村上春樹さんから学ぶ経営 番外② 美しい話と美しくない話

NHKで興味深い番組が始まりました。本連載も過去数回、悲しく暗い内容でしたので、今回はすこし気軽な内容をお届けします。

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美しい話:数の神秘

美しい話:数の神秘

NHKで新しく始まった番組「笑わない数学」。数学者は、完全なる抽象世界をその頭脳(宇宙と言ってもよいでしょう)だけで構築できる稀有な才能を持った人であり、同時に、数学者藤原正彦氏が指摘するように、数学には美的感性が必須です(例えば、藤原正彦著「数学者列伝 天才の栄光と挫折」文春文庫)。

同番組は、数学の美しさと神秘をかみ砕いて解説してくれる番組で、学生時代に出会いたかったと切に思います。今後見逃せない番組であり、既放送の3回を簡単に紹介します。

第1回:素数とは何か

過去の連載でも書きましたが、物理学者はこの宇宙を構成する素粒子(素となる粒子)、すなわち、この宇宙の最小単位(いわば、宇宙のレゴブロック)を追い求めています。

数学者にとっての素粒子は素数です。素数は数学者を惹きつけてやまない数で、関連書籍は星の数ほどあり、数学界でももっとも著名かつ100万ドルの賞金がかけられている「リーマン予想」は素数にも関連する難問です。

第2回:無限とは何か

自然数(1,2,3,・・・10・・・10000・・・)は、いうまでもなく、偶数(2,4,6・・・)と奇数(1,3,5・・・)に分けることができますから、偶数の数×2=奇数の数×2=自然数の数となるのが常識です。

しかし、偶数の数=素数の数=自然数の数であることが証明されているのです!

「アルキメデスと亀のパラドックス」を聞いたことがある人も多いと思いますが、無限は人間の常識が通じない概念であり、無限の神秘に人類で初めて気づいたカントール(上の証明をした数学者)は、その代償でしょうか、精神に異常をきたしました。

第3回:4色定理

どんな地図でも4色で塗り分けることができるか?という問題です。

素数とは何か、無限とは何かと比較すると馴染みやすい問題で、1976年に、地図を約1400に分類し、それらを全てコンピュータを使って調べ上げることで証明されました。いうまでもなく、コンピュータを使えば誰でもできるわけではなく、圧巻の業績なのですが、数学者の中にはコンピュータに頼らず頭脳で証明して初めて証明であると考える数学者もおり、将来進展があるかもしれません。

美しくない話:…

美しくない話:…

NHKのような巨大組織に、何も課題、問題がないということはあり得ないでしょう。しかしながら、番組だけで比較すれば、日本で最も優れた番組を提供する企業と筆者は考えています。

先月の参議院選挙でNHK党は比例得票率2.4%を獲得したことで政党要件を満たし、政党助成金2.6億円が支払われることになりました。同党所属で議席を獲得したガーシー氏は国会に当院する予定はないとのことです(議員報酬=歳費2200万円+文書通信交通滞在費1200万円+3人の秘書+格安の事務所=が支払われる)。

国民がNHKに払う受信料を糾弾する党。当院する意思がない議席のほうがはるかに問題であることは明らかであり、美しくありません。

美しい話:イタリアの村

美しい話:イタリアの村

過去の連載で、哲学者にして経営者のブルネロ・クチネリ氏を紹介しました。

簡単に振り返りますと……クチネリ氏の経営理念は、「消費者と生産者の双方に価値ある手作りの製品、美しい労働環境、快適な休息、手仕事の価値が隅々まで行き渡った会社の文化。倫理、尊厳、道徳と一体化した利益を生み出すこと、利益と贈与の均衡に実態を与えること」であり、妻の故郷の荒廃した古城を買い取り本社とし(地方再生のため)、著作の口絵は、それはそれは息をのむような美しい本社の写真で彩られています。

その後出版された安西洋之、中野香織著「新・ラグジュアリー」(クロスメディア・パブリッシング)でも、クチネリ氏は取り上げられています。

同書によれば、ブルネロ・クチネリ社は、2024年に落成予定の図書館の建築を進めています。その図書館に蔵書されるのは、哲学、建築、文学、詩、職人に関する本に限定され、最終的には40~50万冊が予定されているそうです。また、クチネリ氏は古代ギリシアの賢人の言葉「全ては土地から生まれる」を引き合いにし、「私はこの風景の番人である」としています。

美しくない話:…

美しい話:イタリアの村

BS日テレで週一度放送されている「小さな村の物語 イタリア」。その名の通り、イタリアの小さな村を紹介する番組です。派手なこと、わくわくすることは何も起きません。静かで穏やかな街並み、変わらぬ日常を淡々と暮らす人々。テーマ曲も郷愁を誘います。とても美しい番組です。

この番組のスポンサーは東芝。同社の資本をめぐる騒動は美しいとは言えません。顧客に、社会に貢献するため日々奮闘している社員は涙していることでしょう。提供番組に相応しくあってほしいと願います。

▼村上春樹さんから学ぶ経営(シリーズ通してお読み下さい)
「村上春樹さんから学ぶ経営」シリーズ

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