アドベンチャーツーリズムの事例

アドベンチャーツーリズムのイメージ

アドベンチャーツーリズムとは

アドベンチャーツーリズム(AT)は、主に富裕層をターゲットとした旅行形態で、国際機関のAdventure Travel Trade Association(アドベンチャートラベルトレード協会、ATTA)の定義では「アクティビティ」「自然」「異文化体験」という3つの要素のうち、2つ以上で構成されるものを指す。

ATTAの調査によると、北米・欧州・南米が主要な地域で、世界全体の市場規模は2017年で4500億ドル(約50兆円)と推計され、その約7割を欧州が占めている。一人当たり支出は2千~3千ドル(22~33万円)と単価が平均の2倍~2.5倍と高い。

北米旅行者でみると8割が四年制大学卒以上で、6割が年収800万円以上と、高学歴高収入者の旅と言える。

阿寒湖エリアでの取り組み

国内での代表的なATの事例は、阿寒湖エリアでの取り組みだ。北海道は観光資源が豊富で、ATの組成において申し分のないエリアといえるが、なかでも道東エリアは、北海道共通の「自然」「美味しい食材を元にした食事」に加えて、「文化体験が二層ある(日本文化+アイヌ文化)」「知識豊富なガイドがいる」といった点で優位性がある。

経済産業省(北海道経済産業局)が阿寒を中心とした道東エリアでのATの実現を企図して、道内で先導的に取り組みを行っている鶴雅リゾートを中核企業としてJTBと共に取り組みを行っている。

2017年9月にはATTAの幹部を招へいして現地実査が行われ、「道東はその優しい自然がもたらす癒しや静けさに加え、日本文化の独自性・魅力をさらに高めるアイヌ文化による重層性が、海外競合地域に比べて際立った差別化要素となっている」との評価を受けており、そのポテンシャルは折り紙つきだ。

上述の取り組みにて、同エリアでATを本格化させるためのマーケティング戦略が策定されたので、骨子を紹介する。

  • 戦略①:既存の個別のコンテンツ・リソースをストーリーで紡ぐようなトータルコンテンツを組成する
  • 戦略②:ATサービスの品質を世界水準に引き上げる(アクティビティの専門家や自然の専門家などの人材育成)
  • 戦略③:世界に向けて情報発信し、優良顧客とのネットワークを構築する
  • 戦略④:産業界・官公庁が連携し、エリア一体となる取組を実施する

実現には、現地でこれらを推進する組織が必要だが、本件では地域DMO(Destination Management/Marketing Organization:観光庁が設置を推進している「地域の多様な関係者を巻き込みつつ科学的アプローチを取り入れた観光地域づくりを行う」法人)であるNPO法人阿寒観光協会まちづくり推進機構、阿寒アドベンチャーツーリズム(AT推進のために設立された会社)、鶴雅リゾートが、そのミッションを担っている。

特に戦略①は、エリアとしてAT市場を獲得すると共に、来訪者の高い満足度を得るために、エリア全体を語るストーリーにより各コンテンツを統合し、AT旅行者が楽しめるようなフルパッケージを作る必要がある。そのため、各組織が有機的に連携し、きっちりとしたATの受け皿を作っていく必要があると考えられる。

キャッスルステイの事例

キャッスルステイのイメージ(姫路城)

日本のお城に泊まりたい、というニーズ

訪日外国人に対する調査(注1)において、「今後、訪日旅行で経験・実施してみたいことトップ10」として、アメリカ人は1位(49%)、ドイツ人は2位(31%)に「城」を選んでおり、欧米人が日本の城に泊まりたいというニーズが極めて高いことがうかがえる。

城に宿泊する「キャッスルステイ(城泊)」は欧州ではかなり前からメジャーだが、日本の場合、城が文化財に指定されていたり、一般観光の対象となっていたりするため、城泊の実現は困難と言われてきた。

しかし、近年、国土交通省・文化庁や地元市町村等の後押し・協力もあり、愛媛県大洲市(大洲城)、長崎県平戸市(平戸城)、宮城県白石市(白石城)などにおいて、日本版キャッスルステイとしての「城泊」につき、営業開始に向けて着々と準備が進められており、いよいよそれぞれ2020年中に開業する見込みとなっている。

