持株会社設立の変遷

持株会社設立の変遷

地方銀行の持株会社は、これまで地方銀行同士の経営統合に伴い設立されるケースがメインであった。2004年の北陸銀行(富山市)と北海道銀行(札幌市)による「ほくほくフィナンシャルグループ」を皮切りに、2018年の「第四北越フィナンシャルグループ」(新潟市)まで経営統合による15の持株会社が現存している。

2019年の金融庁による銀行業高度化等会社の審査目線および地域商社への出資の明確化、2021年の改正銀行法によるデジタル化や地方創生など持続可能な社会の構築に向けた事業会社への出資制限や業務範囲規制の見直しが行われた。

一行単独の持株会社設立相次ぐ

こうした規制緩和を受けて、銀行経営の自由度が増したことなどを背景に、地域の課題に向き合いながら収益源の多様化を図ることを目的に、2020年の「ひろぎんホールディングス」(広島市)の設立以降、一行単独での持株会社設立が相次いでいる。

高まる地方銀行への期待と経営理念先行の動き

高まる地方銀行への期待と経営理念先行の動き

人口減少、少子高齢化、事業者減少などの構造的な変化、かかる変化の中で発生した新型コロナウイルスの感染拡大など、地域経済を取り巻く環境は厳しさを増している。

また、デジタル化の進展、SDGsや脱炭素などの取組拡大など、世界的な潮流への対応も避けては通れなくなった。

こうした中、地域や事業者、個人の課題解決の重要性が高まっており、地域で存在感があり信用もある地方銀行は、顧客である中堅中小事業者や個人、地方自治体に果たす役割も大きく、当局などからの期待も大きい。

短期的には、地銀の収益に結びついていない

これらを受けて、地方銀行においても、地域の発展に寄与するという経営理念に基づき、コンサルティング会社、地域商社、投資専門子会社、IT関連会社などが設立されている。ただし、新規に立ち上げてまだ時間が経過していない事業も多く、短期的には収益貢献に結びついていないのが現状と伺える。

プライム市場選択が意味するもの

プライム市場選択が意味するもの

現在、持株会社体制の地方銀行は、スタンダード市場を選択したじもとホールディングスを除き、すべてプライム市場を選択している。プライム市場は「多くの機関投資家の投資対象になりうる規模の時価総額(流動性)を持ち、より高いガバナンス水準を備え、投資者との建設的な対話を中心に据えて持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする企業向けの市場」と定義されている。(注1)。

注1 日本取引所グループにおいて、新市場区分のコンセプトとして説明されている。

投資家との対話が求められる

投資家は、経営目標として重視すべき指標として「ROE(株主資本利益率)」「ROIC(投下資本利益率)」「WACC(加重平均資本コスト)」を重視し、資本効率向上のために「事業の選択と集中」や「収益・効率性指標の管理指標として展開」などを期待している。(注2)

これまで地方銀行は融資や有価証券運用の本業が圧倒的に大きかったため、事業ポートフォリオについてあまり考える必要はなかった。今後、金融事業、非金融事業を拡大していく中で、特にプライム市場を選択した地方銀行は、低収益の事業を抱えることを嫌うと言われる投資家に対して、事業ポートフォリオの見直しや人材投資等を含む経営資源の配分などについての対話が求められる。

注2 一般社団法人生命保険協会による「企業価値向上に向けた取り組みに関するアンケート
集計結果( 2021 年度版)」を参考にした。

中長期的な企業価値向上の鍵となるもの

中長期的な企業価値向上の鍵となるもの

地方銀行が中長期的な企業価値向上を図っていく上で、筆者が注目している鍵は次の3点である。

自行の強み、時間軸を見極めていかにサービスを提供していくか

地方銀行が従来行ってきたコンサルティング、M&Aなどの事業に加えて、規制緩和を受けて可能となった地域商社、アプリ・ITシステム販売、人材派遣、データ分析・広告などの非金融事業は、他の金融機関や一般事業法人など競合も多い。

地方銀行の強みは、主に地元での信用、主要な営業エリアでの情報収集力、地域経済の理解である。また、地方銀行の中には、これまで注力してきた分野での経験を積み重ねた結果、独自の強みとなるものもあるだろう。

こうした強みを活かしつつ、競争環境や市場規模を意識しながら経済合理性をもとに「どのようなターゲットを狙っていくか」という視点が必要であり、特に地域にニーズが多く競争が少ない課題は何かを見つけていくことが重要である。

また、本業の収益が悪化する中、時間軸を左右するのは自己資本などの経営体力である。加えて、人材、ノウハウ、資金が限られることも多く、総花的に事業を拡大することは難しい。こうした点を踏まえ、業務の絞り込みや他社との連携が重要であると同時に、時間を買うためにM&Aによる資本提携や買収も選択肢となろう。

マネタイズポイントをどこに設定するか

一般的に手数料ビジネスはコモディティー化したところから低下する傾向にある。例えば、事業承継など中小企業M&Aビジネスは活況を呈しているが、地方銀行など数多くのプレーヤーが参入したことを受けて、手数料水準が低下したとの声も聞く。

市場の成長が止まれば、単品でのサービスは何れ厳しくなることが予想される。また、最初から競争が激しい領域において収益を確保することは難しい。こうした点を回避するためにも、マネタイズポイントを意識して、ストーリーを描けるかが重要となってくる。

例えば、コンサルティングにおける計画策定やM&A仲介をフックにして、その後の計画実行支援や人材紹介、IT支援などの非金融事業、または融資やリースなどの金融事業とのシナジーに繋げられるか。すでに意識している地方銀行も多いと考えられるが、独自に長期の安定収益を得ていく仕組みの構築が必要となる。

組織風土・ガバナンスの変革は避けられない

地方銀行は、年次による人事ローテーション、潜在的に刷り込まれたリスク回避や縦割りの意識、多様性の欠如など、銀行の組織文化が強く反映されているという課題がある。また、地方銀行のグループ会社はこれまで役職員の出向先の位置づけとなっており、先輩方に遠慮してグループ会社のガバナンスがきかないという課題もある。

持株会社体制の動きは、こうした課題を克服し、銀行グループ全体としての中長期の企業価値向上を目指していくものであり、これまでの組織風土・ガバナンスの変革無しには機能しない。特に重要な点は、厳しい人材獲得競争下、将来の経営幹部候補と各事業で専門性の高い人材の両方をいかに採用・育成し、競合と勝負できるかということが鍵となる。

これには、各々の生産性を上げて、給料を上げる仕組みがないと勝負にならない。人事制度や顧客窓口である営業店の評価など、抜本的な変更が必要となる。加えて、マーケットインを意識して、組織をフラット化し、グループ全体の意思決定の迅速化などスピード感のある組織体制の構築も求められる。

中長期的な事業ポートフォリオ構築を期待

2000年前半から続く地方銀行のリレーションシップバンキングの取組みにおいて、企業価値を高めたという検証はまだ聞こえてこない。持株会社化は本来、成長戦略やガバナンスを見つめなおす良い機会となるものであり、事業の拡大を図る今だからこそ、企業価値を高めたのかを検証していく仕組みが必要である。今後、ステークホルダー間のバランスを取りながら、上場会社として中長期的に最適な事業ポートフォリオの構築が図れることを期待したい。

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