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村上春樹さんから学ぶ経営⑨どや、兄ちゃん、よかったやろ?クーっとくるやろ?
過去2回、「ニッチ」とは「すきま」ではなく、はるかに深い概念であることを見てきました。では、どんな状態になると真の「ニッチ企業」になったといえるのでしょうか?
スガシカオの音楽を初めて耳にしたとき、まず印象づけられたのは、そのメロディーラインの独自性だったと思う。彼のメロディーラインは、ほかの誰の作るメロディーラインとも異なっている。多少なりとも彼の音楽を聴き込んだ人ならおそらく、メロディーをひとしきり耳にすれば、「あ、これはスガシカオの音楽だな」と視認(聴認)することができるはずだ。(中略)そういうその人ならではの心地よいテイストにいったん病みつきになると、なかなかそこから離れられない。下世話な言い方をすれば、ヤクの売人がカスタマーに注射を一本打っておいてから、「どや、兄ちゃん、よかったやろ?クーっとくるやろ?また今度お金もっておいで」、みたいなことになってしまうわけだ。
「意味がなければスイングはない」(文藝春秋)――村上春樹さんが音楽について語った本――からの引用です。村上春樹さんは在学中からジャズ・バーを経営していたのですが、専業作家転身後は「音楽を仕事の領域にもちこみたくない。純粋に個人的な喜びとして、音楽とかかわっていたかった」。しかし、やがて音楽について語りたいという衝動が強くなり、この本として実現しました。
村上春樹さんは無類の音楽好きとして知られ、海外でも中古のレコードショップを見て回るのが趣味で、良質な中古レコード店があるかどうかが「良い都市」の基準になっているほどです。保有している音楽CD、レコードの数は一万枚を超すそうです(1日1枚聴いても30年かかります!)。
つい、またお金を~
さて、企業が、自分だけに許された場所すなわちニッチを確立するとは、どのような状態になることでしょうか?その答えが、お客様が「またをお金持って行ってしまう」ということだと思うのです。
私はボクシングジムに通っていますが、そこで流れる有線音楽。聞いたことがない曲でも、「よい曲だな、よい声だな」と感じて歌い手を確認するとやはり〇〇さんの新曲だったりします(聴認できる)。
芸術に限らず日常生活においても、私はAビールが好き、いや僕はBビールだな、僕はC百貨店しか行かない、いやいや百貨店といえばD百貨店でしょう・・・。あのお菓子だけはやめられない、あの焼き鳥屋には通ってしまう。
これらの選好は数値で説明できるものではありません。誰しもあると思うのです、この歌手の、あの作家の新作がでたら必ず買う。時に期待未満であっても後悔しない、不調なこともあるよ、きっと次はすごいぞと思う。
ニッチとは贔屓(ひいき)である
ニッチとは日本語でいえば「贔屓」(ひいき)なのです。もしくは「その企業の名前を聞いて思い浮かべるもの」「暖簾」(のれん)「枕詞」(まくらことば)。強い企業は枕詞が明確です。ウォシュレットと言えばTOTO、スパークプラグと言えば日本特殊陶業、セラミックコンデンサと言えば誰しも村田製作所を思い浮かべる(二つ目は自動車ファン、三つめは設計者限定ですが)。
ここで少し話を変えまして、最近サブスクというカタカナが流行りです。ところで、なぜ日本人はこれほど日本語に誇りをもたないのでしょうか?
「Go To Travel」、「STAY HOME」、「ソーシャルディスタンス」。滑舌悪い私には発音できません。
「おしりだって、洗ってほしい。」(TOTO)など数々の名コピーを生み出した異才 仲畑貴志氏(コピーライター)は、会議で「アカウンタビリティが」と言う人がいて、
「それなに?」
「説明義務」
「そんな簡単なこと、日本語で言おうよ」
と嘆いています(ちなみに、仲畑氏は日本電産創業者永守重信氏の高校の後輩で、「永守氏に首相になってほしい」と書いています)。
究極のサブスク、ファンクラブ
閑話休題。定期的にいただける収入がある。事業を行う上でこれほど有難いことはないでしょう。そのような心の支えがあると、余裕をもって事業に取り組むことができますし、また、それを原資として新しい事業に取り組むこともできるでしょう。
私がすごいと思う定期収入の仕組みはファンクラブです。今では当然のように思われていますが、最初に考えた人は偉大です。最強のアイドルグループ「嵐」は年間100億円もの会員収入があるそうです(年間4000円×250万人)。
関西大学の宮本勝浩名誉教授によると、嵐の経済効果は、会員費収入の他、コンサートのチケット代金225億円、CD・DVD等の売上高150億円、CM・テレビ出演の収入30億円、総額500億円(報道されている700億円は、ファンの交通費・宿泊費などを含む)。
例えば、メンバー1人に5億円の報酬を支払っても25億円でしかありません。ジャニーズ事務所が高収益企業であろうことは容易に推定できます。
再び閑話休題。なぜここでサブスクの話をしたのか。それは、ニッチとは無形のサブスク、いや、経常収入なのです。この歌手が新しいアルバムを出したら必ず買う、この作家が新作を出したら必ず買う。
時に期待外れであってもまた新作がでると買ってしまう。極端にいえば弱みも含めて好きでいてくれる。その企業が提供するものに病みつきになり、離れなくなる。知らず知らずのうちにお金を持って行ってしまう。これこそがニッチであり、このような関係をお客様と構築出来たら無敵です。
まとめの前に・・・
昨年(2019年)、私は詩集を出版しました。ソニーミュージックの作詞講座に通い、土日には偉大な作詞家の詩を書き写して勉強しました。その一つがスガシカオさんの「夜空ノムコウ」(SMAPに提供)です。
まとめです。
企業からみると自分だけの場所を獲得する。顧客からみると「枕詞企業」になる。すなわちニッチを確立し、お客様にファンとなっていただき、またお金持ってきていただけるようになりたいものです(当社も私も)。
※「ヤク」とは一般に違法薬物を指し、所持や使用は犯罪です。このケースは、村上春樹さんによる「もののたとえ」であり、違法行為を助長する意図はありません。
▼村上春樹さんから学ぶ経営(シリーズ通してお読み下さい)
「村上春樹さんから学ぶ経営」シリーズ
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