ストーリーテリングとは?物語で人に伝える手法

ストーリーテリング(Story Telling)とは、文字通り「物語を伝えること」です。もともとは、本に記された物語を読み聞かせるという意味が一般的でしたが、近年ではコミュニケーションやプレゼンテーションの際に物語を引用する手法として使われることが多くなりました。

ここでの物語とは、相手に伝えたい何かに関連した体験談やエピソードを指します。とくにビジネスシーンで効果的だとされており、マーケティングの分野などで注目されています。

ストーリーテリングの効果は3つ

相手に何かを伝えるというコミュニケーションにおいて、ストーリーテリングを用いることにどのような効果があるのでしょうか?主な3つの効果について解説します。

共感度が高まる

物語には、主人公やそれを取り巻く人物が登場します。登場人物の境遇や考え、心の動きによっては、物語の聞き手が自分と登場人物を重ね合わせ、共感してくれるかもしれません。

つまり、ストーリーテリングによって共感度を高めることができれば、自分が伝えたいメッセージを相手に深く理解させることができるのです。

事実を聞くより22倍記憶に残りやすい

スタンフォード大学で心理学とマーケティングの関係について研究するジェニファー・アーカー教授によれば、人間は論理的な事実に比べて、物語の方が22倍も記憶に残りやすいとの研究結果が出ています。

事実は無機質な情報であり、意識して覚えなければなりませんが、人間味のある物語は聞き手からすると「体験」であり、その体験は印象に残るエピソードとして記憶と強く結び付くのです。

参考:Harnessing the Power of Stories | Women’s Leadership

感情を揺り動かし、行動を喚起する

物語は共感性が高ければ高いほど、聞き手は感情移入するようになります。このように没入感の高い状態で、登場人物が苦難を乗り越えたり、成功を収めたりするような場面があると、聞き手は感情を大きく揺り動かすことになるでしょう。

そうすれば、「自分もこんな風にがんばらなければ」と奮い立つ人も現れるかもしれません。ストーリーテリングは相手にメッセージを伝えるだけでなく、行動を喚起することもできるのです。

ストーリーテリングの実例

企業は実際にどのような形式でストーリーテリングを行なっているのでしょうか?CMとWebコンテンツの2種類について実例をご紹介します。

車メーカーのCM

車メーカーのテレビCMは、ストーリーテリングを用いた映像が使われるケースが多く見受けられます。例えば、SUVのようなアクティブなイメージのある車種の場合、親子で山へ星空を見に行くストーリーや、男性が一人で釣りに行くストーリーの映像がよく使われます。

つまり、「このCMに登場する車は、CMに登場するような人が、CMのような用途で使うのがおすすめ」と直感的に訴えているのです。ターゲットには、「自分もこんな風に車を使ってみたい」と感じさせ、購買意欲を掻き立てる結果につながります。

Amazonの「にっぽんをつなぐ」プロジェクト

通販大手のAmazon(アマゾンジャパン)は、日本のものづくり事業で活躍する販売事業者について、それぞれのものづくりにかける想いやストーリーを動画で紹介する「にっぽんをつなぐ」プロジェクトを開始しました。

このプロジェクトでは、地域文化や伝統産業を生かし、地方から全国へものづくりを発信する事業者の存在を消費者に知ってもらったり、事業者向けにものづくりとオンライン販売の可能性を示したりする狙いがあります。

もし動画を見る人がストーリーに感銘を受ければ、消費者なら購買行動、事業者ならオンライン出店の検討につながる効果が期待できるでしょう。

参考:Amazon「にっぽんをつなぐ」

ストーリーテリングの有効な場面

実例をご紹介したように、ストーリーテリングを実施する媒体は、テレビCMやWebコンテンツが一般的です。

では、ストーリーテリングが有効なのはどのような場面でしょうか?代表的なものを3つ解説します。

顧客ロイヤリティを獲得したい場面

顧客ロイヤリティは、顧客が特定の企業やブランドに対して感じる「愛着」や「信頼」です。顧客ロイヤリティを獲得できれば、自社の商品・サービスのファンとしてリピートしてくれたり、口コミで多くの人に拡散してくれたりするメリットが期待できます。

ストーリーテリングで顧客のファン心理を掴むことができれば、ロイヤリティを獲得できるでしょう。

経営理念を発信する場面

多くの企業は、自社の経営理念を掲げています。経営理念は、顧客へのアピールだけでなく、その会社で働く社員が同じ使命を持つための指針とも言えるでしょう。

この経営理念をストーリーテリングによって発信することによって、その会社が設立してからの歩みや、目指すべきビジョンなどを感情に訴える形で外部に伝えることができます。これによって、組織として筋の通ったブランディングや社員のモチベーション向上につながる効果が期待できます。

関連記事:リブランディングとは?ブランドの価値を見直すために大切なポイントを解説

複雑な物事を説明する場面

先ほど、ストーリーテリングは事実を伝えるよりも相手の記憶に残りやすい効果があると解説しました。これに関連し、ストーリーテリングは複雑な物事を説明する場面でも役に立ちます。

例えば、Appleの故スティーブ・ジョブズがiPodを紹介したときの「1,000曲もの音楽が、あなたのポケットに」というフレーズも、一種のストーリーテリングと言えます。

音楽プレーヤーとして「iPodにどんな機能があるのか?」という事実ではなく、「iPodを使うとあなたの生活はどうなるのか」というストーリーを示すことで、iPodという商品を簡潔に説明したのです。

参考:アップル、iPodを発表

効果的にストーリーテリングを発信する方法

実際にストーリーテリングを発信する場合、どのようなポイントを意識すると効果的なのかを3つのポイントに分けて解説します。

明確なメッセージを発出する

まずは、「企業として誰に何を提供し、どんな世界を実現したいのか」というミッションを伝えることが基本です。ミッションが明確でなければ、ストーリーに一貫性を持たせられず、訴求力を失ってしまうため、必ず明確なメッセージを発出することを心がけましょう。

