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リスク・アペタイト・フレームワーク(RAF)とは?概要から事例までわかりやすく解説
2000年代後半の世界的な金融危機をきっかけとして、銀行等、金融機関のリスクマネジメント手法が大きく変わりました。 今後起こりうるリスクに対して後手に回らないためには、過去のデータに基づく「既知のリスク」のみを重視するのではなく、将来的な変化もふまえたフォワード・ルッキング(どれくらいのリスクを取るのか)なリスク管理が求められます。 そこで注目を集めているのが、リスク・アペタイト・フレームワーク(RAF)です。本稿では、RAFの仕組みや国内での導入事例を解説します。
リスク・アペタイト・フレームワーク(RAF)とは?金融機関のリスクとリターンを最適化する内部統制の仕組み
リスク・アペタイト・フレームワーク(RAF: Risk Appetite Framework)とは、金融機関のリスクテイク(損失が生じる可能性を理解したうえで、リスクをとる行動)を適切にコントロールする概念です。
リーマンブラザーズの破綻をはじめとする2000年代後半の金融危機への反省をきっかけに、生まれました。
金融緩和による低金利・低利回りにより、現代でも利回りの過度な追求やハイリスクな有価証券への依存といったリスクテイクを侵す金融機関は少なくありません。
リスク・アペタイト・フレームワークの狙いは、金融機関のコーポレート・ガバナンスを強化し、業務計画・収益計画の透明性を高めて、リスクとリターンを最適化することにあります。
「リスクをとる」ことを制限するだけでなく、「あえてリスクをとる」範囲をそれぞれの金融機関が主体的に定義することで、将来的なリスクもふまえたフォワード・ルッキングな(先を見据えた)リスク管理を目指すのがリスク・アペタイト・フレームワーク(RAF)の最大の特徴です。
リスク・アペタイト・フレームワーク(RAF)は銀行が対外的に説明責任を果たす際の根拠となり、同時に第三者が金融機関を監督する際の判断基準となります。
リスク・アペタイト・フレームワークによる組織構築
リスク・アペタイト・フレームワーク(RAF)の承認にあたっては、取締役会の内部に「リスク委員会」を設置し、株主との利益相反のない独立社外取締役を構成員とします。
また、リスク・アペタイト・フレームワーク(RAF)を健全に活用するため、代表取締役及び最高財務責任者(CFO)に加えて、独立性の高い最高リスク管理責任者(CRO)を置くのが一般的です。企画部門とリスク管理部門を切り分けず、一体化した事業運営を行うのが理想的です。
リスク・アペタイト・フレームワークが生まれた背景
リスク・アペタイト・フレームワークという概念が登場する以前も、金融機関はリスクマネジメントに取り組んできました。しかし、従来の手法は蓄積されたデータに基づく「既知のリスク」を評価するものであり、2008年のリーマン・ショックでは、数多くの金融機関が後手に回る結果となりました。
この時の反省を活かし、「既知のリスク」にとらわれず、「将来のリスク」も見越したリスク管理が求められるようになりました。その代表的なものとして現在、世界中でリスク・アペタイト・フレームワークが注目されています。
リスク・アペタイト・フレームワークの特徴とは?構築によって早期のリスク対応が可能になる
リスク・アペタイト・フレームワークの最大の特徴は、早期のリスク検知・対応が可能になる点です。RAFを構築する利点や、構築までの流れを解説します。
RAFで早期のリスク検知・対応が可能に
リスク・アペタイト・フレームワークの最大の特徴は、従来型のリスクマネジメントと異なり、早期のリスク検知・対応が可能になる点です。
これまでの金融機関の経営管理では、経営のリスク、流動性のリスク(資金繰り)、収益性のリスク(金利・為替・株価の変動や信用リスク)などを管理する部門が乖離しており、相互の結びつきが希薄でした。
また、経営管理は原則として年度ごとに見直されるため、将来の変化という視点を欠いていました。
リスク・アペタイト・フレームワークでは、リスク管理にかかわる各部門を統合し、組織内のコミュニケーションを活発化させ、早期のリスク検知を可能にする枠組みです。
また、既知のリスクだけでなく、将来のリスクにも対応できるリスクマネジメント手法です。
上記以外にも、リスク・アペタイト・フレームワークには、リスクに対する責任範囲が明確になるといったメリットがあります。
リスク・アペタイト・フレームワークの日本国内での導入事例
リスク・アペタイト・フレームワークの構築は、国内でも導入されはじめました。
日本銀行の調査では、2018年にRAFの構築を行った金融機関は23%、今後、構築を検討している金融機関は38%と、全体の61%が前向きな姿勢を見せています。[注1]
RAFの導入事例として、三井住友フィナンシャルグループを紹介します。
三井住友フィナンシャルグループの事例
三井住友フィナンシャルグループは、バーゼル銀行監督委員会の「銀行のためのコーポレート・ガバナンス諸原則」に基づき、「3つの防衛線」を想定したリスク・アペタイト・フレームワークを構築しています。
様々なリスクの評価を現場レベルで行う「事業部門」、事業部門をモニタリングしてリスク管理やコンプライアンスを見直す「リスク管理・コンプライアンス担当部署」、両者から独立してリスク管理・コンプライアンスを監督する「監査部」の三段構えの防衛ラインにより、リスクを適切にコントロールしています。[注2]
先が読めない今、リスク・アペタイト・フレームワークが必須に
リスク・アペタイト・フレームワークは全社を掲げて取り組む必要があるため、導入、その後の定着に長い期間を要します。
また、導入後も外部の環境変化に応じて、都度見見直す必要もあります。しかし複雑性が増し、将来の予測が困難な今の時代では、金融機関におけるリスク・アペタイト・フレームワークの策定は必須といえるでしょう。
【参考】
[注1] 日本銀行金融機構局 金融高度化センター:金融機関のガバナンス改革
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