アシックスの逆襲「箱根駅伝着用ゼロ」から復活

2022年の箱根駅伝は、青山学院大学が6度目の総合優勝を遂げた。記録は自らの大会記録を大幅に更新する10時間43分42秒。この記事では、レースの高速化を支えるランニングシューズを例に、21年の大会で「箱根駅伝着用ゼロ」に沈んだアシックスの巻き返し戦略に焦点を当てる。

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箱根駅伝 ゼロからの巻き返し

箱根駅伝 ゼロからの巻き返し

走るのがあまり得意でない筆者であるが、毎年行われる箱根駅伝に関しては、40年近くにわたってテレビ観戦を楽しみにしている。

一昔前までは長距離走の世界では、初級者はクッションの多い厚底の靴。上級者は力の伝わりやすい薄底の靴、というのが常識とされてきた。

アスリートに人気のシューズはある程度固定化されており、シューズが注目されることはあまりなかった。

ところが、2017年にカーボンプレートの採用で反発性を高めたナイキの厚底シューズ「ナイキズーム ヴェイパーフライ4%」が発売されると、一気に厚底シューズがブレイクし、箱根駅伝でも注目が高まった。

そして、アシックスとミズノが人気を二分し、その次にナイキやアディダスなど海外勢が続くという構図も、ナイキによる厚底シューズの登場で一変してしまった。

17年32%→21年0% 数年で負け組に

17年32%→21年0% 数年で負け組に

厚底ブームの到来で、2020年の第96回大会では、全出場選手の8割以上の選手がナイキの厚底シューズを着用した。全般的にタイムは大幅に縮まり、全10区間のうち7区間で区間新記録が生まれた。優勝した青山学院大学の各選手をはじめ、ピンク色の蛍光色に輝くシューズが箱根駅伝を席捲したことは、記憶に新しい。

そして、その流れは変わらず、2021年の第97回大会では、ランナー全体の95%がナイキのシューズを着用。ついに、アシックスのシューズ利用者はゼロになってしまった。

実は、2017年の第93回大会では、全ランナーの32%と最も多くのランナーがアシックスのシューズを着用していた。わずか数年で、アシックスは“負け組”へと転落したのである。

巻き返しの狼煙

巻き返しの狼煙

そして迎えた2022年の箱根駅伝。アシックス復活の狼煙があがった。全ランナーの11%に相当する24人が、アシックスのシューズを着用して快走した。

今回の箱根駅伝で着用されていたアシックスのシューズは「メタスピード」シリーズ。同シリーズは、トップアスリート向けのランニングシューズで、組織横断型の特別プロジェクトチームを編成して2021年に販売を開始した。

ストライド走法(歩幅を広げてスピードを上げる)向けの「スカイ」、ピッチ走法(足の回転数を早める)向けの「エッジ」の2パターンを用意。軽さとカーボンプレートによる高い反発力に加え、足の運びを楽にするため前足部が弧を描くように曲線になっている点が特徴で、多くのランナーから高い評価を得ている。

同シリーズのプロトサンプルを着用したマラソン選手が、2020年のロンドンマラソンで自己最高記録を更新して2位入賞を果たすなど、一部ではすでに話題となっていたが、2022年の箱根駅伝で、トップアスリートからの評価が着実に高まってきた事が伺える。

有言実行

有言実行

2021年の箱根駅伝大会後、廣田康人社長が「負けたことは素直に認める必要がある。それでも、我々はここから巻き返す自信がある」と力強く語っていたことを筆者は鮮明に覚えている。

まさに有言実行。反撃はまだ開始されたばかりであるが、今後のさらなる進化が期待される。

抜本的な経営改革効果で業績面での逆襲も始まった

抜本的な経営改革効果で業績面での逆襲も始まった

今回、アシックスが箱根駅伝で反撃に転じることが出来た最大の要因は、2018年に代表取締役社長COOに就任した廣田康人氏を中心に実施している抜本的な経営改革にあると筆者は考えている。
この経営改革を契機に、アシックスは箱根駅伝のみならず、全社業績の“完全復活”に向けて変貌を遂げつつある。

