スガシカオの音楽を初めて耳にしたとき、まず印象づけられたのは、そのメロディーラインの独自性だったと思う。彼のメロディーラインは、ほかの誰の作るメロディーラインとも異なっている。多少なりとも彼の音楽を聴き込んだ人ならおそらく、メロディーをひとしきり耳にすれば、「あ、これはスガシカオの音楽だな」と視認(聴認)することができるはずだ。(中略)そういうその人ならでは、、、、、、、の心地よいテイストにいったん病みつきになると、なかなかそこから離れられない。下世話な言い方をすれば、ヤクの売人がカスタマーに注射を一本打っておいてから、「どや、兄ちゃん、よかったやろ?クーっとくるやろ?また今度お金もっておいで」、みたいなことになってしまうわけだ。

「意味がなければスイングはない」(文藝春秋)――村上春樹さんが音楽について語った本――からの引用です。村上春樹さんは在学中からジャズ・バーを経営していたのですが、専業作家転身後は「音楽を仕事の領域にもちこみたくない。純粋に個人的な喜びとして、音楽とかかわっていたかった」。しかし、やがて音楽について語りたいという衝動が強くなり、この本として実現しました。
村上春樹さんは無類の音楽好きとして知られ、海外でも中古のレコードショップを見て回るのが趣味で、良質な中古レコード店があるかどうかが「良い都市」の基準になっているほどです。保有している音楽CD、レコードの数は一万枚を超すそうです(1日1枚聴いても30年かかります!)。

つい、またお金を~

さて、企業が、自分だけに許された場所すなわちニッチを確立するとは、どのような状態になることでしょうか?その答えが、お客様が「またをお金持って行ってしまう」ということだと思うのです。

私はボクシングジムに通っていますが、そこで流れる有線音楽。聞いたことがない曲でも、「よい曲だな、よい声だな」と感じて歌い手を確認するとやはり〇〇さんの新曲だったりします(聴認できる)。
芸術に限らず日常生活においても、私はAビールが好き、いや僕はBビールだな、僕はC百貨店しか行かない、いやいや百貨店といえばD百貨店でしょう・・・。あのお菓子だけはやめられない、あの焼き鳥屋には通ってしまう。

これらの選好は数値で説明できるものではありません。誰しもあると思うのです、この歌手の、あの作家の新作がでたら必ず買う。時に期待未満であっても後悔しない、不調なこともあるよ、きっと次はすごいぞと思う。

ニッチとは贔屓(ひいき)である

トイレのボタンイメージ

ニッチとは日本語でいえば「贔屓」(ひいき)なのです。もしくは「その企業の名前を聞いて思い浮かべるもの」「暖簾」(のれん)「枕詞」(まくらことば)。強い企業は枕詞が明確です。ウォシュレットと言えばTOTO、スパークプラグと言えば日本特殊陶業、セラミックコンデンサと言えば誰しも村田製作所を思い浮かべる(二つ目は自動車ファン、三つめは設計者限定ですが)。

ここで少し話を変えまして、最近サブスクというカタカナが流行りです。ところで、なぜ日本人はこれほど日本語に誇りをもたないのでしょうか?
「Go To Travel」、「STAY HOME」、「ソーシャルディスタンス」。滑舌悪い私には発音できません。

「おしりだって、洗ってほしい。」(TOTO)など数々の名コピーを生み出した異才 仲畑貴志氏(コピーライター)は、会議で「アカウンタビリティが」と言う人がいて、

「それなに?」
「説明義務」
「そんな簡単なこと、日本語で言おうよ」

と嘆いています(ちなみに、仲畑氏は日本電産創業者永守重信氏の高校の後輩で、「永守氏に首相になってほしい」と書いています)。

究極のサブスク、ファンクラブ

ファンのイメージ

閑話休題。定期的にいただける収入がある。事業を行う上でこれほど有難いことはないでしょう。そのような心の支えがあると、余裕をもって事業に取り組むことができますし、また、それを原資として新しい事業に取り組むこともできるでしょう。
私がすごいと思う定期収入の仕組みはファンクラブです。今では当然のように思われていますが、最初に考えた人は偉大です。最強のアイドルグループ「嵐」は年間100億円もの会員収入があるそうです(年間4000円×250万人)。
関西大学の宮本勝浩名誉教授によると、嵐の経済効果は、会員費収入の他、コンサートのチケット代金225億円、CD・DVD等の売上高150億円、CM・テレビ出演の収入30億円、総額500億円(報道されている700億円は、ファンの交通費・宿泊費などを含む)。
例えば、メンバー1人に5億円の報酬を支払っても25億円でしかありません。ジャニーズ事務所が高収益企業であろうことは容易に推定できます。

再び閑話休題。なぜここでサブスクの話をしたのか。それは、ニッチとは無形のサブスク、いや、経常収入なのです。この歌手が新しいアルバムを出したら必ず買う、この作家が新作を出したら必ず買う。

時に期待外れであってもまた新作がでると買ってしまう。極端にいえば弱みも含めて好きでいてくれる。その企業が提供するものに病みつきになり、離れなくなる。知らず知らずのうちにお金を持って行ってしまう。これこそがニッチであり、このような関係をお客様と構築出来たら無敵です。

まとめの前に・・・

昨年(2019年)、私は詩集を出版しました。ソニーミュージックの作詞講座に通い、土日には偉大な作詞家の詩を書き写して勉強しました。その一つがスガシカオさんの「夜空ノムコウ」(SMAPに提供)です。

