木造高層ビルの建築ブームは一過性か?

木造高層ビルの建築がグローバルでブームになっており、日本でも建築計画が相次いでいる。最近の脱炭素の動きが背景にあるが、森林資源の活用促進や高強度の木質建材の普及といった要因もある。ブームの背景をたどるとともに、今後の課題を考察した。

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木造高層ビルの建築はグローバルなブーム

木造高層ビルの建築はグローバルなブーム

ノルウェーには現時点で世界一高い木造建築がある。

首都オスロから車で北へ2時間のBrumunddal(ブルムンドダール)という町にある「Mjøstårnet(ミョーサタワー)」という建物で、その高さは85.4m。

ただ、2026年には大林組がオーストラリア・シドニーで施工する高さ182 メートルの木造ハイブリッド構造の「Atlassian Central(アトラシアン・セントラル)」が竣工し、木造建築として世界一となる。このほかにも、カナダやアメリカで木造高層ビルの建築計画が相次いでいる。

一方、日本でも木造ビルの建設計画が増えつつある。大林組は2022年、自社の研修施設として、高さ44メートルの木造高層ビル(すべての地上構造部材が木材)を横浜に完成させた。

三井不動産と竹中工務店は、木造ハイブリッド建築の賃貸オフィスビルの建設を日本橋で計画している。竣工は2025年で、高さは約70メートルの計画だ。

住友林業は、2041年を目標に地上70階建て、高さ350メートルの木造超高層ビルの実現を目指す研究技術開発構想「W350計画」を発表している。

木造高層ビルが注目される背景その①:脱炭素

木造高層ビルが注目される背景その①:脱炭素

日本政府は2020年10月、脱炭素のために、「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするカーボンニュートラルを目指す」と宣言した。これは、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの「排出量」から、森林などによる「吸収量」を差し引いた合計をゼロにすることを意味する。

建築物の場合、材料に鉄などの代わりに木を使えば、木は鉄やコンクリートに比べて製造や加工、建築時に要するエネルギーが少ないため、二酸化炭素の「排出量」を減らす効果がある。

林野庁によると、建築物の床面積当たり二酸化炭素排出量は、住宅の場合、非木造で782.3kg-CO2/㎡に対して、木造で466.5 kg-CO2/㎡である。

また、非住宅(事務所、工場など)の場合、非木造で584.7kg-CO2/㎡に対して木造で397.3 kg-CO2/㎡で、木造の二酸化炭素排出量は非木造と比べて30%から40%少ないと試算している(林野庁「令和3年度森林及び林業の動向」)。

一方、現在の日本では森林の「吸収量」の減少が問題になっている。

木は生木のときに光合成で二酸化炭素を吸収し、成長とともに吸収量は増える。

しかし、樹齢20年頃を過ぎて木が成熟すると、吸収量が減り始めるのだ。建材として使われるスギやヒノキの多くは1950~1960年ごろに植林されたもので、現在それらの人工林の過半は樹齢50年超の成熟した木で占められている。

人工林の高齢化で二酸化炭素の吸収量は減少が続いている。「森林等の吸収源対策による吸収量」は、2013年度は5430万トンだったが、2020年度には4450万トンと2割近く減っている(環境省「2020年度の温室効果ガス排出量について」)。

カーボンニュートラルを進めるためには、成熟した木を伐採して建材などに利用したうえで、空いた土地への植林を促して、森林の二酸化炭素の吸収量を回復させることが必要になる。

そこで国産材の需要拡大を目的に、2010年に公共建築物の木造化と木質化を進める「公共建築物木材利用促進法」が成立した。

さらに2021年には、民間建築物についても木造化などを促す「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が施行された。脱炭素化の流れと法改正によって、木造ビル建築の需要はさらに高まりを見せている。

木造高層ビルが注目される背景その②:森林資源の活用促進

木造高層ビルが注目される背景その②:森林資源の活用促進

資源に乏しい日本で、数少ない豊富な資源が森林資源だ。日本の国土の約7割を占める森林面積は2576万ヘクタールで、過去60年間横這いだ。

しかし、森林を構成する樹木の幹の体積「森林蓄積」は増え続けているのだ。

2017年の森林蓄積は52.4億立法メートルで、1966年の18.9億立法メートルと比べて2.8倍になった。

特に増えたのが人工林で、52.4億立方メートルのうち、人工林が約33億立法メートルと約6割を占めている。戦後の木が足りない時代に植えた木が、今利用できる時期を迎えている。

しかし現状は、増える一方の森林蓄積を持て余している状態だ。というのも、木材が多く使われるのは3階建て以下の戸建住宅だが、人口減少もあり、この分野からの需要だけでは増加する森林蓄積を使いきれない。

そこで、いままでにない用途を開拓することが必要になる。これまで体育館などの木造化は進んできているが、今後は数の多い事務所ビルや店舗を含む商業ビルの木造化が期待されている。

