「リバース・イノベーション」とは?事例とともに解説

イノベーションといえば、アメリカのシリコンバレーのような先進国で生まれるものだと考える人が少なくありません。しかし、今やイノベーションは新興国や途上国が震源地となり、優れた製品やサービスが先進国へ「逆」輸入されるという潮流ができつつあります。 通常とはイノベーションの方向が「逆(リバース)」であることから、これを「リバース・イノベーション(reverse innovation)」と呼びます。 本稿では、海外に生産拠点を持つ企業経営者向けに、リバース・イノベーションの仕組みや考え方、成功事例を解説します。

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リバース・イノベーションとは?

リバース・イノベーションとは、途上国や新興国向けに開発されたプロダクトが「逆」輸入され、先進国の市場で普及する現象です。

従来のグローバリゼーションの枠組みでは、イノベーションはシリコンバレーをはじめとした先進国企業で起こり、新たな製品やサービスが途上国のマーケットへ一方向的に浸透していくものだと考えられていました。

しかし、近年はそれとは逆に、新興国や途上国に開発拠点を設け、現地で生み出された製品やサービスを取り入れる動きが増えてきています。

リバース・イノベーションの生みの親・ビジャイ・ゴビンダラジャン教授

リバース・イノベーションという発想は、2009年にダートマス大学のビジャイ・ゴビンダラジャン教授とクリス・トリンブル教授によって提唱されました。

ゴビンダラジャン教授はイノベーションの世界的な権威であり、かつて米国GE社のチーフ・イノベーションコンサルタントとして、途上国発のイノベーションに自ら携わった人物です。

ゴビンダラジャン教授とトリンブル教授の共著”Reverse innovation”は世界的なベストセラーとなり、従来のイノベーションのイメージを逆転させました。

リバース・イノベーションとグローカリゼーションの違い

2000年代初頭まで、多国籍企業のグローバル戦略の中心はグローカリゼーション(glocalization)でした。

グローカリゼーションとは、グローバル化(globalization)、現地化(localization)の2つの言葉を組み合わせた造語です。先進国のプロダクトを途上国に向けてローカライズ(仕様変更)していく経営戦略を指します。

グローカリゼーションでは資本や開発拠点は先進国に集まりますが、リバース・イノベーションでは原則として新興国に置かれます。

また、既存のプロダクトを洗練させるのではなく、ターゲットとなる新興国の状況に合わせ、ゼロから製品開発を行うケースも多々あります。

2000年代に入り、グローカリゼーションからリバース・イノベーションに移行する多国籍企業が増えてきました。

リバース・イノベーションが注目を集める2つの理由

リバース・イノベーションが多国籍企業の注目を集める理由は2つあります。

理由1.多国籍企業の成長戦略に適している

中国やインドなどの新興国の経済が発展し、巨大なマーケットに成長した昨今、グローカリゼーションのような先進国主導型のグローバル戦略は通用しません。

途上国の市場は今や激戦区であり、先進国のプロダクトの単純な廉価版ではシェアを得られなくなっています。

経済産業省によると、世界の実質GDP成長率における新興国・途上国のシェアは4割も占めています。新興国の巨大なマーケットで成功するためには、現地ニーズに合わせた製品開発やマーケティングが欠かせません。

先述の電池で動く心電図マシンのように、新興国での商品開発を行う過程で、先進国にはない新たな技術やアイディアが生まれるケースもあります。

理由2.新興国を開発拠点にした方が効率的

新興国のニーズを把握するためには、新興国に開発拠点を置くのがもっとも効果的です。例えば、インドでの心電図マシン開発の例を挙げてみましょう。

先進国の心電図マシンを改良し、コストカットに成功しても、インドでは普及しません。インドには病院がほとんどなく、マシンは持ち運びできるものでなければならないためです。

また、インドは農村地帯が多く、マシンに必要な電力供給さえままならない地域が少なくありません。そこで、米国GE社はインドに開発拠点を起き、電池で動くリュックサック型の心電図マシンを開発しました。

このマシンはアメリカに「逆」輸入され、現在では世界90ヶ国でシェアを獲得しています。新興国の市場で成功するには、まず新興国の実情を知る必要があります。

日本企業におけるリバース・イノベーションの事例2つ

新たなグローバル戦略として、リバース・イノベーションを選ぶ日本企業も少なくありません。国内のリバース・イノベーションの事例を2点紹介します。

事例1.株式会社LIXILの循環型無水トイレシステム開発

LIXILはベトナムのハノイ建設大学と協力し、水を使用しない循環型無水トイレシステム「エコ・サニテーション」の開発を進めています。インフラが整っておらず、水の確保もままならないベトナムの農村から、製品開発の着想を得ています。ケニアやインドネシアでもエコ・サニテーションでし尿を安全に再資源化する試みを行っています。[注1]

事例2.本田技研工業株式会社のスーパーカブの海外戦略

本田技研工業の大ヒット製品スーパーカブは、海外でも人気が高く、コピー商品が出回っていました。これを逆に利用したのが、ユニークな海外戦略です。ホンダは模倣品のメーカーの1社を買収し、合弁会社にすることで、多額のコストをかけずに現地の生産拠点を確保しました。

日本企業がリバース・イノベーションを行ううえでの2つのポイント

海外に生産拠点を持つ日本企業がリバース・イノベーション戦略をとる場合、どんな課題があるのでしょうか。2つのポイントに注意する必要があります。

ポイント1.グローバル人材を育成し、ダイバーシティに対応した組織体制の構築を

リバース・イノベーションでは、新興国や途上国に資本を集中させるのが基本です。現地の生産開発拠点では、日本とは宗教・文化が異なる現地人材の採用も必要になってきます。日本の商習慣が通用しない局面も多々あるため、まずはグローバル人材を育成し、ダイバーシティに配慮した組織体制を構築しましょう。

関連記事:「海外現地法人」と「海外支店」「駐在員事務所」の違い。会計は? 税は?

ポイント2.先進国のプロダクトの「移植」ではなく現地のニーズの「明確化」

リバース・イノベーションでやってはならないのが、「先進国のプロダクトをそのまま新興国に当てはめよう」という考え方です。新興国と先進国では、文化や宗教の違いをはじめとして、インフラ、生活習慣、商習慣、所得水準など、様々な「差」があります。

この「差」を明確化し、現地の人々が本当に欲しがっている商品を開発することこそが、リバース・イノベーションの原点です。不便で貧しい環境で必要とされる製品は、往々にして低コスト・高品質・ユニバーサルアクセスの3つの条件を満たし、先進国の市場でも高く評価されます。

リバース・イノベーションで海外進出を

イノベーションを起こすためには、先進国の開発拠点に多額の資本を集中させ、途上国に浸透させるという古い考え方がいまだに根付いています。中国やインドのような新興国が巨大なマーケットに成長した現代では、現地のニーズにピントを合わせた製品開発を行わなければ、競争力を確保できません。

<参考>
第1節 世界経済における新興・途上国の役割の変化:通商白書2018年版(METI/経済産業省)

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