ひっ迫する「グローバル人材」不足 企業はどう確保するか

これまで、グローバル人材といえば「語学が堪能で海外赴任が可能な人材」のことと限定してきた企業が大半でした。もちろん、世界的なグローバル企業ではそうした前提でも、相当数の人材を採用~育成して国際競争で勝ってきました。ただ、あくまでごく一部の企業の話であり、それ以外の企業では語学力が高く、現地適応性が高い希少な人材で凌いできたというのが実情ではないでしょうか。企業のグローバル化が進んでも、グローバル人材は大いに不足している。かといってグローバル人材の採用・育成に積極的ではない…こうした状況の企業が多いように見受けられます。 また近年は国内の人手不足をも背景に、グローバル人材が求められるという「新たな必然」が顕在化しています。企業はどのような視点に立って人材を確保すべきか考察します。

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グローバル人材の育成に消極的な日本企業

グローバル人材の育成に消極的な日本企業

当社が人事コンサルティングで関わってきた、海外展開している製造業者の例。現地駐在(東南アジア)の担当者にインタビューしたとき、その担当者は駐在15年目でした。後任は社内にいません。仮に本社に戻って来いと言われても、適応できる自信がないといいます。

人事部に話を聞いても、後任育成は先送りされてきました。東南アジアでのさらなる展開があったとしても、国内の人材で海外赴任に適した候補者は見当たらないというのです。

海外拠点を複数もつ別の中堅製造業の経営者に、人材不足による悩みを聞くことがありましたが、やはりグローバル人材に関しては優先順位が総じて高くないようです。

それよりも、女性管理職比率を上げないといけない。そのことで頭がいっぱいだ、と話してくれたことが象徴しているように思います。それだけ日本企業が海外進出に消極的なスタンスになっているということなのかもしれません。

日本貿易振興機構(ジェトロ)の調査によると、海外に進出する日系企業で、事業拡大を見込む企業が大幅に減少しているといいます。

その理由は、中国を筆頭に海外事業の業績が低迷している企業が大幅に増加していること。そこで撤退、ないしは現状維持と考えている企業が大半を占めている状況です。

そうなれば、海外赴任をするグローバル人材の需要は低迷します。こうした機運が、企業内でグローバル人材を増やすことに意欲が高まらない要因なのでしょう(ただし、すでに海外進出してグルーバル企業となっている大企業での需要は堅調ですね)。

ただ、海外進出に消極的でも、「別の必然」からグローバル化を前向きに検討する必要が出てきています。

国内の人手不足がグローバル人材を求める「新たな必然」に

国内の人手不足がグローバル人材を求める「新たな必然」に

新たなグローバル人材を増やす必然とは、国内における人手不足で、相当数の外国人人材を採用、組織としてマネジメントする必要が出てきたことです。

厚生労働省の調査でも、外国人労働者数は180万人超で過去最高(※1)。採用系企業の調査によると、外国人と就業経験がある人は60%にまで日常化(※2)してきています。
※1:2022年10月末時点、厚労省「外国人雇用状況
※2:2016年10月末時点、はたらこねっと(運営・ディップ株式会社)調査「外国人労働者と一緒に働く実態とコミュニケーションの取り方について

さらに深刻化する人手不足を受けて、労働力が特に不足している特定産業分野で人材を確保することを目的に創設された特定技能資格の対象が大幅に拡大しました。特定技能資格とは、日本の在留資格の一種で、一定の技能及び日本語能力を持つ外国人労働者を受け入れるため2019年に開始された制度のことです。

特定産業分野に属する相当程度の知識や経験を必要とする技能を要する業務に従事する「特定技能1号」と、特定産業分野に属する熟練した技能を要する業務に従事する「特定技能2号」の2種類があります。

その該当産業分野は以下の通りです。

1.介護
2.ビルクリーニング
3.素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業
4.建設
5.造船・舶用工業
6.自動車整備
7.航空
8.宿泊 
9.農業
10.漁業
11.飲食料品製造業
12.外食業

列挙すると、相当に幅広い領域が対象であることがわかります。

さらに2023年8月に日本政府の閣議決定で運用の見直しが行われ、長期・家族帯同も可能となりました。人手不足対策の重要な施策として、外国人就業者が今後さらに増えていくことが明らかな指針決定であり、180万人が大幅に増加して300万人超くらいになるのは、そう遠い先の話ではないと考えるべきでしょう。

この300万という数字は全就業者の6~7%にあたり、人手不足の顕著な業界では半数以上が外国人就業者となる職場も出てくる状況と理解するべきでしょう。実際に、前述した製造業の企業でも外国人の就業者が国内事務所で10%近くになってきたとのことです。海外進出しなくても外国人が増えることで、組織をマネジメントするためグローバル人材の採用・育成に取り組むことになりそうだ、と苦笑いしながら話をしてくれました。

さらに製造業では海外から国内回帰で、久々に新工場建設ラッシュの状況となってきています。その典型が熊本県。半導体受託生産の世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)が同県菊陽町で新工場を建設中です。

