SPAC(特別買収目的会社)とは

SPAC(スパック)はSpecial Purpose Acquisition Companyの略で、直訳すると「特別買収目的会社」となります。

名前の通り、SPACは買収を目的として設立される会社です。本来、企業が上場するためには多額のコストや時間がかかります。しかし、SPACを使えばコストや時間を抑えて上場できるため、近年アメリカで注目されている手法です。

SPACの仕組み

会社が上場するためには、IPO(新規公開株)を行い、株式を発行することになります。しかし、そのためには監査法人や証券会社の厳しい審査を乗り越えなければなりません。また、多額の費用と労力もかかります。

一方、SPACは事前に会社を設立し、既に存在する企業を買収するため、費用と時間のどちらも省くことが可能です。

まず、設立者が自己資本を投じて会社を設立し、SPACとして上場します。この時点では、何も事業を行わないペーパーカンパニーです。

その後、投資家から資金を調達し、その資金を使って未公開会社の買収を行います。買収した未公開会社と合併することで、買収された未公開会社が事業を営んでいる存続会社となり、SPACも上場会社となるのです。

このように、SPACは自社事業がない会社が上場する手段であるため、「裏口上場」「空箱」と呼ばれることもあります。

SPACの歴史

株式取引の規制が今ほど厳しくなかった1980年代のアメリカにおいて、SPACのような「ブランクチェックカンパニー」と呼ばれる会社は不正の温床でした。調達した資金で自分が出資している会社を高額で買収したり、調達資金の私的流用などが行われたりしました。

そのため、米国証券取引委員会がブランクチェックカンパニーの規制を強化。情報開示の充実や、調達資金の預託の義務付けなどを定めました。その後、1993年に投資家保護の枠組みを改善した、現在のSPACに近い形が開発されたのです。

SPACのメリットとデメリット

SPACにはコストや時間を短縮して上場できたり、投資家保護の規定があったりと、買収される企業と投資家の双方にメリットがあるのが特徴です。

一方、未公開株式へ投資することになるため、一定のリスクがあるというデメリットも存在します。ここからは、SPACのメリット・デメリットについて、詳しく解説していきます。

メリット

買収される企業のメリットとしては、上場の際のコストや時間を大幅にカットできることです。

従来のIPOは、審査が厳しく行われます。特に設立して日が浅く、実績も少ないスタートアップ企業の場合、一般企業に比べるとIPOはより難しくなります。特に近年は新型コロナウイルス感染症の影響によって、IPOが難しくなっていました。

SPACであれば、審査もそれほど厳しくなく、時間も大幅に短縮してIPOできます。また、買収されることによりまとまった金額を調達できることも、買収される側の企業のメリットです。

投資家側のメリットは、投資家保護の規定があるため、投資金額を回収できる点です。

SPACでは、未公開企業の買収に失敗した場合は、投資した金額はほとんどが投資家に返還されます。そのため、比較的ローリスクで投資ができるというメリットがあります。

また、投資の費用を抑えられるという点も魅力的です。元々、未公開株式は機関投資家など、多額の資金を持っていないと投資できないものでした。しかし、上場企業であるSPAC経由で投資すると、少額の資金でも未公開株式に投資できるようになります。

デメリット

SPACのデメリットとして挙がるのが、「未公開株式への投資リスク」です。

SPACは買収先の企業についてしっかりと精査しますが、買収先が100%安全とは言い切れません。

例えばアメリカの新興自動車メーカー「ニコラ」は、2020年6月にSPACを使いNASDAQに上場。電気自動車の「テスラ」を想起させる社名や、GMとの資本提携や技術提携の発表により、株価は8倍に跳ね上がりました。時価総額は3兆円を超え、一時はフォードの時価総額を超えるほどでした。

しかし、ニコラ株を空売りしている投資調査会社が、ニコラの宣伝に虚偽があるというレポートを発表。創業者兼会長のトレバー・ミルトン氏が辞任したことにより、ニコラ株は大暴落したのです。

このように、SPACで買収される企業は情報開示が不十分な場合や、SPACに対する法整備が整っていないというリスクがあります。

SPACが注目される理由

こうしたメリット・デメリットのあるSPACは、近年アメリカで注目を集めています。2020年の7月〜9月のIPOのうち、市場から調達した資金の約半分をSPACが占めているほどです。

では、なぜSPACはそこまで注目されているのでしょうか?ここからは、その理由について解説します。

注目される理由

SPACが注目される理由として、従来のIPOを選択しない企業が増えたことがあります。

メリットでも述べたように、SPACは従来のIPOと比べて、コストや時間を節約できます。そのため、SPACでの上場を選択する企業が増えてきているのです。

1990年代後半から2000年代にかけてはIPO市場が好調だったため、SPACはあまり使われてきませんでした。

しかし、2019年にアメリカで行われたSPACによるIPO件数が59件だったのに対し、2020年は248件。金額ベースでも、2019年には136億ドルだったのに対し、2020年には834億ドルと、大幅に増加しています。(注1)

また、不正の温床のイメージが強かったSPACに著名人が参加し始めたことで、SPAC自体のイメージが改善されたことも考えられます。新型コロナウイルス感染症の影響により、従来のIPO計画が破綻してしまった企業がSPACでの上場に向かったことも一因でしょう。

