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コロナウイルス後の中国経済
中国・武漢で発生した新型コロナウイルスによる肺炎「COVID-19」は、加速度的に感染 を広げている。この記事では、2003年に流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)との比較 を通じ、今後の中国経済への影響を分析する。
SARS拡散との類似点
2019年末から報道されている中国・武漢で発生した新型コロナウイルスによる肺炎について、2003年に発生したSARS(重症急性呼吸器症候群)を思い出した方も多いと思う。
SARSと類似している点を挙げると、
- 発生時期から公表までの時間が長い
- 公表当初は伝染性が高くない旨を報道
- その間大量の人の移動が行われた
- 野生動物(蝙蝠)保有の病原菌をハクビシンなどが媒介
- 野生動物の売買市場の存在
- 治療薬が製造できていない
の6つが挙げられる。
なぜ感染が広がったのか。新型ウィルスの確認に時間がかかった点も原因だが、春節や全人代という中国特有の事情も関係していると考えられる。
SARSは2002年11月、広東省で発生。そこから香港、北京を中心に人の移動で感染が広がった。
2003年の春節は2月1~6日。全人代(全国両会)は3月開催。全人代の前には、各市、各省で両会の開催決議をするので、人の移動が最も激しくなる。
※全国人民代表大会(全人代)と、同時に開催される中国人民政治協商会議を合わせて「両会」と呼ばれる
北京市では、就任したばかりの孟学農市長が、SARSの公表、対応が遅れたとして実質更迭された。そこで、アジア金融危機でも活躍した王岐山氏が市長代行となり、対応にあたって、沈静化。同年7月に収束宣言を行った。
結果、SARSにより世界全体で8,000人超える人が罹患し、その約1割が死亡した。(北京市約2,500人、香港約1,800人 発生地広東省約1,500人を上回る罹患者数だった)
今回、発生は2019年12月と言われ、2020年の春節は1月24-30日。全人代を3月5日に控えるなど、状況は似ている。 ※その後春節は人の移動制限を目的に2月2日まで延長。上海、北京等は2月9日まで延期(公共、医療、日用必需品は除外対象)。Foxconn(鴻海)等企業判断による10日からの操業変更も見られた。
SARS発生後、食用野生動物の売買は禁止されていたが、貧農対策の側面もあり、徐々に緩和されていた。中国は大都市中心部における衛生状態はかなり改善したものの、衛生面に課題を抱えている地域も残っており、今回の新型肺炎の発生に繋がった。
中国にとって最大の祝日を控え、社会不安を煽る事を避けるため観察時間を要した結果、SARSと類似した経過となっている。
SARS発生時、北京に在住していた筆者の記憶では、北京から移動制限、高速道路検問対応は2月後半。迅速に帰国指示を出したアメリカと異なり、日本企業駐在員の帰国指示はほぼなく、自主性に任せるとの判断だった。
その後の発生他地域では、道路検問を実施し、さらに道路に石を積み、外部からの進入を阻止する農村もあった。
今回は、SARSより対応が早いと言えるが、当時と比較した移動スピード、移動者数から見ると内外で遅いとの批判がでている。
また、SNSを通じて、真偽を問わずさまざまな情報が流れている。
個人からの発信の多くは政府発表の数値が実情を反映しておらず、国内外での拡散は政府発表の数値以上に現地では医療不足、状況の悲惨さがあふれていることを訴えている。但し現在までの患者増加数を見ると国外で発信されている7-10万人との数値が現実味を帯びつつある。
政府は1月23日に武漢市と湖北省からの移動を原則禁止したほか、海外への団体旅行を1月27日から禁止した。北京等主要都市発着の長距離バスの運行や進入も停止した。
武漢へは、各地から医療関係者が1月23日から開始したが流動人口を含む武漢市約500万人が既に市外に移動しており、各地での拡散に歯止めがかからない状況となっている。(2月7日16時 中国衛生保健委員会発表 患者31,248人(湖北省、広東省、浙江省合計数24,142人)、死亡637人、疑似患者26,359人 経過観察186,354人 )
各市が人の移動制限を目的とし、春節休暇の延長、航空を含む公共交通手段の減少と防御のために各地域が隔離状態を作りっている。今後、各地で操業再開する中、拡散が継続するのであれば新たな制限策が出されると考える。
中国経済への影響は?
SARS発生した2003年のGDP実質成長率は前年比10.0%。(2002年は9.1%) 1Q(1~3月)が11.1%増。2Q(4~6月)9.1%増に留まったが、下半期は10%となり、同年2Qと1Qでは2%弱の減速となった。今回、3か月後にピークアウトと仮定してみても、地域の広がりから前四半期比2%減で収まるとは思えない。
2003年時産業別GDP貢献率は第一次産業3.1%、第二次産業57.9%、第三次産業39%で、2019年時では各3.8%、36.8%、59.4%であり、世界の製造プラットフォームであった当時と構造が異なり、国内消費の占める割合が増えている。
人の移動制限による第三次産業への影響を考える。2019年春節時の小売、外食売上は約1兆元(15.5兆円)、旅行業同は5,100億元(7.9兆円)、映画興行収入は59億元(915億円)同年第一四半期GDPの約4.6%となる。これ以外に不動産売買、贈答品市場も大きな影響が出ているとみる。正式統計は出ていないが、外食売上は昨年同期の50-70%減少、旅行業、映画も同様大きな損失を被っている。
暗い話ばかりではない。前年比増加しているのが、Eコマース(EC)による宅配ビジネスとスマホゲーム。レストラン、小売店、映画館の休業増加と,人混みを避けたい心理からECでの購買に拍車がかかった。SARSの店舗一時閉鎖が中国Eコマース発展の契機と言われるが、アリババ、テンセント系の外食ケータリングは配送員の健康管理と顧客との無接触による荷渡し、更に外食以外生鮮品の配送も行う事で大きく伸ばしている。(温度帯小口物流の拡大)
また大手外食企業の休業による人件費負担減少とその人材活用として期間限定で配送員、スーパーでの就業支援を開始。(ワークシェアリング)
そしてEC大手JDは武漢市で無人車による配送(ニューテクノロジー)と今後の中国ビジネス変革につながる動きが見られている。今回を契機に市民の健康に対する意識は高まり、ヘルスケア関連ビジネスもこれまで以上に伸びが予想される。
今後も原材料、従業員の課題から、自動車等主要産業の再開は更に遅れる。本疾病の収束が遅れるほど、中国発世界経済へのマイナス影響は拡大する。
中国政府は稼働減少による中小企業、地域への金融支援を打ち出し倒産防止に努めているが、各国共同による疾病対策が必要と考える。
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