
それでは、チームや職場でシェアド・リーダーシップを発揮するにはどうすれば良いのだろうか。
全体を見る力
書籍「シェアド・リーダーシップ チーム全員の影響力が職場を強くする」の著者である立教大学経営学部教授(現学部長)の石川淳氏によると、全員がリーダーシップを発揮するために必要なのは、まずは「全体を見る力」だと言う。
「管理職にならないとリーダーシップは身に付かない」と言われることがあるが、これは全体を把握できているか、部分的な自分の関係していることだけ見ているかという点に違いがあるだけで、管理職でないメンバーでも、全体的な視点を意識することで、管理職になる前にリーダーシップを育むことができると説明する。
リーダーシップに対する自分なりの持論・信念
また、シェアド・リーダーシップを発揮するためにもう一つ大切なことは、「リーダーシップに対する自分なりの持論・信念を持っている」ことで、持論を持っていることで誰でもがリーダーシップを発揮できるようになると言う。持論を持つことで仮説と検証を繰り返して試行錯誤を重ねていくことによって、持論がブラッシュアップされ、リーダーシップが鍛えられていくという訳だ。
シェアド・リーダーシップの実践が目標達成につながる
もともと私たち日本人は「フォロワー」として自律的に支援を行うことに優れているといわれる。それが、リーダーの指示に従い業務を遂行するだけでなく、自らシェアド・リーダーシップの言う「全体を見る力」や「リーダーシップに対する持論を持つ」ことを実践すれば、組織の目標達成に大きく貢献できるのではないだろうか。また、経営環境が大きく変化する中、リーダーシップのあり方も変わり、チーム全員でリーダーシップを発揮することが必要な時代になると、管理職や上司の役割も変わり、自らが牽引役となってチームを引っ張るのでなく、チーム内に影響を与えることのできるメンバーをいかに多く育成するかが重要な役割になってくると言えるだろう。
※参考文献 「シェアド・リーダーシップ チーム全員の影響力が職場を強くする」(2016年中央経済社)
著者 立教大学 石川淳経営学部長
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