ソフトバンクもSPAC設立へ

アメリカで注目されているSPACですが、日本ではまだ導入されていません。しかし、2020年12月、ソフトバンクグループがSPACのIPOを米当局に申請しました。

ソフトバンクグループの動向は日本でも報道されており、今後注目される可能性は大いにあります。

従来のIPOとSPACのIPOの違い

SPACのメリットとして、コストや時間を節約できることを説明しました。しかし、SPACでのIPOと従来のIPOには、それ以外にも様々な違いがあります。

ここでは、より具体的に従来のIPOとの違いを解説します。

従来のIPO

従来のIPOの場合、発行した株を買ってくれる機関投資家の存在が重要です。そのために、発行会社は自社の事業を投資家にプレゼンする「ロードショー」をしなければなりません。

また、たとえ機関投資家が見つかったとしても、上場審査を通過するのは容易ではないでしょう。証券取引所としては詐欺まがいの会社を上場させることはできないため、厳しく審査されます。

さらに、有力な証券会社は有力な投資家とパイプがあることも多く、公示価格の設定の際には証券会社の意向が反映されてしまう可能性も大いにあります。

SPACのIPO

これに対しSPACのIPOであれば、事業を持っていないため、投資家に事業のリスクを説明する必要がありません。上場審査も、事業を持っている会社より簡単に済ませることができます。

また、SPACのIPOには、「買収には一定数以上の株主の同意が必要」というルールがあります。これにより、資金の私的流用などを防ぐことが可能です。

SPAC上場は今後日本で認められる可能性も

日本では、まだSPACは認められていません。しかし、ソフトバンクグループが米国でSPACのIPOを申請したこと、日本もアメリカと同じように従来のIPOプロセスが複雑なことから、SPACが認められるようになる可能性は十分にあります。

今後もSPACに注目するため、ビジネス業界に常にアンテナを張り情報収集をしましょう。Frontier Eyes Onlineではビジネスで使える様々な情報を提供しています。ぜひメルマガに登録してみてください。

引用(参考)
注1:SPACリサーチ

関連記事

村上春樹さんから学ぶ経営⑳ おじさんは石とだって話ができるじゃないか

五輪に関するネット上の匿名での投稿(すなわち本音)をみると高評価が多く、無事に終わって本当に良かったと思います。ゆくゆくは二つの五輪(オリンピックとパラリンピック)の統合と、差別をなくした上で「WeThe15」ではなく「WeThe100」(弱みが全くない人など存在しません)の実現を期待したいところです。

プロスポーツチームの戦略オプション②~スタジアム・アミューズメント化経営の要所

コロナ禍において、プロスポーツチームが取り得る戦略オプションは、どのようなものがあるだろうか。今回は取り組みが活性化してきている「スタジアム・アミューズメント化」経営について、その提供価値と実現スキームに焦点を当てて解説していく。

混流生産とは?メリットや種類、自動車業界の詳細な事例を紹介

混流生産は、1つの生産ラインに複数の品種を混ぜて流す生産形態です。市場の動きへの柔軟な対応を可能にする多品種少量生産の1種で、自動車業界を筆頭にさまざまな業界に導入されています。 需要が多様化した成熟市場に不可欠な生産方式ですが、資金や技術の不足から導入できない企業は少なくありません。とりわけ、知識不足が導入する上でのネックとなっています。 そこで、本記事では、混流生産の定義やメリット、自動車業界で展開される実例を紹介します。 混流生産は、基礎的な生産方式でありながら、企業による投資で進歩が続く技術の1つです。製造業のトレンドを掴むために、本記事を参考にすると良いでしょう。

ランキング記事

1

EVは本当に最適か?⑤ 基幹産業=自動車を守る為に

ゼロカーボン社会に向け、EV(電気自動車)は本当に最適なのだろうか?シリーズ最終回は、日本が技術的優位に立つ「Hy-CAFE」(Hy:水素/C:Cold fusion/A:Ammonia/F:Fuel cell/燃料電池/E:e-fuel」を生かした、自動車の次世代エネルギー革命についてまとめた。

2

村上春樹さんから学ぶ経営⑯「文章はいい、論旨も明確、だがテーマがない」

前回のテーマは「変えてはならないことがある」でした。そこで今回は、本田宗一郎氏――「社の連中に技術的な話をしたことがない。話すことは、みな技術の基礎になっている思想についてである」「技術はテンポが早く、すぐ陳腐化してしまう。技術はあくまでも末端のことであり、思想こそ技術を生む母体だ」(『起業家の本質』プレジデント社)――のようなお話です。それでは今月の文章です。

3

「安すぎる日本」で国民は苦しむか? 最低賃金引上げの合理性を問う

最低賃金引上げが叫ばれている。日本の賃金は国際的に見て安いらしい。一般消費財でも、スターバックスコーヒーやマクドナルドなどグローバルブランドの商品が日本では先進国中で最低価格となっており、「安すぎる日本」として話題になっている。最低賃金引き上げは、本当に筋のよい政策なのだろうか。

4

相続登記義務化のインパクトとは?

不動産を相続した場合、不動産の名義を被相続人から相続人に変更する必要があり、この手続きを「相続登記」と呼ぶ。従来相続登記は任意であったが、2021年6月の法改正により2024年を目途に義務化されることになった。相続登記義務化の背景と、そのインパクトは何かを考察する。

5

プロスポーツチームの戦略オプション②~スタジアム・アミューズメント化経営の要所

コロナ禍において、プロスポーツチームが取り得る戦略オプションは、どのようなものがあるだろうか。今回は取り組みが活性化してきている「スタジアム・アミューズメント化」経営について、その提供価値と実現スキームに焦点を当てて解説していく。

人気のキーワード

海外スタートアップ情報はこちら!  寄稿・執筆者募集中