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人類の英知② 宇宙は4次元ではなく10次元
今回は人類の英知の第2回です。前回は重力波観測の衝撃について書きました。さらなる技術革新が進められており、次の世紀の発見がなされることに期待がかかります。
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人類の英知①『0.000000000000000000001』と『重力波』
人類が把握できているのは、宇宙のわずか5%
かつて、宇宙は静止状態にあると誰しも考えていましたが、1927年にルメートル、1929年にハッブルによって膨張していることが発見され、衝撃を与えました。
アインシュタインの宇宙方程式(宇宙を記述する方程式というだけで驚愕です)は宇宙が静的ではないことを示唆していたのですが、アインシュタインでさえ「宇宙が膨張しているはずがない。宇宙には終わりも始まりもなくそこにある」と考え、自身が創り上げた方程式に宇宙が静的であるように操作をしてしまいました。
博士はこのことを「人生最大の失敗」と回想しています(逆に、博士が人生最良の思い付きと言ったのは、一般相対性理論をもたらした「重力と加速運動は区別できないことに気づいたこと」です。我々一般人も、自身の人生最良の思い付き、人生最大の失敗について考えてみるのも一興です)。
宇宙が膨張しているということは、過去の宇宙は今より小さかったということにほかなりません。宇宙は、138億年前に「ビックバン」によって始まったと言われます。そのビックバンの証拠となった「宇宙背景放射」の観測も2006年のノーベル賞を受賞しています。
そして、2011年のノーベル賞はさらに衝撃的な発見に与えられました。なんと、宇宙は膨張しているだけでなく、膨張は加速していたのです。
宇宙の膨張は、地上から空にむかってボールを投げることに例えられます。射出速度がある速度未満だと、重力に逆らえずどこかで落下に転じます。ある速度以上だと、重力を振り切り宇宙空間を飛び続けることになります(地球の重力を脱する速度を地球脱出速度といい、11km/秒です。これより早く投げれば、ボールは落ちてきませんが、プロ野球・ロッテの佐々木朗希投手でも難しいです)。
しかし、膨張速度が加速しているということは、ボールを投げた後にエネルギーがさらに投入されているということになります。
すなわち、宇宙にはエネルギーを供給する、人類には未知の何か(「ダークエネルギー」と呼ばれます)があるということになるのです。
ほかに、人類には同様に未知の「ダークマター」があると推定されており、人類が把握できている「宇宙を織りなすもの」は全体の5%にすぎないというのです。ダークマター、ダークエネルギーは何なのか。重力波による観測が解明する可能性があります。
宇宙はどのように始まったか?『原始重力波』
実は、宇宙はビックバンが始まりではなく、その前に「インフレーション」期があったと考えられています(この理論を提唱したのは日本の佐藤勝彦氏)。宇宙はこのインフレーション期と言われる10‐34秒!の間に1043倍!になったそうです。
ビックバン前の宇宙、インフレーション期の宇宙に関する人類の知見は限られています。
その理由の一つは、同期間においては観測の重要な武器である「光」がなかったからです。想像を絶する高エネルギー状態であるため、光でさえ自由に飛び回れなかったのです。
しかし、重力波であればインフレーション期にも存在することが可能です。
前月号で紹介したノーベル賞受賞となったLIGO(Laser Interferometer Gravitational-Wave Observatory。レーザーの干渉を利用して重力波を観測する施設)が観測したのは、星と星が衝突した時に発生した重力波でした。
これとは別に、宇宙創世期の重力波は「原始重力波」とよばれ、別のものです。
もし、原始重力波が観測され、インフレーション期の証拠であることが証明できれば、間違いなくノーベル賞です。
私たちの宇宙は10次元
我々は4次元(空間3次元+時間1次元)の世界に住んでいると認識しています。空間3軸と時間1軸を指定すれば一点を特定でき、待ち合わせすることができます。
しかし、超弦理論と言われる理論では、空間9+時間1の10次元であるとの理論があるそうです。
なぜ空間は3でも7でも15でもなく9次元と考えられるのか……。理論的に整合するのは空間が9次元の時なのだそうです。その根拠となる不思議な数式を一つ。人類史上最高の数学者の一人と言われるオイラーによる数式です。
1+2+3+4+5+……=-1/12
どうして正の数を無限に足しているのにその和がマイナスになるのか!? 不思議ですね。大栗博司博士は『超弦理論入門』(講談社)において中学生の知識で十分な解説をしていますので、是非ご覧ください。驚愕すること間違いありません。
私たちの世界は10次元なのですが、我々はそのうちの4次元のみが投影された「膜」の中で生きていると予言する人もいます。もし本当に10次元であれば、5次元、6次元を通ることで4次元世界での「ワープ」が可能かもしれないと夢は膨らみます。
巨大プロジェクトが進行中
以上のような驚きの学説を実証するために、世界各国で巨大プロジェクトが進められています。
LIGOは性能改善が進められ、日本ではKAGRA、欧州ではVIRGOと呼ばれる設備が整備され、さらにはインドにも重力観測施設をつくる計画があるそうです。
独自の施設を持ちたいことがそれぞれの地域にある要因ですが、同時に、各地域にある設備を連携させることで、より充実したデータを獲得する目的もあります。
例えば、方向です。
カーナビが位置を特定するには複数の衛星からの情報をもとに位置を特定しています。重力波観測でも同様で、今後4か所の施設による観測はさらに豊富な情報を獲得することでしょう。
そして、さらに壮大な計画は宇宙空間に観測所をつくるものです。
これほど騒々しい地球上で10‐21の精度を実現したことは驚異的で、さらに感度を改善するのは簡単なことではありません。であれば、騒音が一切ない宇宙空間に観測所を浮かべようという計画です。
LIGOの腕の長さ4kmに対して、1000kmにもおよぶ腕を持った施設を建設しようというのです。
私が生きている間に、ダークマターもしくはダークエネルギー、原始重力波、新しい次元が見つかったらと夢を見ます。
おまけ:人間1人はどれだけ空間を歪めているか?
前稿の参考文献で紹介した田中雅臣さんは面白い試算をしてくれています。
5kgのダンベルをもってぐるぐると回転したらどの程度空間を歪められるか、です。
それによると、10‐43! これはとても検出できるようなものではありませんが、私たちは生きているだけで空間にその証を残しているのです。
重力波の強さの算出式:
h = ε 2GMC2 (VC)2 1d
M:天体の質量
V:天体の速度
d:天体までの距離
ε:重力波放射の効率
人間も時空を歪めている:
h = ε 2GMC2 (VC)2 1d
= 1×2×6.7×10-11×5(3×108)2×(63×108)2×110
≅ 3×10-43
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