不動産は「サービス業」だ 多様化する不動産の使い道

テレワークによる在宅勤務をきっかけに住宅に働き場としての機能が求められる等、不動産の多機能化が進んでいる。背景にあるのはライフスタイルやワークスタイルの多様化だ。多様化に応えるためには、不動産の商品企画や運営面でのサービス力の向上が欠かせない。

シェアする
ポストする

自宅にテレワーク環境を整備 不動産タイプ別の垣根が低くなりつつある

在宅ワークイメージ

不動産といえばまず思いつくのがマンション、そしてオフィスや店舗。最近は物流施設も成長著しい不動産タイプの一つと見られている。これらの不動産タイプにはそれぞれ固有の用途がある。
たとえば、マンションの用途は住まいであり、オフィスは働き場、リゾートは余暇を楽しむ場所、といった具合だ。住まいは生活や休息の場所であり、毎日の生活を快適に過ごせる機能があればそれでよいし、リゾートは2泊3日の休暇の期間をリラックスして楽しめる機能があれば十分、というのが従来の認識だ。

しかし最近は、この認識や考え方が変化している。
オンラインでの在宅勤務の拡大により、サラリーマン家庭を中心に、住まいに働き場としての機能を求める傾向が出つつあり、居住空間の中に仕事部屋の確保がしやすい戸建住宅の売れ行きが好調という現象が現れている。

またリゾートでもワークとバケーションを組み合わせて「ワーケーション」という概念まで存在する。即ち、不動産タイプ別の垣根が低くなりつつあり、個々の不動産タイプに求められる機能が単一ではなく複合的な機能が求められるようになってきた。

背景にライフスタイルやワークスタイルの多様化

 
ワーケーションイメージ

最近になって住まいに働き場としての機能が求められるようになってきたのは、コロナをきっかけとするテレワークによる在宅勤務の急速な拡大が背景にあることはいうまでもない。
しかし、コロナ以前から在宅勤務の拡大を示唆する動きはあった。それは長時間労働の是正、女性や高齢者の就労促進、副業解禁の動き等からなる一連の「働き方改革」の流れだ。
通勤時間を含めた労働時間の短縮化、子育て中の女性の労働市場への取り込み等の課題に対して、テレワークによる在宅勤務や住まいの近隣のシェアオフィスでの勤務というのは、一つの解として考えられる。

ワーケーションも登場

また、リゾート地で休暇を取りながらリモートワークで断続的に仕事をするというやり方や、リゾート地に移住してオフィスを構えたりシェアオフィスを利用したりというやり方も(これらが広く普及するとは考えにくいものの)一つのワークスタイルとして定着する可能性が高い。

少子高齢化の流れが今後も続き、生産年齢人口が伸びない中では、どのような企業であれ人材を確保しようとすれば、多様なワークスタイルを認めざるを得ない。
また一方で、情報技術は益々進化するだろうし、高度な情報技術を活用してMaaS(Mobility as a service)のように移動・交通の手段も進化してゆくことは疑いない。
それに伴い、人々の移動の動機やタイミングにも変化が生じ、あらゆる世代でライフスタイルやワークスタイルの多様化が今後も進むことも間違いないと思われる。

立地だけではダメ 多様化への対応は不可避

郊外の住宅イメージ

不動産といえば、まず立地である。競争力のある立地に平均的な質の建物を建てておけば、景気変動の波は避けられないもののテナント集めにさほどの苦労はいらない。賃貸借契約を結んでしまえば、あとは自動的かつ安定的に家賃収入が見込める――と、いうのが従来からの賃貸業の理想であろう。

しかし、現実はそれほど甘くない。

マクロでみれば人口や世帯の減少が今後も続く一方、新しい不動産の供給圧力も高水準が続き、東京であってもテナント獲得競争は厳しさを増す。
不動産である限り、今後も立地の重要性は変わらないが、立地が良いというだけで、必ずしもテナントから選ばれるとは限らない。テナントのニーズが多様化しているのであれば、不動産もその多様化に応えていかなければ、投資に見合うだけの収益を生み出せないリスクが高まると考えざるを得ない。

「入居後」の需要に応える

多様化に応えるためには、テレワークを前提とした複合用途の住宅や宿泊施設の開発をする等のハードの作り込みにノウハウとクリエイティビティ、即ち企画力が必要になることは言うまでもない。

しかしハードを主体とする商品力の向上のみならず、テナントの入居後も不断に変化するテナントや利用者のニーズに合ったサービスを運営面で提供し続ける必要がある。

例えば、現在一部のシェアオフィスが行っているような、スタートアップを中心とするテナントのコミュニケーションの仕掛け作りをして、オープンイノベーションを促進するようなサービスである。

不動産全体がオペレーショナル・アセットに

weworkイメージ

不動産の中でも、その運営の巧拙によって生み出される収益に差が出るタイプの不動産は「オペレーショナル・アセット」と分類される。
ホテルや介護施設が代表例である。一方、オフィスや住宅は従来オペレーショナル・アセットとはみなされていなかった。しかし、テナントのニーズが多様化し、不動産タイプ別の垣根が低くなり複合用途の不動産が増える現状では、オフィスや住宅もひっくるめて不動産全体がオペレーショナル・アセット化しつつあるといっても過言ではないだろう。
そこで求められるのは、ハード面でもソフト面でも、変化し多様化するテナントのニーズに応えられるサービスの質である。

不動産業はサービス業である。

これからテナント獲得競争が更に厳しくなると予想される中で、選ばれる不動産であるためには、立地に加えて企画・運営面でのサービス力の向上が益々重要性を増すと思われる。

まとめ

テレワークによる在宅勤務をきっかけに、住宅に働き場としての機能が求められる等、不動産の多機能化が進んでいる。背景にあるのはライフスタイルやワークスタイルの多様化だ。多様化に応えるためには、不動産の商品企画や運営面でのサービス力の向上が欠かせない。

コメントを送る

頂いたコメントは管理者のみ確認できます。表示はされませんのでご注意ください。

※メールアドレスをご記入の上送信いただいた方は、当社の利用規約およびプライバシーポリシーに同意したものとみなします。

コメントが送信されました。

関連記事