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人類の英知⑤~語りえぬものについて語る。無限とは何か 1/2
過去の連載において、10-18~10-21について書きました。
・10-21mの長さの変化を検知する=重力波の観測(2017年のノーベル賞)
・10-18秒の時間だけ発光させる=アト秒レーザー(2023年のノーベル賞)
・10-18秒の時間を計測する=300億年に1秒しかずれない時計(xx年のノーベル賞?!)
そして、アキレスと亀のパラドックスに触れ、時間は「無限」分割できるのか? との不思議を書きました。その疑問を引き継ぎ、今回と次回の2回で「無限」について書きます。
無限の真理に迫った天才カントール、ゲーデルはともに精神に異常をきたしました。もちろん因果関係はわかりませんが、底知れぬ無限の神秘に心を乱したとしても不思議ではありません。
▼関連記事はこちら
人類の英知①『0.000000000000000000001』と『重力波』
人類の英知② 宇宙は4次元ではなく10次元
人類の英知③ 300億年に1秒しかずれない時計 「0.000000000000000001」再び
人類の英知④ 「300億年で誤差1秒の時計」と時計産業
「永遠に」解決できない問題
おそらくは「永遠に」解決できないであろう疑問に、「森羅万象はなぜ存在しているのか」「生命とは何か」「時空とは何か」などがあります。
時空についてはアインシュタインが一定の定義を確立しましたが、どの疑問も永遠に腹落ちすることはないでしょう。
そしてもう一つ、「無限とは何か」。
これもおそらくは「永遠に」解決されない疑問でしょうが、人類は、無限について一定の認識をできるにいたっています。おもにカントールによる功績です。
「一番大きな数ってなーんだ?」
「1億!」「じゃあ、僕は1億+1!」「じゃあ、私は1億+2!」……
「宇宙の果てまで一緒に行こう」
「その果ての先には何があるの?」……
「世界で一番小さなものはなに?」
「クオークだよ」「クオークは何でできているの?」……
無限は人知を超えた領域で扱いようがないように思えます。しかし、天才たちによって、その無限について語れることができるようになったこと、まさに人類の英知です。
本号では無限の不思議についていくつかの事例を示し、次号では「語りえない」無限について天才がどのように挑んだのかを書きます。
無限の不思議① 「0=1=1/2」?!
無限に続く以下の式の答えは何になるでしょうか?
S=1-1+1-1+1-1+1-1+1-1+1-1……
例えば、
S=(1-1)+(1-1)+(1-1)+(1-1)+(1-1)……
と考えて「0」と答える人がいるでしょう。
例えば、
S=1+(―1+1)+(―1+1)+(―1+1)+(―1+1)……
と考えて「1」とする人もいるかもしれません。
もしくは、
S=1―(1+1-1+1-1+1-1+1-1+1-1……)と変形、
すなわち
S=1―S → 2S=1 → S=1/2
と答える人もいるかもしれません。
なんと、1=0=1/2なのです。
無限の不思議② 「1=2」?!
一辺が1㎝の正三角形があります(図表)。その二辺(合計すると長さ2㎝)をちょうど半分のところで折り曲げます。
もちろん、長さは変わりません。0.5㎝×4=2㎝ですね。さらに半分に折り曲げます。そうしても長さは2㎝です(0.25cm×8)。
さて、これを永遠に続けていくとどうなるでしょうか? 2㎝であったものが1㎝になってしまいます。
これは海岸線問題ともいえます。
テレビのクイズ番組で、たとえば、九州の海岸線の長さはどれぐらいか? と出たとします。残念ながらこれは問題として成立していません。
例えば、直線距離で測れば1000㎞としても、海岸線のギザギザをどの程度の精度で測るかによって、2000kmにも1万㎞にもなります。厳密にいえば無限大距離になります。
この問題が出されて「問題の定義が不十分である」と答えた学生がいたとしたら、採用すべきでしょう。
無限の不思議③ 永遠に交差しない線
図表をご覧ください。格子状にひかれた線がどこまでも伸びています。格子点には棒が建てられています。格子点の一つのから光を発します。この光線は360度あらゆる方向に発せられます。
さて、ここで問題です。これら無数に発せられる光線のうち、どこまで行っても、どの棒にも遮られることなく永遠に進み続ける光線は存在するでしょうか?
「格子点は永遠に続いているんでしょ? ならば、どの光線もいつかは棒にぶつかるでしょ」と思うのが自然です。なにせ、この格子模様は永遠に続いているのですから。
しかし、答えは全く違います。ほぼ100%の光線が永遠に棒に遮られることはありません。
棒にぶつかる光線は、傾きが有理数の光線のみで、傾きが無理数の光線はぶつかりません。そして、無理数の数は有理数よりもはるかにはるかにはるかに多いのです。
無限の不思議④ ランプは点いているの?いないの?
以下は、イギリスの哲学者ジェームズ・F・トムソンが考えたものです。
机の上に照明がおいてあります。開始時点では点灯しています。それではゲームを始めましょう。
1秒後に消す(省エネ省エネ!)、その1/2秒後に点ける、その1/4秒後に消す、その1/8秒後に点ける……としましょう。
すると、2秒後にこの照明は点いているでしょうか?消えているでしょうか?
無限の不思議⑤ 発散と収束
これは無限の不思議とは少々違うのですが、おもわず膝を打ちたくなる解答であること、また、無限級数が収束するか発散するかも興味深いことであり、紹介します。
下記の式の合計はいくつになるでしょうか?
S1=1+1/2+1/4+1/8+1/16+1/32+1/64+……
これは計算するよりも図でみると一目瞭然です。図の通り、無限に足していっても、この数式は発散せず(1に)収束することがわかります。
それではこの合計はどうでしょうか?
S2=1+1/2+1/3+1/4+1/5+1/6+1/7+1/8+1/9+1/10+……
収束するのか発散するのか一目みただけでは判断がつきません。そこで下記のようにしてみましょう。
S2=1+1/2+(1/3+1/4)+(1/5+1/6+1/7+1/8)+(1/9+1/10+……
すると、
S2>1+1/2+(1/4+1/4)+(1/8+1/8+1/8+1/8)+(1/16+1/16+……
S2>1+1/2+(1/2)+(1/2)+(1/2)……
これは明らかに発散しますので、最初の式は無限大になることになります。S1は1に収束し、S2は無限大に発散する。面白いですね。
さて、これらのように無限大、無限小、連続といった概念はとても不思議に思えます。
人類はこの捕えようがない無限についてどのように認識したのか。次号で書きます。
今回および次回の参考文献:
アミール・D・アクゼル『「無限」に魅入られた天才数学者たち』早川書房
吉永良正『ゲーデル・不完全性定理 “理性の限界”の発見』講談社
ジョン・D・バロウ『無限の話』青土社
イアン・スチュアート『無限』岩波書店
『数学パズル論理パラドックス-数理センスを磨く60問 初歩レベルから「世紀の難問」まで-』ニュートンプレス
池内了『パラドックスの悪魔』講談社
ゲイリー・ヘイデン『おもしろパラドックス:古典的名作から日常生活の問題まで』創元社
足立恒雄『「無限」の考察』講談社
足立恒雄『無限のパラドクス-数学から見た無限論の系譜』講談社
ジョセフ・メイザ―『ゼノンのパラドックス:時間と空間をめぐる2500年の謎』白揚社
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