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ゼレンスキーも学んだ、チャーチル流リーダーシップと演説術㊦
ウクライナのゼレンスキー大統領が大きく影響を受けたと言われる、英国の英雄ウィンストン・チャーチル。強大な軍事力を前に、ぶれずに闘う姿勢を示し、国民を鼓舞した。後半㊦では、危機時に必要とされるリーダーシップについて触れたい。
危機時のリーダーは揺らぎや迷いを見せない
チャーチルは、危機時のリーダーが、国民に対して揺らぎや迷いのある態度を見せた場合、国民の間に不安が醸成され、一致団結が図れないことを十分に理解しており、それを踏まえた上で、強い態度で政治をリードしていったのである。
1940年6月に、連合国の盟友であったフランスがドイツに降伏した後は、イギリスがナチス・ドイツの攻撃の主たる対象となり、翌月よりドイツによるイギリス本土の空襲が開始された。
この1940年7月から10月までのイギリス上空とドーバー海峡で行われたドイツとイギリス間の史上最大の航空戦は、バトル・オブ・ブリテンと呼ばれている。
序盤戦では、ドイツ空軍が優位に立っていた。しかし、イギリスは近代的なレーダー網を活用した迎撃を行い、ドイツ空軍は空襲目標の変更や軍用機の整備不足もあって大きな被害を受けた。イギリスは、1940年10月にドイツのイギリス上陸作戦を断念させることに、見事成功したのである。
その間、チャーチルは、国民に勇気と忍耐と希望を与えるために、ラジオ演説等で国民に語り掛けかけていた。同年9月11日のラジオ演説では、
「今後一、二週間が、我々の歴史上きわめて重要な期間になると考えなければならない。」
「神よ、正しき者を助けたまえ。」
「いつ終わるか、どこまで過酷なものになるか分からない重大な試練にロンドン市民が平然と立ち向かい、不屈の精神で克服していることに、依然として自由を保っている全世界が驚嘆している。」
と述べ、英国民を鼓舞している。
大戦の流れを変えたバトル・オブ・ブリテン
バトル・オブ・ブリテンでのイギリスの勝利は、第二次大戦の流れを変えた。チャーチルは、その後、連合国勝利のためには米国の参戦が不可欠と考えて、米国のルーズベルト大統領と緊密に連携してドイツとの戦いを継続した。
その後、太平洋戦争の開戦とともに米国が第二次世界大戦に参戦。1943年11月、チャーチル、ルーズベルト、スターリンの三巨頭によるテヘラン会談に基づきノルマンディー上陸作戦が決行された。
これによって第二次世界大戦の膠着状態は大きく崩れ、1945年5月には、ドイツが無条件降伏するに至ったのである。
チャーチルに見る、危機時に必要とされるリーダー像
チャーチルの行動をみると、危機時のリーダーにとって必要な資質が明らかだ。
1 コミュニケーション能力
まずは、リーダーとして最も重要な要素であるコミュニケーション能力である。
チャーチルの演説は、人々に感銘を与え、人々を鼓舞し、時には、政敵をも従わせる素晴らしい内容であった。
その中で重要な要素の一つ目は、目的意識の明確性である。先に述べた、
「我々の政策が何かと問われるなら、私はこう答える。戦うことである。」、
「我々の目的は何かと問われるなら、私は一言でこたえられる。勝利である。」
という演説内容は、人々に対しクリアで簡潔なメッセージを伝えている。
そして二つ目は、歴史的共感性である。
1940年5月の首相就任直後の演説で、チャーチルは、次のように述べている。
「勝利無くしてイギリス帝国は生き残れない。イギリス帝国が、そのために戦ってきた全てのものが生き残れない。目的に向かって前進しようとする人類を何世代にもわたって駆り立ててきた力が生き残れないのである。」
また、同年6月に下院で行った演説では、
「決意をもってそれぞれの務めに取り組もう。大英帝国と英連邦が、千年間続くとしても、後世の人々が、『これが彼らの最も輝ける時だった』と振り返るように」
と述べている。
これらの自国の歴史を意識した言葉は、自国の輝かしい実績に誇りを持つ英国民の勇気と自信を呼び覚ますために極めて効果的であった。
2 即時の行動重視の実務能力
チャーチルは、あらゆる目の前の課題を解決していく能力が極めて優れていた。
危機時においては、幾多の課題のスピーディな解決が至上命題であり、作為のリスクよりも不作為のリスクの方が遥かに大きい。
この点、チャーチルは、自らの課題解決力に大きな自信を持っており、即日実行をモットーにしていた。
チャーチルは、ダーダルネス海峡突破作戦の失敗から、危機において国家を指導するためには、指導者が優秀な能力を発揮するだけでは不十分であり、指導者が能力を最大限発揮するための仕組みを作ることが重要という教訓を得ていた。
チャーチルはこの教訓を生かし、首相就任後は、体制、人事、情報等の戦争指導のあらゆる面に気を配り、指導者である自分を生かせる仕組みを構築したのである。
3 歴史観・大局観
危機時において国家のリーダーとなる指導者は、自国の歴史を踏まえた国家観を持って、物事の判断をしていかなければならない。一つ一つの論点をそれぞれの合理性をベースに随時解決していくだけでは、危機時の国家を守ることはできない。
チャーチルは、イギリス帝国のこれまでの伝統と歴史を踏まえて、大局的に国家はこうあるべきであるという強い信念を持って、国家の運営を遂行したのである。
これらの要素は、危機時のリーダーにおいて必ず必要となる重要な要素であり、我々が企業経営を行う上でも十分に参考となる。
チャーチルから学ぶべき事
映画「ウィストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男」の有名なシーンで、チャーチルが、生まれて初めて地下鉄に乗り、車中の市民と語り合うシーンがある。
「もし我が国がヒトラーに頭を下げて、イギリスにとって好条件を引き出し、ドイツと和平協定を結んだら君たちはなんと言う?」というチャーチルの問いに、同乗していた市民たちは「Never!」と強い意志を示しながら、次々に声を上げた。
それを聞いたチャーチルは、英国が徹底抗戦をする自らの戦略に自信を深め、閣外大臣たちを集めた上で、「ナチスに屈すれば、我々はどうなる?その空には鉤(かぎ)十字がはためくことになる。バッキンガム宮殿にも!ウィンザー城にも!そしてこの国会議事堂にも!」と、屈辱的な情景が目に浮かぶ言葉で鼓舞する。
これを聞いた大臣等は、強く自らの感情を揺さぶられ、ナチス・ドイツに徹底抗戦するというチャーチル案に賛成するのである。
このシーンは、感動的であるが、あくまで映画なので誇張がなされており、事実に即しているかは不明である。
しかしながら、チャーチルが、自分の主張する内容を明快にして、情景が目に浮かぶような言語表現で聴衆の心を掴む能力に長けていたことは、まぎれもない事実であった。
そのようなチャーチルの行動には、我々が学ぶべき要素が多分にある。
最後に
現在のロシアとウクライナの戦争は、早期に停戦となり平和が訪れることを切に願うものである。
一方で、我々は、自国の歴史と国民を守るために戦っているゼレンスキー大統領を理解し、できる範囲で支援をしなければならないと思う。
私は、本稿を作成するにあたって、チャーチルの第二次世界大戦の行動を改めて確認する中で、その点の思いを強くしたものである。
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ゼレンスキーも学んだ、チャーチル流リーダーシップと演説術㊤
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