商業ビルの木造化が進むことは、採算がとれないなどの理由で放置され不健全な状態に陥っている日本の人工林の現状を改善することに貢献する。人工林が計画的に伐採され、様々な木材製品として使われて得られた利益が森林や地域経済に還元されれば、持続的で健全な森づくりを進めていくことが可能になる。

木造高層ビルが注目される背景その③:高強度の木質建材の普及

木造高層ビルが注目される背景その③:高強度の木質建材の普及

木造高層ビルが流行する背景には、高強度の木質建材が普及してきたことも一因として挙げられる。別の言い方をすれば、高層ビルの建設に使えるほど構造的な強度のある木質建材が開発され普及してきているのだ。

その一例がCLTだ。CLTはCross Laminated Timber(直交集成板)の略称で、ひき板(ラミナ)を並べた後、繊維方向が直交するように積層接着した大判の木質パネル建材である。

木材を直角に積層し接着しているため、収縮変形を抑えられ寸法が安定し強度が高くなる建材で、強度が高いため高層の建物に利用できる。

CLTは1995年頃からオーストリアを中心に発展し、現在では欧州各国で様々な建築物に利用されている。またカナダやアメリカ、オーストラリアでもCLTを使った高層建築が建てられるなど、CLTの利用は過去10年で急速に伸びている。

日本では、2015年までは特殊な計算と厳格な審査を経ないとCLTを建物に使用することはできなかったが、2016年にCLTに関する建築基準法告示が施行されたことで、通常の建物と同じような計算と審査だけで使用可能となった。

耐震性や耐火性はクリアしている

耐震性や耐火性はクリアしている

木造の高層ビルの課題として思いつく点として、木造のビルは鉄骨造や鉄筋コンクリート造のビルと比べて、地震に対して脆弱だろうという点だ。

しかしこの懸念は、CLTのような高強度の建材を利用することで克服できる。日本CLT協会によれば、2015年にE-ディフェンス(世界最大の3次元振動台)を使って実施された振動台実験では、阪神淡路大震災の観測波(震度7)より大きな加力に対して、CLT建築の試験建物は倒壊しなかった。

耐火性についても、CLTは毎分約1ミリメートルの速度でゆっくり燃え進む性質なので、この性質を使って低層の準耐火建築物の設計ができる。また、大規模な耐火建築物については、CLT を石膏ボードなどで耐火被覆することで対応できる。

木造化進展の最大の課題はコストダウン

木造化を進めるうえで最大の課題はコストダウンだ。柱、梁、床、壁、外装まですべてを純木造にした場合、価格は鉄骨造や鉄筋コンクリート造の3割増しになる。このレベルのコストでは、まだビジネスとして成立しない。

国の補助金を受けてやっと建設にこぎ着けた例もある。

コスト高の要因は材料価格が高いことだ。木造の高層ビルの材料は大量生産していないうえ、製造できる工場の数も少ない。CLT工場は、2021年の時点で国内に11ヵ所しかない。また運送コストも高い。

今後木造ビルの需要が増えれば、工場が大規模化し数も増えてコストが下がるだろう。そうなれば請負単価を下げられ、さらに需要が増すという好サイクルが期待できる。

将来の需要増を見据えて先行投資をする企業も出てきた。CLT製造大手の銘建工業は、製造拠点と隣接し大型倉庫を備えた流通センターを今年中に着工する予定だと報じられている(日本経済新聞 2022年8月10日)。

一方、三菱地所は2020年、建築用木材の生産から流通、施工、販売までの川上から川下までの統合型ビジネスモデルを構築する合弁会社の「MEC Industry」を立ち上げた。新会社を設立したのは、製造から販売までのビジネスフローを統合し、中間コストを抑制したビジネスモデルを確立することにある(会社発表 2020年7月27日)。

コストダウンのもう一つのキーワードは「木質化」だ。建築物の構造耐力上の主要な部分に木材を用いることを「木造化」という一方、構造体には木材を用いず天井、床、壁などの内装や外壁だけに木材を用いることを「木質化」という。

木造化の推進とはいえ、いきなり構造体を含むすべての純木造を目指すのは、コスト上のハードルが高い。まずは内装や外装の一部を木材にする木質化から進むのが現実的だろう。

また予算の制約から、木造ビルの新築は難しいケースも多々あるだろう。その場合には、改修で木質化を進めるやり方もある。貸ビルであれば、木質化の改修が評価されて賃料アップにつながれば、改修コストを補うことができるだけではなく、将来木造での建替えにつながる可能性が高まる。

コストが鉄骨造や鉄筋コンクリート造と比べて遜色のない水準になる一方、高品質で安定的なサプライチェーンが確保できれば、木造高層ビルの建築は単なる一過性のブームにとどまらず、建築工事の中のメインの工種へと成長していく潜在性がある。

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