コロナ影響も、底堅い実需

財務安全性

消費財においては、マスクや洗浄・除菌などの衛生用品領域では特需が発生している。

一方で、対面でのカウンセリング販売を行う高付加価値化粧品などは、小売店の休業・営業時間短縮等の影響もあり、売り上げの落ち込みは避けられない見通しだ。

また、先が見通しにくい経済環境の中で、日用品領域でも消費者の価格選好性が高まる可能性も高い。

 

とはいえ、消費財の多くは、化粧品であってもスキンケア製品のような必需品も多い。外出自粛や経済環境悪化によって購買の先送りや「低価格シフト」が発生したとしても、実需が大きく変動することは予想しづらい。

実際にリーマン・ショック時においてもそうであったように、少なくとも消費財企業においては、特別損益の影響以外での赤字計上は、筆者のアナリスト経験としては記憶にない状況だ。

 

健全な財務

 

一般的に消費財業界は、ブランドや事業M&Aが活発な業界であるにもかかわらず、米P&Gや仏ロレアルといったグローバルジャイアントを含め、財務状況の健全度は高い。

時価総額が数千億円規模以上の国内上場企業のほとんどは、※1財務レバレッジが2倍を下回り、有利子負債が現預金や年間※2EBITDAを上回ることは稀である。(例外は昨年度に大型ブランド買収を行った資生堂のみである)。

 

現在のところ通常の事業活動は、コロナによる制約を受けて先の見えない状況である。しかし、各社の優先事項は、目先の業績へのこだわりよりも、むしろ社員や社会におけるウイルス感染リスクの低減や、サプライチェーンの維持、あるいは強化などを含むBCP(業務継続計画)を着実に実行することによって、持続可能な組織基盤を強化することに向かっている模様だ。

 

12月期決算の企業が、今期の業績ガイダンスを公表した2月時点と比較しても社会・経済環境は大きく変化しており、4月下旬以降には多くの企業が2020年度業績の下方修正や減益見通しを示すと予想される。

また一部では進行中の中期経営計画の目標数値の修正や、期限の先送りの可能性もあるとみている。しかし、消費財業界においてほとんどの企業が示しているより長い視点の経営ビジョンや、サステナビリティ方針については、筆者は現時点で大きく方向修正されることはないと考えている。

 

コロナ後も、重要性増すサステナビリティ

sastainable

 

2003年にPRI(Principles for Responsible Investment:責任投資原則)が国連で提唱されて以降、日本国内でも署名機関投資家は増え続け、リーマン・ショックや東日本大震災の経験を経て、企業に対して事業を通じた収益拡大と共にCSR(社会的責任)とESG(環境、社会、コーポレートガバナンス)課題への配慮を求める声は更に大きくなっている。

今回のパンデミックに際しては世界経済フォーラム(WEF)が既に企業に向けた従業員対応の指導原則とマネジメント行動を公表するなど、企業の社会的責任に対する世界の期待は変わっていない。

現状で企業存続への深刻なリスクに面する状況ではない以上、消費者生活に密着する消費財メーカーにとって、健全なガバナンスを維持し、社会の持続可能性に対するぶれない姿勢を示すことは、コロナ収束以降の事業活動の回復を目指すために重要といえる。

 

各企業の、衛生用品支援の動き

消毒

中国、日本を含むアジア、北米や欧州へと拡大するコロナウイルス感染の中で、消費財メーカーは東日本大震災や近年の台風被害時と同様に、自社製品や事業を通じて既に様々な社会への支援を行っている。

主なものとしては、花王は中国湖北省に対する衛生用品や生活用品支援や、日本国内においても帰国者への衛生用品支援を行ってきた。また直近では、医療機関等でも不足するアルコール消毒剤の大幅な増産を公表した。ユニ・チャームは2月には中国武漢からのチャーター便帰国者や横浜に停泊したダイヤモンド・プリンセス号乗員乗客への自社製品の支援を行い、現在は国内のマスク供給確保のための増産を継続している。資生堂は3月末から欧州で、4月からは北米で自社設備を用いて、各々の地域で不足するアルコール消毒液を供給するための生産を開始した。いずれも現時点で各社の収益を目的とするためではなく、業界をリードする企業として社会のニーズにできる限り応えようとする姿勢を明確にしている。

 

まとめ

世界的なESG投資の拡大や、経団連の企業憲章へのSDGsの取り込みなど、持続可能な社会の達成に向けた企業の貢献への要請が高まる中で、近年は多くの企業がサステナビリティへの取り組みを強化し、発信を強めてきた。筆者は、今回のコロナ禍による様々な感染対策や、既に高まる世界的な景気後退の懸念などが、企業が進める環境や社会に対する施策を一時的に後退させることはあると見ている。しかしコロナウイルス感染が何らかの形で収束した時には、持続可能な社会に対する世界的な関心はむしろ再び高まる可能性が強いと考える。

 

