人と違う道

ozawaseiji

『ものを創造する人間は基本的にエゴイスティックにならざるを得ない、というとけっこう傲慢な物言いになってしまうが、それは好むと好まざるとにかかわらず、紛れもない事実である。いつもまわりを見まわして、波風を立てないように、他人の神経を逆なでしないように、常にうまい落としどころを考えながら生活を送っていたら、どのような分野であれ、その人には創造的な仕事なんてまずできないだろう』。

『小澤征爾さんと、音楽について話をする』(新潮社)からの引用です。同書は指揮者小澤征爾氏との対談集ですが、対談というよりは、「音楽が大好きな二人がウィスキーを傾けつつ、音楽を聴きながら音楽について語りあった」本です。音楽に関して門外漢の筆者は専門的なことは一切理解できませんでしたが、そんな人間が読んでも楽しいので、音楽好き、特にクラシック音楽好きの人にはたまらない一冊ではないでしょうか。

閑話休題。新しい技術・製品を開発するにあたっては、いわずもがなではありますが、人と同じことをやっていても無理です。このことを端的に言い表したのが、クラレや中国電力などの元社長にして篤志家としても知られる大原孫三郎氏の一言です。

「仕事を始めるときには、十人のうち二、三人が賛成するときにはじめなければならない。一人も賛成がないというのでは早すぎるが、十人のうち五人も賛成するようなときには、着手してもすでに手遅れだ。七人も八人も賛成するようならば、もうやらないほうが良い」(『大原孫三郎-善意と戦略の経営者』兼田麗子、中公新書)。

いかにして人と違う道を往くか?

現実には、皆が共通の目標に向かって開発をしている業界が多いように思います。その象徴的な事例はテレビです。大画面、画素数、低消費電力・・・その時々で訴えるポイントは変わってきましたが、結局は同じ土俵での競争だったと言えそうです。もちろん、開発の現場では差異化を必死に追及していたことは間違いないでしょうが、家電量販店に並べられている多くのテレビのメーカー名を隠したとしたら、消費者にはどのブランドかわかる人はいないでしょうし、もしかしたらプロメーカー関係者でもわからないかもしれません。

プロでも区別がつかないような製品であれば、価格競争しかないというのは当然のことでしょう。電波を受信して、映す――という基本構造が変わらない以上、当然ではあるのですが・・・。

同じロードマップを描いても…

carnegi

一方、営業利益率を継続的に計上し、優れた企業として著名な企業に教えていただいた言葉で印象的であったのは、「皆が共有している『線形の』技術ロードマップでは差異化はできない」というものでした。

なるほどと私は膝を打ちました。多くの業界においては、業界全体で方向性が共有された技術ロードマップがあります。その産業に属している企業のすべてが同じ目標に向かって産業として努力します。これは、消費者からみれば効率的なシステムといえますし、業界全体が認知している技術開発ロードマップにのっとり黙々と技術開発に取り組むのは、修行僧のような美しさもあります。職人の世界といっても良いでしょう。

しかし、「共有されている」すなわち「線形な」技術開発では差異化は容易ではないことになります。同一の土俵での限定的差異化競争になってしまい、おそらく最終的には価格競争になってしまうということです。

顧客が欲してからでは遅い

Boston old state house at night

そもそも、顧客(消費者)でさえ、自分が何を欲しているのかはわからないのです。かのウォークマンだって、量販店、メディア、社内での評価は低く、当初、月間販売台数は5000台に満たなかったとか。IBM初代社長トーマス・ワトソンが「コンピュータの需要は世界で5台」と言ったとされていることに関しては「史実ではない」との指摘もありますが、とはいえ、100兆円産業になるとは夢にも思わなかったことでしょう。

筆者が尊敬する複数の経営者は言っていました。「顧客の話を聞きに行け、でも聞くな」と。顧客が欲しいというようなものはもう遅い。顧客は同業他社にも同じことを言っているはずで、それではたいした利益は得られない。顧客の話を聞くことで、顧客が気付いていない需要を感じるセンスが重要である、という教えでした。

稀代の新「製品」開発者秋元康さんも企画会議では上記大原氏と全く同じ方針であることをインタニューで述べており(十人のうち一人が賛成するぐらいが良い)、また、著作の中では「予定調和を壊す。人は予想が裏切られたときに面白いと思う」「嫌われる勇気。わがままに生きる勇気。皆がおもしろいとおもう企画ほどつまらないものはない」と述べています(「秋元康の仕事学」、NHK出版)。

まとめ

同業他社と違うロードマップを歩んだり、消費者アンケートで言及されることのない製品開発に取り組むのは勇気が要ります。傲慢といわれようが、変人と思われようが、いかにエゴイスティックになれるか――。