大洲市(大洲城)での取組み

大洲市は、愛媛県の松山市から特急で40分の距離にある、肱川(ひじかわ)流域の大洲城を中心に発展した旧城下町で、『伊予の小京都』と呼ばれている。

市の中央部を清流「肱川」が流れており、昔ながらの街並みや美しい田園風景と山並みが特徴で、臥龍山荘(重要文化財を含む数寄屋建築の山荘)、大洲城、肘川での鵜飼(日本3大鵜飼の一つ)といった観光資源を有している。

ここにおいてインバウンドなどの観光客をターゲットとした観光振興および観光誘客を促進するべく、2018年に一般社団法人キタ・マネジメントが大洲市の地域DMOとして発足し、精力的に活動を営んでいる。

具体的には、歴史的建造物(町家・古民家等)の活用事業(町屋再生事業)、観光まちづくり人材の育成事業、観光施設等の指定管理事業などを行っている。

歴史的建造物の活用事業においては、民間企業などから出資を募って、所有者から古民家を借りるか購入し、宿泊施設や店舗に改修。経営はバリューマネジメントなどの民間企画会社に委託する。現在、旧大洲藩主の「加藤家住宅」を活用した宿泊施設を整備しており、近日に1泊3万~5万円の価格帯で開業する予定だ。

大洲城についても同じスキームでの城泊の実施に向けて、各種関連機関との調整と準備がキタ社を中心に進められており、予定通りにいけば、大洲城が日本における城泊の第1号となる見込みだ。

こちらは2名で1泊100万円程度とより高額となっているが、大洲市の各種観光資源を最大限活用し、満足度の高いサービスやアクティビティを織り込むことが計画されている。

富裕層向け観光の取り組みの成功に必要なこと

富裕層向けの観光ガイドのイメージ

筆者は仕事柄、地方での富裕層向け旅行の企画プロジェクトと話をする機会が多いが、前述の2事例を除くと、誤った考えやアプローチの事例が極めて多いと感じる。

何がおかしいかというと、まずはターゲットとなる富裕層の好みの把握だ。欧米の富裕層は文化と経済水準の双方で一般的な日本人とは感性が異なるため、「これは喜ぶだろう」という思い込みは禁物だ。

単純に食事や設備、移動手段を豪華にすることや、FAMツアー(観光地に誘致するためターゲット国の人に現地を体験してもらうツアー)と称して日本にいる留学生等数人に体験をさせて意見を収集し、それを元に商品設計を行っても、富裕層のツボにははまらない。温泉なども、日本人は旅行目的のトップだが欧米人はそうではない。むしろ、金はかけなくても古民家など異文化感を感じさせるものにこそ強い興味を示す。

また、エリア自体の面的魅力度アップ(富裕層が興味を引くスポットの発見や食指を動かすアクティビティの整備)と情報発信も重要だ。

どんなに良くても伝わらなければ意味がないため、きちんと外国語でコミュニケーションを取ることができる専門人材(アクティビティの専門家やガイドなど)の存在も極めて重要だ。

紹介した2つの事例のように、DMOが富裕層を理解した上で地域全体を俯瞰してエリアの魅力を発見・向上・発信する中期的な取り組み(体験の場の準備や提供、ガイドなどの育成を含む)が富裕層向け観光ビジネスの実施と成功には欠かせない。

そのためには、DMOに優秀な人材がいて複雑な利害関係の調整からマーケティングまでマルチタスクにこなせることが欠かせない。地方公共団体からの出向者では、務まりにくい。またDMO自体が収益を確保するスキームが出来上がり、経営的に安定し存続できることが必須だ。全国各地に立ち上がった地域DMOは200を超えるが、まだこの状態になっているところは極めて少ない。オリンピックという千載一遇の商機を逃さないためにも、早急な対応が必要と考える。

(注1)リクルートじゃらんリサーチセンターが実施した「訪日外国人 観光体験需要調査」

※機関誌「FRONTIER EYES」vol.27(2019年11月発行)掲載記事を修正の上再掲 

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