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コンサルスキルの全体像:現役コンサルが解説するコンサルタントスキルの体系化①
近年、世の中にはコンサルタントスキルに関連する多くの書籍が出版され、インターネットなどでもコンサルタントに必要なスキル(論理的思考、仮説思考など)が多く紹介されている。しかし、著者の実体験から書籍と実践との間には大きな乖離が存在すると考える。 逆に中途半端なインプットをしてしまい、転職してもなかなか仕事の本質を掴めず苦しんでいるコンサルタントや、事業会社で誤った理解や使い方をしている方が多く存在するのではないかと考える。 そこで今回は著者の経験則をベースにした社内向けコンサルタント養成研修の内容をもとに、暗黙知となっているコンサルタントスキルを全5回にわたって体系的に解説する。まず、第1回は著者の実体験に基づく課題意識とコンサルタントスキルの全体像について紹介する。
著者が体感したコンサルタントスキル習得の壁
著者は信託銀行に数年間在籍した後コンサルタントに転職したが、事業会社とコンサルタントで必要とされるスキルに大きな差があり相当な苦労を体験した。
事業会社時代、著者は仕事に対して論理的なアプローチを得意とする方だと考えていた。また、社会人になってから転職までの間、コンサルタント関連の書籍を読み漁りコンサルタントに必要なスキルについては理解を深めたつもりだった。
しかし、転職して当面、自分が経験したことのない業界・業務に対し、仮説どころか何を考えていいのかさえ分からなかった。事業会社時代、自分の頭で考えていたつもりだったが、専門的な知識や決まったフレームに従って作業をしていただけだったと気づかされたのである。危機感を覚え、改めて書籍を読み漁って巻き返しを図ろうとしたが、当初は全く成長できなかった。
その中で成長のきっかけになったのは、上司や先輩から受けたフィードバックを素直に実践したことだった。転職当初は、自身が書籍で学んだつもりになっていたことと、実践でのフィードバックには大きな乖離があったため、なかなか素直に吸収することができなかった。
しかし、上司や先輩からのフィードバックをまずは素直に実践すること、そしてその都度書籍に立ち戻り、フィードバックされた内容の理解に努めることで、自分なりのやり方を徐々に確立していったのである。
コンサルタントスキルの体得に苦労する3つの要因
昨今、一般的な書籍やインターネットでコンサルタントに必要なスキルが多く解説されているが、コンサルタントという職種へ順応することに苦労している方々が多いと感じる。上記の通り、著者もその1人であった。
しかし転職して数年経った今、思い返してみると、事前に一定のポイントを押さえていれば、より効率的にスキル習得できたのではないかという思いに至っている。
まず、その苦労する要因は以下の3つにあると考える。
①各スキルの繋がりや因果関係が理解できず、指摘事項を理解できない
例えば、代表的なスキルとして「論理的思考(ロジカルシンキング)」がある。
その解説においてよく記載されているのは、
- 「MECE(ミーシー)」(抜け漏れなく考えること)を意識して論点を構造的に整理する(a)
- 「MECE(ミーシー)」に考えるために「フレームワーク」を使って考える(b)
- 論理的に正しいことを言うためにSo What?(だから何?)/Why?(なぜ?)を繰り返す(c)
- 基本的な論理展開のパターンとして演繹法・帰納法を活用する(d)
であるが、大体の読者がこれを大きな1つのスキルとして捉えてしまう傾向にある。しかし、実務上はこれを以下の2つのスキルに分けて理解しておく必要がある。
- 構造的に論点や物事を整理すること(aとb)
- 論理的に正しいこと(cとd)
この2つのスキルの位置付けや違いを理解できなければ、上司が求めていることや指摘事項を正確に把握できない。
また、若手コンサルタントは自ら構造的に考えを整理する(1)よりも、上司や先輩コンサルタントに与えられた枠組みの中でまずは論理的に正しいことを言う(2)ことが大切である。なぜなら「構造的に考えること」は身に着けるまでに時間がかかり、「論理的に正しいことを言うこと」とは考えるポイントが全く異なるからである。上司も特に優劣をつけることなくフィードバックを行うことが多い。この優先順位や背景を理解しているだけでもフィードバックの理解度は大きく変わる。
②各スキルを磨き上げる上で、当たり前にやるべきことができない
上記の「論理的思考(ロジカルシンキング)」の例で考える。
例えば、論理的に正しいことを言うために、So What?(だから何?)/Why?(なぜ?)や演繹法・帰納法の技術を活用しようとする。
しかし、それらを実践するためには、前提として正しい日本語の使い方を学ぶ必要がある。我々の考えの基礎は言語である。主語と述語を明確にする、言葉の繋がりを考えるなど、当たり前のことであるが、言語(日本語)の原理原則が疎かになっていると正しく考えられない。それにも関わらず、ここを疎かにして停滞しているコンサルタントは多く存在する。
③スキル習得に段階論が存在することに気づかず、スキル習得の優先順位を誤る
上記の例で気づかれたと思うが、スキルの習得にはステップが存在する。下位層のスキルをある程度習得しないと上位層のスキル習得に結びつかない。日本語を正しく使えないのに論理的に正しいことを言う技術を磨いても上達に繋がらないのである。
以上3つが著者の考える本質的なスキル習得に至らない要因である。