2014年をピークとした業績低迷

アシックスの業績は、2014年12月期(決算期変更により9カ月決算)に営業利益305億円と過去最高を記録した。ところが、その後は4期連続で減益決算が続き、2018年12月期の営業利益は105億円と、急速に悪化した。

アスレジャー人気 嗜好の変化に乗り遅れ

この業績失速の背景にあったのが、社内の構造的な課題だった。具体的には、以下の2点が挙げられる。

(1)開発/製造部隊と営業部隊で情報連携が十分に取れていなかった
(2)各部門の収益に対する意識が希薄だった

当時、スポーツ用品業界では、北米を中心に、スポーツをファッションとして取り入れて気軽に楽しむ「アスレジャー」(アスリートとレジャーを組み合わせた造語)の大きな流れが来ていた。

ところが当時、社内の風通しが悪かったアシックスでは、「開発・製造部隊が目指す製品」と「販売部隊が売りたい製品」がマッチしていなかった。

わかりやすく言うと、あくまでもスポーツの機能性にこだわったアシックスのシューズは、スポーツをファッションとして取り込むという消費者ニーズの変化に取り残されてしまったのである。

経営改革で組織の組み換え

経営改革で組織の組み換え

経営改革では、これに大ナタを振るった。

そもそもアシックス製品は、多くのアイテムが世界中で販売されている。

このため、収益が低迷しても本質的な課題がどこにあるのかが、わかりにくい構造だった。

これを解決すべく、経営改革では、それまで機能別に分化していた経営管理体制を「カテゴリー基軸」へ変更し、各カテゴリーのトップが目標をコミットする形へ改めた。

簡単に言うと、それまでの縦型の管理体制に横串を刺して管理することで、国別および製品別の収益状況がきちんと把握できる体制に組み替えたのである。

その結果、どの地域の何が問題なのかという本質的な課題を炙り出すことが出来た。

マーケティング戦略の見直し

経営改革のもう一つの柱は、マーケティング戦略だった。それまでは、「収益悪化」→「利益を捻出するための広告宣伝費の圧縮」→「さらなる利益悪化」、という典型的な負のサイクルに陥っていた。

これに、長期的視野での戦略という視点を加えることで、適切なマーケティング戦略を取り戻すことが出来たのである。

20年はコロナ影響で赤字転落も経営改革は推進

残念ながら2020年は、前半からコロナ禍に見舞われたことで、世界中のシューズ販売が大きな打撃を受けた。
アシックスも2020年は、営業損失40億円の赤字に転落した。ただし、この間も社内では経営改革を着実に進めていた。

ポストコロナで需要環境もフォロー

そして2021年に入ってからは、一転して追い風が吹き始めた。

消費者がポストコロナを見据えた新しい生活様式を模索する中で、持続的なスポーツに対する興味として、世界中で、「ジョギング」や「ランニング」への関心が、コロナ禍以前よりも高まってきた。

経営改革の断行により、消費者ニーズに即した製品開発体制が整い、基礎的な収益力が回復してきた。まさにそのタイミングで、需要環境も好転に向かい始めたのである。

2021年の業績はV字回復

アシックスが2021年2月に公表した2021年12月期決算の営業利益の計画は70~100億円。

ところが、いざフタを開けてみると、新製品を中心にランニングシューズの販売はグローバルで想定以上に好調に推移した。さらに、的確なコストコントロールも収益を底上げした。

結果的に、2021年12月期は、計3回、全ての四半期決算で業績上方修正を積み上げた。

最終的には、年間の営業利益は期初想定の2倍の水準に達する200億円と、5年ぶりの高水準に達する見通しである。

まさに、全体の収益面でも「アシックスの逆襲」が始まっているのである。

株式市場からの評価も着実に上昇

「抜本的な経営改革の効果」「ランニング需要の裾野の拡大」の2つの要因を受けて、アシックスの資本市場からの評価も、着実に向上している。

アシックスの株価はコロナの第一波で業績の不透明感が高まった2020年3月には、700円台前半だったが、2021年11月には3,000円の大台を突破。約4倍の水準まで上昇した。同時期のTOPIXの上昇幅(1.6倍)を大幅に上回るパフォーマンスを示している。

今後もアシックスの躍進に期待したい。

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