▼村上春樹さんから学ぶ経営(シリーズ通してお読み下さい)
①作品に潜む成功へのヒント
②作品に潜む成功へのヒント(差異化について)
④危機と指導者
⑤「君から港が見えるんなら、港から君も見える」
⑥「靴箱の中で生きればいいわ」
⑦「僕より腕のたつやつはけっこういるけれど…」
⑧「退屈でないものにはすぐに飽きる」
⑨「どや、兄ちゃん、よかったやろ?クーっとくるやろ?」
⑩「王が死ねば、王国は崩壊する」
⑪「最も簡単な言葉で最も難解な道理を表現する」
⑫「生涯のどれくらいの時間が、奪われ消えていくのだろう」
⑬「あれは努力じゃなくてただの労働だ」

関連記事

エリアマーケティング戦略とは?分析のポイントや手法を解説

これから店舗を出店するとき、あるいは既存店舗の戦略の見直しを行うときに有効なのが「エリアマーケティング」です。特に、今後人口の減少が見込まれている日本では、競合店との競争は激化の一途をたどると予想されます。限られた顧客を確保するためにも、エリアマーケティングの重要性はますます高まっていくでしょう。 ここではエリアマーケティングを行う目的やその指標、分析のポイントなどについて解説します。

対談ウェビナー① 「次世代経営者の人材育成」 株式会社スコラ・コンサルト 柴田昌治プロセスデザイナー代表

どうして、日本企業には経営人材が育たないのか。何が変革を阻んでいるのか。大企業が抱える病理とは…。バブル期の80年代後半から、日本企業の「組織風土改革」に取り組んできた株式会社スコラ・コンサルト創業者の柴田昌治氏と、フロンティア・マネジメント株式会社大西正一郎代表が、2回に分けて討議します。

マーケティングファネルはBtoBでも使える?意味や活用法を解説

マーケティングファネルは、マーケティングにおいて効果的なアプローチを行うために用いられるビジネスの基本的な考えです。 購買のどの段階で見込み客が脱落しているかを把握するため、マーケティングファネルは有効な手段となります。そのため、まずはマーケティングファネルがどのようなものであるのかを理解しておくと良いでしょう。 本記事では、マーケティングファネルの基本的な考え方を徹底解説します。BtoCだけでなくBtoBにおいても活用できる考え方なので、ぜひ参考にしてください。

ランキング記事

1

「クララが立った!」を英訳せよ

「クララが立った!」の翻訳は容易ではない。『アルプスの少女ハイジ』を知らない国の人に、「Clara stood up !」や「克拉拉站着!」と直訳しても意味を成さない。言葉には様々な意味や記号が埋められている。それは、年代、国、民族、言語で大きく異なるからだ。

2

閉店相次ぐ銀座 コロナ禍で商業施設苦境に

東京の代表的な商業地である銀座で、店舗の閉店が増えつつある。メインストリートの「中央通り」から中に入った通りでは、閉店した店舗が目立ち、中央通りに立地するビルでも空室が散見される。

3

リカーリングビジネスはサブスクリプションとどう違う? 新しい収益モデルを解説

従来の商品やサービスを売ったら終わりの「買い切り型」モデルとは異なるビジネスモデルが目立ちます。 そのなかのひとつが「リカーリング」です。リカーリング型のビジネスには様々なメリットやデメリットがあります。 本記事では、リカーリングのメリット・デメリットや、サブスクリプションとの違いについて、具体例を挙げながら解説します。

4

内部統制報告制度「J-SOX法」とは? なぜできたのか?

企業における内部統制は、様々な業務が適正に行われ、組織が適切にコントロールされているかどうかをチェックすることを指しますが、その中でも事業年度ごとの財務報告の内部統制について定めているのが、J-SOX法(内部統制報告制度)と呼ばれる制度です。 J-SOX法は、事業年度ごとに公認会計士ないしは監査法人の監査を受けた内部統制報告書と有価証券報告書とともに内閣総理大臣へ提出することが義務付けられています。 また違反した場合は、金融商品取引法に「(責任者は)5年以下の懲役または500万円以下の罰金またはその両方(法人の場合は5億円以下の罰金)」と罰則が定められています。 しかし、結果的に企業の内部統制を強化し、不正会計などのリスクを減らすことができるため、J-SOX法は企業にとってもメリットのある制度と言えます。 この記事では、J-SOX法の解説のほか、ITシステムに関する「IT統制」についても解説しています。企業の監査部門や、内部統制に関する部署で働いている方は、ぜひ参考にしてください。

5

パワー半導体の世界シェアは?注目市場の今後の動向を解説

パワー半導体(パワートランジスタ)は、家電や電気自動車をはじめとして、さまざまなデバイスの電源管理に使われています。 多くの分野で需要が伸びており、長期的な成長が期待できるマーケットです。 日本の企業や大学発ベンチャーが競争力を保っている分野でもあり、「パワー半導体強国」として世界市場でのシェアを獲得するべく、積極的に研究開発を行っています。 本記事では、世界規模で成長をつづけるパワー半導体の市場規模や、今後の展望を解説します。

人気のキーワード

海外スタートアップ情報はこちら!  寄稿・執筆者募集中