まとめです。

企業からみると自分だけの場所を獲得する。顧客からみると「枕詞企業」になる。すなわちニッチを確立し、お客様にファンとなっていただき、またお金持ってきていただけるようになりたいものです(弊社も私も)。

※「ヤク」とは一般に違法薬物を指し、所持や使用は犯罪です。このケースは、村上春樹さんによる「もののたとえ」であり、違法行為を助長する意図はありません。

▼過去記事はこちら
村上春樹さんから学ぶ経営①~作品に潜む成功へのヒント~
村上春樹さんから学ぶ経営②~作品に潜む成功へのヒント~
村上春樹さんから学ぶ経営③「創造する人間はエゴイスティックにならざるを得ない」
村上春樹さんから学ぶ経営④~作品に潜む成功へのヒント~ 危機と指導者
村上春樹さんから学ぶ経営⑤君から港が見えるんなら、港から君も見える
村上春樹さんから学ぶ経営⑥靴箱の中で生きればいいわ
村上春樹さんから学ぶ経営⑦「僕より腕のたつやつはけっこういるけれど…」
村上春樹さんから学ぶ経営⑧退屈でないものにはすぐに飽きる

関連記事

ノーベル経済学賞で再注目 オークション理論とは~「ゲーム理論」の大家が受賞

2020年のノーベル経済学賞は、スタンフォード大学のポール・ミルグロム教授とロバート・ウィルソン名誉教授の両名に授与された。「ゲーム理論」の一分野である「オークション理論」研究に関する功績が評価された結果だ。

資金調達ラウンドとは?基礎知識やシード期における資金調達のポイントを解説

投資には、投資家と企業のふたつの目線があり、それぞれに目的があります。 投資家は、投資によって利益を出したり、CVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)の場合は自らの事業にシナジー効果を出すなどの目的を持っています。 一方企業側は、事業を立ち上げたり、事業を継続していくために必要な資金を投資家から調達する目的を持っています。 そこで、互いの目的を果たすため、投資家が投資を決める上でわかりやすい指標となるのが「資金調達ラウンド」です。 本稿では、企業側の目線に立ち、資金調達ラウンドの基礎知識や、ラウンドの最初期にあたるシード期に着目した資金調達方法などを解説します。

「従業員エンゲージメント」向上で業績はあがる 「経営人材」へのサプリメント 第4回

「従業員エンゲージメント」(企業への貢献意欲、信頼、一体感)を向上させる取り組みが、多くの企業で行われている。従業員エンゲージメントが高い組織では、組織の活性化、業績の向上、離職率の低下など、様々な点で効果があるとされている。今回は、従業員エンゲージメントとはどのようなものか、終身雇用の崩壊した日本企業で、意欲をどのように向上させるのか、具体的な方法を含め紹介する。

ランキング記事

1

「ニューノーマル」って言うな!

「ニューノーマル」や「新しい生活様式」という言葉が、市民権を獲得し始めている。「これからは過去の常識が通用しなくなる」「元には戻らない」といった、勇ましい言葉が跋扈(ばっこ)している。しかし、我々人間は過去において、コロナ禍とは比較にならないほど大きな、断層的な変化を乗り越えてきた。現在、我々の眼前にあるのは本当に「ニューノーマル」なのだろうか。

2

ポストコロナ 地方銀行の生き残り戦略を探る ㊤ 展望編「元の状態には、戻らない」~経営統合、M&Aも視野に~

数十年に一度の大きな混乱が生じた場合、大事なことは「決して元の状態に戻ることはない」と考えることである。 巷では、新型コロナショック(パンデミック)のニュースで溢れており、待望であった東京オリンピックの1年延期も決定され、日本(特に東京都)における感染はいよいよ第二の波を迎えようとしている。そして、日本以上に、米国やイタリア等の欧米諸国の感染の広がりは日々激しさを増している。政府や各都道府県の首長が、在宅勤務や外出自粛を要請している中で、私自身もすっかり会食の機会も減り、自宅等で今後の経済や事業戦略を熟考する時間が増えてきたが、皆様も同じ状況ではなかろうか。 この記事では、人口減少による「労働力人口の不足」及び「消費市場の縮小」、そして「マイナス金利」といった三重苦を抱える地方銀行のビジネスが、新型コロナショック後の混迷の時代にどのように変容していくのであろうか、について考えてみた。

3

ノーベル経済学賞で再注目 オークション理論とは~「ゲーム理論」の大家が受賞

2020年のノーベル経済学賞は、スタンフォード大学のポール・ミルグロム教授とロバート・ウィルソン名誉教授の両名に授与された。「ゲーム理論」の一分野である「オークション理論」研究に関する功績が評価された結果だ。

4

村上春樹さんから学ぶ経営⑤君から港が見えるんなら、港から君も見える

今回は、「差異化」について深堀りしていく予定でした。が、その章は後回しにしまして、第4回「危機と指導者」で言及した「心」(そして利益)について、もう一度取り上げてみたいと思います。

5

リカーリングビジネスはサブスクリプションとどう違う? 新しい収益モデルを解説

従来の商品やサービスを売ったら終わりの「買い切り型」モデルとは異なるビジネスモデルが目立ちます。 そのなかのひとつが「リカーリング」です。リカーリング型のビジネスには様々なメリットやデメリットがあります。 本記事では、リカーリングのメリット・デメリットや、サブスクリプションとの違いについて、具体例を挙げながら解説します。

人気のキーワード

海外スタートアップ情報はこちら!  寄稿・執筆者募集中