ペルソナが共感するストーリーを選ぶ

ストーリーテリングを活用したマーケティングでは、ペルソナ(想定するユーザーモデル)が共感できるようなストーリーを選びましょう。マーケティングはペルソナに訴求できなければ成功する可能性は下がってしまいます。

また、顧客が商品・サービスを知ってから購買に至るまでのカスタマージャーニーマップを作成し、その入り口となるような導入をストーリーで補完すると効果的です。

ストーリーは具体的に

最後に重要となるのは、ストーリーの内容です。ストーリーには、没入感や場面のイメージのしやすさ、感情移入のしやすさが必要不可欠となります。

したがって、起承転結などの構成をしっかりと組み立てたり、登場人物の想いや経験・体験などを具体的に織り込んだりすることで、ストーリーの質を高められるようにしましょう。

人間味のある物語でマーケティングを有利に

ストーリーテリングは、伝えたいメッセージを物語仕立てにすることで、相手の記憶に残すことができ、ビジネスシーンはもちろん、幅広い場面で役に立ちます。

とくにマーケティングで活用する場合は、ミッションやストーリーコンテンツなどの訴えかける内容、そして訴えかける相手となるペルソナの的確な設定が重要です。情報や数字だけでなく、人間味のある物語でマーケティングを有利に進めてみましょう。

関連記事

「経営論点主義の弊害」を防げ コーポレートガバナンス強化のための取締役会運営の改善策

コーポレートガバナンス・コードが2021年6月、再改定された。上場企業のコーポレートガバナンスの強化が求められる中、独立社外取締役の役割がより一層重要となってきている。しかし、独立社外取締役にとって、実質的な議論がなされるような取締役会運営ができているのであろうか。本稿では、「経営論点主義の弊害」を取り上げ、それについての対応策を述べる。

マーケティング・コミュニケーションとは?役割や成功事例を解説

商品やサービスを売るために役立つコミュニケーション活動が「マーケティング・コミュニケーション」です。メディアのデジタル化により企業と顧客の双方向のやり取りが可能になり、その重要性は高まっています。 企業は広告や広報、SNSといった多彩な領域でマーケティング・コミュニケーションの展開が求められていますが、正しく実行できている企業は多くありません。 本記事では、マーケティング・コミュニケーションの意味から役割、成功事例まで解説していきます。

東京オリンピック縮小から考える、「ROE」と「ESG・SDGs」

コロナの影響により、東京オリンピック・パラリンピックはいまいち盛り上がりに欠け、「開催するべきか否か」という「二項対立」議論がわき上がる。勝敗がはっきりしているスポーツの現場とは異なり、ビジネスの現場おいて「二項対立」の思考は、最適解を見失うトラップとなりやすい。今回は、「ROE」と「ESG・SDGs」の関係性に当てはめ、考察した。

ランキング記事

1

国による「中小企業いじめ」の社会的リスク

菅政権のブレーンとして中小企業の淘汰・再編を指摘するデービッド・アトキンソン氏。彼の出身である英国の中小企業事情を調べてみた。英国では、日本以上に中小企業数が多く、企業数の増加も続いている。米国と中国を除けば、日本は中小企業数が極端に多いわけではない。中小企業の淘汰・再編にフォーカスする経済政策が本当にマクロ経済の復活につながるのだろうか。

2

注目を集めるCSV経営とは?実現のための戦略と事例を解説

CSVとは、「Creating Shared Value(共通価値の創造)」の略語です。社会的価値を戦略的に追求すれば、経済的価値も自然に生まれるという考え方を指します。 社会の利益と一企業の利益を同時に追求できることから、持続可能な経営に必要な考え方として注目されているCSV。しかしCSRとの違いや具体的なメリット、経営への落とし込み方について詳しく知らない人も多いでしょう。 そこでこの記事では、CSV経営のメリット・デメリットや国内大手企業のCSV経営事例を解説。またCSVを実践するために必要な経営戦略についても、分かりやすく説明します。

3

破壊的イノベーションと持続的イノベーションの違いは?メリットや事例を解説

破壊的イノベーションとは、既存事業のルールを破壊し、業界構造を劇的に変化させるイノベーションモデルです。 この概念は、ハーバード・ビジネススクールの教授であった故クレイトン・クリステンセン氏の著書『イノベーションのジレンマ』で提唱されました。それ以降、飽和状態となりつつある市場に必要なイノベーションとして注目されています。 本稿では、破壊的イノベーションの理論や企業の実践例から、破壊的イノベーションを起こすために必要となる戦略までを解説します。

4

中国で「食品ロス削減令」 農業振興の必要性高まる

農業国から先進国=工業国へ発展を進めてきた中国が、大食いや食料ロスを規制するとともに、農業拡大を強調している。背景には、都市化率上昇と共に、中国の食料課題が、世界にも大きな影響を与えている事情がある。

5

理想のコーポレートガバナンスを考える上で重要な「エージェンシー理論」とは?

多くの企業が、株主の利益を守るため企業経営を監視し、統制するコーポレートガバナンスを推進しています。 コーポレートガバナンスを考えるうえで有効なのが、ハーバード大学のM・C・ジャンセン氏らの論文で有名な「エージェンシー理論」(プリンシパル=エージェンシー理論)です。 コーポレートガバナンスの目的を達成するためには、まずエージェンシー理論の視点に立ち、経営者と株主の利害関係をとらえなおす必要があります。 本記事では、エージェンシー理論の意味やポイントを解説します。

人気のキーワード

海外スタートアップ情報はこちら!  寄稿・執筆者募集中