それ以外にも県内で製造拠点の建設が進んでいます。雇用増はありがたいものの、大幅な人手不足状況に陥っており、外国人の特定技能資格者も多数採用することになります。地元では外国籍の住民が急増中。これまで外国人と接したことが少ない地元住民、企業とも、受け入れに向けて準備を進めているとのことです。

当然ながら外国人就業者に対応するための研修が行われており、グローバル人材としての対応が進んでいるということなのでしょう。同じように都市部に限らず、日本全国の企業で外国人就業者が増えることで、グローバル人材の採用・育成が加速していくことになるでしょう。

かつてない需要 グローバル人材に求められる姿とは

かつてない需要 グローバル人材に求められる姿とは

まさに人手不足対策がグローバル人材に対して注目度を高めることになりました。ついには海外進出経験がない企業でも、人材確保の目的で取り組む必要が出てきました。

こう考えると、日本企業にとって、グローバル人材の採用・育成はこれまでで最も必要性が高い状況になってきたと言えるかもしれません。

ところで、グローバル人材とはどのように定義されているのでしょうか? 参考に政府、官庁の見解を挙げます。

文部科学省の定義
要素Ⅰ: 語学力・コミュニケーション能力
要素Ⅱ: 主体性・積極性、チャレンジ精神、協調性・柔軟性、責任感・使命感
要素Ⅲ: 異文化に対する理解と日本人としてのアイデンティティー

総務省の定義
日本人としてのアイデンティティーや日本の文化に対する深い理解を前提として、
ⅰ)豊かな語学力・コミュニケーション能力
ⅱ)主体性・積極性
ⅲ)異文化理解の精神等を身に付けて様々な分野で活躍できる人材のこと

人材育成推進会議の定義
我が国がこれからのグローバル化した世界の経済・社会の中にあって育成・活用していくべき「グローバル人材」の概念を整理すると、概ね以下のような要素が含まれるものと考えられる。
要素Ⅰ:語学力・コミュニケーション能力
要素Ⅱ:主体性・積極性、チャレンジ精神、協調性・柔軟性、責任 感・使命感
要素Ⅲ:異文化に対する理解と日本人としてのアイデンティティー

この3つをまとめてみると、グローバル人材とは日本人としての考えを根本に持ちつつ、相手の立場になって意見を主張しつつ、異文化の人々とも協力し合える姿勢を持つ人材のこと。

語学が堪能であることも望ましいですが、日本国内でグローバル人材として立ち振る舞うのであれば、日本語が堪能である可能性が高いといえます。相互理解を高めるために、相手の言語を理解する努力をしつつ、相手の話をよく聞き、意図をくみ取ることができるコミュニケーション力が重要です。

さらに言えば、コミュニケーション=折衝と言えるかもしれません。その理由は、多くの場面で主張を聞き、回答を求められるからです。

外国人就業者とのコミュニケーションでは、処遇や勤務条件に対して要望が頻繁に出てきます。この頻度は日本人の比ではないと言われています。さらにその要望に対して「そのうち何とかする」といった曖昧な回答では納得されません。

文化や価値観の違いから、議論が膠着状態に陥ることもあり得ます。そうした際にも、相手の立場や意見を尊重したうえで、こちらの主張や要望を受け入れてもらえるようなコミュニケーション能力を磨いておくことはグローバル人材になるための重要な条件と言えます。

こうしたコミュニケーション力に加えて、日本人のアイデンティティー=価値観や美意識、世界観、思考習慣を理解しておくべきでしょう。典型的なのは礼儀正しさかもしれません。

例えば、初対面の人には敬語をつかうとか、挨拶は目を見てきちんとするとか、親切にされたらお礼を伝えるなど。可能であれば、こうした礼儀が生まれた背景(歴史)なども理解しておき、いつでも説明できるようにしておくことが重要かもしれません。こうした準備を整えることで、グローバル人材の採用や育成が進んでいくと考えるべきでしょう。

まとめ

ただ、採用して人材を確保するのは簡単ではありません。

前述したように、企業内でグローバル人材を潤沢に確保している企業はわずかです。転職市場から中途採用で確保したくても、応募者はそれほどいないはずです。グローバル人材の確保は育成に重点をおくべきでしょう。

その場合に、人材開発の視点で取り組むことが重要です。人材開発とは、企業の経営戦略を実現、達成するため、必要な人材を選抜して研修プログラム等を実施すること。個人のスキルよりも組織全体の力を高めることを狙いとします。

そこで、自社のグローバル化に対して、求められる人材像はどのようになるのか?ここまで記載してきたことを自社の勤務イメージと照らし合わせて言語化してください。

そのうえで、言語化した人材像と、その人材になって欲しい対象者の間にあるギャップを埋めるために研修や体験(留学など)を組み立ててください。そうすることで独自の人材開発計画が完成となります。

自社でここまで出来ない企業様からコンサルティングのご依頼は増えています。人手不足は慢性的な課題であり、外国人就業者を増やす企業も継続的に増加見込みのなかで、組織におけるグローバル人材の必要性は高まるばかりです。育成に関する要望も大幅に増えていくのは間違いないでしょう。

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