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東京オリンピック縮小から考える、「ROE」と「ESG・SDGs」
コロナの影響により、東京オリンピック・パラリンピックはいまいち盛り上がりに欠け、「開催するべきか否か」という「二項対立」議論がわき上がる。勝敗がはっきりしているスポーツの現場とは異なり、ビジネスの現場おいて「二項対立」の思考は、最適解を見失うトラップとなりやすい。今回は、「ROE」と「ESG・SDGs」の関係性に当てはめ、考察した。
オリンピック縮小のインパクト
コロナウィルスの影響が無い世界であれば、オリンピックは予定通り2020年に開催され、開催国である日本だけでなく、参加各国で盛り上がったことだろう。
2019年に日本で開催された「ラグビーワールドカップ」を思い返せば、外国人観光客が都心を中心に溢れていた。観光庁によると2019年の訪日外国人数は過去最高の3,188万人、ラグビーW杯を目的とした観戦客の“旅行支出額”は通常客よりも2.4倍と多く、スポーツーリズムの影響力を物語る。
当初、2020年はインバウンド4,000万人(前年比25%増)の突破を目標としていたが、実際は約1割の412万人(2020年)であり、その影響は計り知れない。
2021年に延期されたオリンピックが開催されても、海外からの観戦客を受け入れない方針であるため、訪日客により経済効果はほぼ消滅したことになる。
スポーツの魅力と “勝敗”二項対立の思考トラップ
多くのスポーツでは運動能力がパフォーマンスに影響を与える。そのため成績上位者は、一部の年齢層に偏りがちだ。また自身とは関係のないスポーツや、初見の外国人選手にも、感動を覚える人も少なくないだろう。つまりスポーツは、関連性が薄くとも感情移入をしやすいのも特徴だ。
その一因には、人々は勝敗までのストーリーに感動し、勝敗という分かりやすい“構図”を求めるからと私は考える。この構造はスポーツに関わらず、アイドルの総選挙やアニメ、ドラマの世界においても多く存在し、いかに人々が勝敗という構造を求めているかが分かる。
しかし、人々が求める “勝or敗”という構造は、ビジネスの世界では良くある思考トラップとなっている。
ビジネスにおける二項対立の危うさ
二項対立の構造は、ビジネスシーンにおいて溢れている。
周囲からのプレッシャーや置かれた状況により、スタンスを明確に求められることも少なくない。「短期予算の達成」or「長期計画の推進」、「品質向上」or「価格追求」、「利益追求」or「環境優先」など、例を挙げればきりがない。
冷静に考えれば、必ずしも単純な対立構造ではないことが多いのに、なぜ我々は対立というトラップに陥るのだろうか?
オリンピック開催是非の最適解は 「or」の問か?「and」の問か?
▲出所:公益財団法人新聞通信調査会「第13回「メディアに関する全国世論調査」 (上)」よりFMI作成
公益財団法人 新聞通信調査会による「東京オリ・パラ開催の是非」の世論調査では、年齢別に傾向が異なる。
年齢別によって「開催すべき」「中止すべき」「更に延期すべき」という構成比が異なるという事実であり、それ以外の意味を持ちえない。一方、ビジネスの世界では往々にして意思決定の判断軸が「多数決」や「声の大きさ」によって、決まることは少なくはない。但し、物事を判断する前に、“解くべき問”を見直すことが必要だ。
「①A or Bのどちらが正しいか?」という問いなのか?それとも「②A and Bの最適解は何か?」①と②の問いでは、結論は大きく異なる。
「ROE」 and「 ESG・SDGs」? 「ROE」 or「 ESG・SDGs」?
第二次安倍内閣が発足して以降、アベノミクス(金融政策による低金利等)に伴い、財務レバレッジ※を効かせたROE(自己資本利益率)経営に邁進してきた企業も多い。
一方、近年ではESG(Environment:環境、Social:社会、Governance:ガバナンス)やSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)など、より高い視点からの企業活動も求められている。
渋沢栄一の理想にも通じる
2021年の大河ドラマ「青天を衝け」の主人公、渋沢栄一が提唱した「仁義道徳」と「生産殖利」の両立、「道徳経済合一論」にもつながる。
その中で「ROEもESG(SDGs)も双方とも大事」と考えるだけではなく、具体的に双方を追究し、どの様に最適解を導き出し、実行するかが重要である。
※財務レバレッジ=総資本÷自己資本 自己資本比率の逆数。負債を効率的に経営に生かしているかを見る指標だが、高すぎれば安定性に不安が出る。ROE(=売上高純利益率×総資産回転率×財務レバレッジ)を構成する要素の一つ。
悩ましい点としてはROEの追求とESG(SDGs)への配慮は、トレードオフの関係にも成り得る点だ。またROEとESG(SDGs)の相互関係性、トレードオフ関係が難解なほか、企業ごとにも異なっているため、汎用可能な回答は存在しない。
但し、双方を追究する科学的なアプローチとしては、ROEとESG(SDGs)の相互関係性、トレードオフ関係を踏まえながら、双方の“適切な”数値化を図り、コントロールすることで最適解を導き出すということだ。
ESGスコア:増加する評価機関
ESGの評価を重視する投資家や金融機関の増加に伴い、ESG評価機関も増加。ESGに関わる情報開示は各国や地域によって様々である。またESGスコアで重要な点は、評価機関・投資家は現時点では“企業の公開情報”や“オンライン・サーベイ調査”を活用した評価を行っているケースが多い。つまりESGやSDGsの取り組みをしている“だけ”では評価されず、評価のためには企業による積極的な情報開示が必要となる。
企業としての八方美人は成り立つのか?
ESGを語るにあたり、ステークホルダーは誰か。誰に向けた発信なのか。どの様な情報を発信すべきか。どのステークホルダーの顔を見るか。等の議論が成される。またステークホルダー(従業員・投資家・顧客・取引先等々)ごとによって、重視するポイントや濃淡が異なる。結果として、全てのステークホルダーに均等な対応をすることは難しく、企業としての姿勢を問われることになるだろう。
判断軸は科学と哲学
ESG・SDGsに取り組むにあたり、先に述べたようなESGスコアの科学的なコントロールも重要である一方で、現時点のESGスコアには取り組みが全て反映されるわけではない。全てのステークホルダーに向けたESG・SDGsという前提においては、現時点ではスコア“だけ”のための経営ではなく、科学と哲学の双方による経営判断が必要と考える。
▽参考記事
国土交通省 観光省「ラグビーワールドカップ2019日本大会の観戦有無別訪日外国人旅行者の消費動向」
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