しかし、逆に言うと、
- 各スキルを要素分解し、因果関係を明確にし、
- スキル習得の前提となっている当たり前にやるべきことを洗出し、全体像を押さえ、
- 各スキルを階層付けて下位層のスキルから順に習得していくこと
で相当効率的にスキル習得できると考える。本回はその概観をお話したい。
コンサルタントスキルの全体像
コンサルタントのスキルは大きく4階層に分かれる。
ここで重要なポイントは、下位層から地道にスキルを習得していく中で、最終的にLEVEL4のコンサルタントとして付加価値を徐々に出せるようになる点である。
ただし、事業会社などで特定領域の習熟度が高い方は下位の階層のスキルを飛ばし、特定領域に限っていきなり仮説を出すことは可能である。しかし、その場合には根拠のない「勘」のみに頼った仮説になることに注意する必要がある。
なお、読者の方々がイメージしやすいように参考にすべき書籍も各階層にマッピングしたので参考にしてもらいたい(ただし、各階層と書籍の内容が完全に対になっているわけではなく、複数の階層に跨った内容のものもあるので注意してもらいたい)。
LEVEL1.土台・ルーティン~考え方・行動特性~
まず、コンサルタント(事業会社でいれば企画など)の仕事とは、どのようなものなのかを理解しておく必要がある。そして、常にどこにプライオリティを置いて仕事を進める必要があるか理解しておくことが大切である。これはどの仕事も同様であるが、コンサルタントは決まった業務フローやマニュアルがないため特に影響が大きい。
例えば、コンサルタントの仕事は、基本的に商品や答えのないものであり、基本的に仕事のゴールが相手にある点を認識しておく必要がある。
また、もう1点重要なポイントは、常に段取りを考えて動く行動特性である。上記に記載の通り、
- 相手ありき
- 時間が限られている
- 常に結果が求められる
仕事であるため、常時5手先を想像し具体的なアウトプットや段取りを考え続けること、そしてそれを日々のタスクに落として込んでいくことが重要となる。
LEVEL1の参考書籍
入社1年目の教科書(ダイヤモンド社)
仕事に追われない仕事術 マニャーナの法則 完全版 (ディスカヴァー・トゥエンティワン)
プロフェッショナル経営参謀(日本経済新聞出版)
LEVEL2.PJワーク基礎スキル(論理の担保)~ロジック(論理)・オペレーションスキル~
次に重要なのが、論理的に正しいことを言う(以下、論理の担保)と、それを実現するためのオペレーションスキルである。
ジュニアの間は、初期仮説や考え方の枠組み、分析の切り口をゼロから考えることはない。一定程度の方向性が与えられている中で、自分で論理を担保できる結論を出せるかに集中する。いくらセンスがあり、初期仮説や考え方の枠組みを使えても、説明できなければ説得力に欠ける解・結論を導出してしまうので、まずは論理の担保が重要である。
また、論理を担保するためには、アウトプットするスキルも重要である。仮説を証明するための分析において短時間で作業できればその分、思考に時間を使える(パワーポイントで論理を表現するスキル、エクセルで分析するスキルなどもある)。
LEVEL2の参考書籍
ロジカル・シンキング(東洋経済新報社)
「論理力」短期集中講座(フォレスト出版)
LEVEL3.思考のアウトプット(思考技術)~構造化・抽象化・超具体化~
ここまで来てやっとコンサルタントとして解・結論を出すスキルになる。これは、手元の情報を構造化することで情報に意味を見出し、必要な論点に対して解・結論を出すスキルである。
構造化は一般的にロジックツリーという言葉が浸透しているが、全く未知の領域を構造化するには事象の抽象化、具体化を繰り返さなければならず、習得に相当の訓練が必要である。しかし、この部分が習得できれば未経験の業界や未経験の業務領域もクライアントと深い議論を行い、付加価値のある提言を行うことが可能になる。
LEVEL3の参考書籍
思考・論理・分析 「正しく考え、正しく分かること」の理論と実践(産業能率大学出版部)
論理的思考のコアスキル(筑摩書房)
LEVEL4.コンサルとしての付加価値~ストーリー設定・論点設定・仮説構築~
最後のステップが仮説構築など本当の意味でコンサルタントとしての付加価値を出せるようになる。
ジュニアの間、仮説構築で注意しておきたいポイントは、無理に背伸びをして業界の構造的な課題や、企業の戦略の方向性に対する仮説を出しにいかないことである。まずは、今アサインされている要素分解された問いへの答えや、目の前のクライアントの業務を妄想することである。その繰り返しが半年後、1年後に大きな仮説構築力に繋がる。その他、ストーリー設定・論点設定も重要であるが、詳細は今後の回で説明したい。
LEVEL4の参考書籍
仮説思考(東洋経済新報社)
論点思考(東洋経済新報社)
「ゴール仮説」から始める問題解決アプローチ(すばる舎)
最後に
今回はコンサルタントのスキルの全体像を押さえ、スキルの因果関係や習得の順序を意識することの重要性を説明した。次回以降は各LEVELのスキル詳細を個々に解説していくことで皆さんのコンサルタントスキルに対する理解を深めて頂きたい。
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コンサルに求められる考え方(マインドセット)・行動特性:現役コンサルが解説するコンサルタントスキルの体系化②
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