輸出から直接投資の時代へ

日本企業が海外でビジネスを展開し、経営参加や技術提携、企業買収することを、海外への「直接投資」といいます。現地法人の利益も、直接投資の収支額に組み入れられます。

財務省の国際収支によると2019年の輸出額は76.1兆円、輸入額は75.6兆円で、貿易収支は0.5兆円の黒字。これまではモノの輸出入がメインでしたが、近年は直接投資が増えています。

一方の金融収支は24.7兆円の黒字でした。日本はすでに貿易大国であり、金融大国にもなっているわけです。

そして金融収支の約24.7兆円の黒字の92%にあたる約22.8兆円は、直接投資で稼いでいます。

この数字だけ見ると、「日本は十分グローバル化している」と思えるかもしれませんが、経済の専門家は、生産性や競争力を高めないと、赤字に転落するリスクは高まる、と指摘しています。

日本が世界第3位の経済力を維持して、再び世界2位に返り咲くには、現地法人を増やしたり、海外への直接投資を強化したりするなど、海外で儲けられる体質にしていかなければなりません。

では、次項から「現地法人」「海外支店」「駐在員事務所」の違いについて解説します。

現地法人とは

現地法人とは、日本企業が海外に設立する子会社のことです。日本で会社を設立する際、会社法のルールに従うのと同様に、海外で会社を設立する際も現地の法律が求める条件をそろえて、登記を行ない、法人(会社)を設立します。

現地法人は、日本企業の子会社になりますが、「法的な関係性」は出資関係くらいです。会計上は売上も支出も利益も、現地法人(子会社)と日本企業(親会社)は別々に計上します。

定款も現地法人用のものが必要です。また、税務も労務も異なります。

その国に合わせた現地法人を設立する

現地法人には、日本の企業が100%出資する完全子会社や、現地の企業との合弁会社などがあります。

資本主義国では、完全子会社の現地法人を設立しやすいですが、中国などの社会主義国である場合、さまざまな規制から合弁会社にせざるを得ない場合があります。

このように会社法の内容は、「お国事情」によって大きく異なります。

現地法人を設立するときの手続き

現地法人を設立する手続きは、日本での会社設立とあまり変わりません。

つまり、プロジェクトを推進するチームを組み、事務所を置く場所や工場を建てる場所を決め、銀行口座を開き、資本金を集め、会社の登記をします。

その後、事務所や工場の開設、従業員の雇用、サプライヤーの確保、インフラの整備、営業などを行います

現地法人の設立を成功させるためのポイントは、プロジェクトチームです。チームのメンバーは、日本にいるときから現地の国情や会社法を調査します。そして現地に入り、机上の想定と現地の実際とのギャップを一つひとつ埋めていきます。

プロジェクトチームのメンバーの働きいかんで、現地法人の成否が決まるといっても過言ではありません。

現地法人を設立するメリット・デメリット

現地法人を設立するメリットとデメリットを考えていきましょう。

現地法人のメリット

現地法人をつくる最大のメリットは、確固たる海外拠点ができることです。現地法人があれば、現地の顧客や規制当局の信頼度は高まります。

さらに現地法人であれば、現地の優秀な人材を確保しやすくなる点を挙げられます。法人税率が日本より低い国に現地法人を設立した場合、節税効果も見込めます。

OECDの基準では、日本の法人税率である23.2%で、もっとも高いフランスの32.02%、メキシコ、ポルトガル、オーストラリアの30.00%よりも低くなっていますが、アメリカの21.0%やイギリスの19.0%、カナダ15.0%、ドイツ15.83%、ハンガリー9.0%、スイス8.5%は、かなり低くなっています。これらの国に現地法人を設置すれば、節税効果が得られます。

また現地で使用したり、販売する場合、原材料の調達費や生産コストを節約することができます。

現地法人を設立するデメリット

現地法人を設立するデメリットは、会計や法務上の事務処理や手続きが煩雑かつ膨大であることです。

さらに担当者は、現地の言語もある程度理解する必要があります。

また、子会社と同じ形態なので、会計上では資金の移動に金銭消費貸借契約や増資などの必要があります。現地法人があげた利益を、そのまま日本の親会社に「資金移動」することはできません。現地法人が黒字なのに、日本の本社が赤字、ということも起こり得ますし、現地法人の赤字を日本の本社で吸収することはできません。

海外支店や駐在員事務所との違いは

現地法人と同様に、海外で事業を行う際に設立する海外拠点に「海外支店」と「駐在員事務所」があります。そこで、現地法人とその2形態との違いについて解説します。

海外支店との違い

海外支店は、日本の本社の事業の一部という位置づけです。海外支店の会計は、本社と合算します。つまり、海外支店の損益は、本社の損益と相殺することができます。

現地法人の売上は、日本の本社の売上に加えることができませんが、海外支店の売上は日本本社の売上に加えることができます。

海外支店の利益には日本の税金が課されますが、海外でも課税されます。これでは二重課税になるので、日本の税制には「外国税額控除制度」が用意されており、海外で課税された分を日本の税制の課税対象外にすることができます。

駐在員事務所との違い

駐在員事務所は一般的に市場調査や情報収集などを中心とし、収益を伴う事業を行いません。

ただ他の海外拠点と比較すると、駐在員事務所は手続きが容易なため、「身軽さ」という大きなメリットがあります。現地の規制はどうなのか、パートナーを組める企業はあるのか、などを鑑み、進出できるのかどうか判断しなければなりません。たとえば、政情不安の国では、まずは駐在員事務所を設置して様子をみたほうがよいでしょう。

海外事業の目的や規模に合わせて拠点をつくる

海外拠点を設立するといっても、各国で法律や文化などが異なるため、一筋縄ではいきません。

そのため、最初から現地法人ありきで海外進出をしてしまうと「大火傷」を負うことになりかねません。

海外事業の目的や規模に合わせて、現地法人、海外支店、駐在員事務所を使いわけることをおすすめします。

参考
国際収支の推移 : 財務省
海外投資、日本の稼ぎ頭に 経常収支の構図変化:日本経済新聞
Table II.1. Statutory corporate income tax rate

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