消費者の日々の生活に深くかかわる消費財企業にとって、現状においても従業員や社会に対する責任感を持ち、事業を通じて持続的に支える姿勢を示し続けることは、消費者からの長期的な信頼感を獲得する好機ともいえる。このため、自社の存続が危ぶまれる状況でない以上、コロナ収束後を見据える企業にとって、長期的なサステナビリティ戦略を継続する意義はむしろ高まっているといえよう。

 

※1財務レバレッジ 総資本÷自己資本。 自己資本比率の逆数。負債を有効活用しているかどうかを測る値だが、増えすぎると負債過多となり安定性が下がる。ROA×財務レバレッジ=ROE。

※2 EBITDA  Earnings Before Interest Taxes Depreciation and Amortizationの略で、税引前利益に支払利息、減価償却費を加えて算出される。キャッシュ流出を伴わない費用を戻しいれた利益であり、事業を通じて創出する企業のキャッシュを現す。

 

関連記事

ヘルスケア事業に舵 花王、ライオン トイレタリー大手企業

コロナ禍で健康や衛生に対する意識が高まる中、花王やライオンなどトイレタリー(日用的な衛生商品、消費財)大手企業が、ヘルスケア事業の拡大を加速する方針を示している。消費者密着型のビジネスで蓄積したデータを活用し、消費者へのパーソナルサービス提供につなげることまでも視野に入っている。

世界でシェアの高いドローンメーカーは?国内メーカーの展望も解説

ドローンは、世界中の産業、工業など幅広い場面で活躍しています。無人で飛び回りさまざまな業務をこなすドローンは、使い方次第でビジネスを大きく変えられる先進技術です。 ドローンの有用性に注目が集まる中、ドローンのメーカー間のシェア争いも激化しています。ドローン市場はメーカーの新規参入や入れ替わりが激しいのが特徴です。日本のドローンメーカーも、より高度な技術開発を急いでいます。 そこでこの記事では、世界でシェアの高いドローンメーカーを解説。また世界でシェアを伸ばす国内ドローンメーカーについてもご紹介します。

どうして?息の長い「擬人化ブーム」を読み解く

軍艦から動物、細胞にいたるまで、何でもキャラクターにしてしまう「擬人化」ブームが続いている。2013年に軍艦を擬人化したゲーム「艦隊これくしょん」の登場以来、既存の有力IPに頼らず、オリジナルキャラクターを「量産」する手段として「擬人化」は広く認知されるに至った。

ランキング記事

1

「クララが立った!」を英訳せよ

「クララが立った!」の翻訳は容易ではない。『アルプスの少女ハイジ』を知らない国の人に、「Clara stood up !」や「克拉拉站着!」と直訳しても意味を成さない。言葉には様々な意味や記号が埋められている。それは、年代、国、民族、言語で大きく異なるからだ。

2

閉店相次ぐ銀座 コロナ禍で商業施設苦境に

東京の代表的な商業地である銀座で、店舗の閉店が増えつつある。メインストリートの「中央通り」から中に入った通りでは、閉店した店舗が目立ち、中央通りに立地するビルでも空室が散見される。

3

リカーリングビジネスはサブスクリプションとどう違う? 新しい収益モデルを解説

従来の商品やサービスを売ったら終わりの「買い切り型」モデルとは異なるビジネスモデルが目立ちます。 そのなかのひとつが「リカーリング」です。リカーリング型のビジネスには様々なメリットやデメリットがあります。 本記事では、リカーリングのメリット・デメリットや、サブスクリプションとの違いについて、具体例を挙げながら解説します。

4

内部統制報告制度「J-SOX法」とは? なぜできたのか?

企業における内部統制は、様々な業務が適正に行われ、組織が適切にコントロールされているかどうかをチェックすることを指しますが、その中でも事業年度ごとの財務報告の内部統制について定めているのが、J-SOX法(内部統制報告制度)と呼ばれる制度です。 J-SOX法は、事業年度ごとに公認会計士ないしは監査法人の監査を受けた内部統制報告書と有価証券報告書とともに内閣総理大臣へ提出することが義務付けられています。 また違反した場合は、金融商品取引法に「(責任者は)5年以下の懲役または500万円以下の罰金またはその両方(法人の場合は5億円以下の罰金)」と罰則が定められています。 しかし、結果的に企業の内部統制を強化し、不正会計などのリスクを減らすことができるため、J-SOX法は企業にとってもメリットのある制度と言えます。 この記事では、J-SOX法の解説のほか、ITシステムに関する「IT統制」についても解説しています。企業の監査部門や、内部統制に関する部署で働いている方は、ぜひ参考にしてください。

5

パワー半導体の世界シェアは?注目市場の今後の動向を解説

パワー半導体(パワートランジスタ)は、家電や電気自動車をはじめとして、さまざまなデバイスの電源管理に使われています。 多くの分野で需要が伸びており、長期的な成長が期待できるマーケットです。 日本の企業や大学発ベンチャーが競争力を保っている分野でもあり、「パワー半導体強国」として世界市場でのシェアを獲得するべく、積極的に研究開発を行っています。 本記事では、世界規模で成長をつづけるパワー半導体の市場規模や、今後の展望を解説します。

人気のキーワード

海外スタートアップ情報はこちら!  寄稿・執筆者募集中