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キャッシュフロー改善に欠かせない 「資金繰り表」の作り方
損益計算書では売上・利益共に出ているにもかかわらず、手元の現金が足りずに運転資金の確保に苦しむ企業が少なくありません。資金ショートを起こせば、最悪の場合「黒字倒産」に至ります。 それを防ぐには、帳簿上の利益ではなく、手元の現金の収支を管理する必要があります。そこで役立つのが「資金繰り表」です。この記事では、キャッシュフローの改善に役立つ資金繰り表の作り方や、チェックポイントを解説します。
資金繰り表とは?
資金繰り表とは、売上や利益ではなく、現金収支のすべてを分類し、集計した表のことです。その期間にどれだけの現金収入・支出があったかを把握することで、手元に残ったお金を「見える化」し、資金ショートを防ぎます。
利益が出ていても「黒字倒産」は起こる
資金繰り表が必要な理由は、帳簿上の利益が出ていても、資金ショートや黒字倒産の可能性があるためです。
例えば、ある期間の売上が500万円(うち現金収入200万円、売掛金300万円)、仕入れが250万円(うち現金支出150万円、買掛金100万円)、そのほか販管費で現金150万円を支出したとします。損益計算書上では、100万円の利益が出ています。しかし、現金の収支で見ると、実は100万円の損失であり、資金不足の状態に陥っていることがわかります。
資金不足の状態が続いて運転資金が底をつけば、資金ショートとなり、最悪の場合は黒字倒産してしまいます。
現金の出入りに特化した資金繰り表をつくることで、資金が手元にどれだけあるか、将来どれだけの資金を必要とするかがわかります。
必要な資金の見通しが事前に立っていれば、売掛金の現金化や買掛金の猶予要請、銀行借入れやベンチャーキャピタルからの資金調達などの対策が可能です。
特に業歴の浅い企業や事業資金が乏しい中小企業は、資金繰り表を作成することで、今後の経営戦略の見通しが良くなる効果が期待できます。
資金繰り表の3つのタイプ。自社に合わせた資金繰り表を作成しよう
資金繰り表には、「月次資金繰り表」「日次資金繰り表(日繰り表)」「キャッシュフロー計算書に基づく資金繰り表」の3つの種類があります。それぞれの役割と作成方法、活用の仕方をご紹介します。
1. 月次資金繰り表
月次資金繰り表とは、現金の収支 を1か月ごとに管理する資金繰り表です。縦軸に経常収支・経常外収支・前月繰越分・収支過不足・次月繰越分などの項目を、横軸に年月を置くことで、月ベースでの現金の流れや過不足が一目でわかります。
最も一般的な資金繰り表のスタイルであり、多くの会計ソフトに、会計データを月次資金繰り表として出力する機能があります。また、表計算ソフトのExcelやDBソフトのAccessでも、簡単にフォーマットを作成できます。
2. 日次資金繰り表(日繰り表)
資金繰りが厳しい企業の場合、月次資金繰り表では対応が間に合わないこともあります。例えば、月末に売掛金を現金化できそうな場合、月次では現金収支が黒字になるかもしれません。しかし、給料日が月末でなく15日や25日であれば、月末までに運転資金が不足してしまう可能性があります。
その場合、1日ごとの現金の動きをチェックする日次資金繰り表(日繰り表)の作成がおすすめです。
日付・勘定項目・収支・現金残高の4点を毎日記録することで、今どれだけのキャッシュが残っているかが分かり、予期せぬ資金ショートを防ぎます。
3. キャッシュフロー計算書と連携した資金繰り表
資金繰りの課題を発見したい場合は、キャッシュフロー計算書と連携した資金繰り表の作成をおすすめします。キャッシュフロー計算書とは、その期間の現金の収支(キャッシュフロー)を「営業活動(本業の収支)」「投資活動(投資や設備投資の収支)」「財務活動(資金調達や借入金の返済の収支)」の3つのレベルに分類した財務諸表の1つです。
資金繰り表を作成する場合も、同様に営業収支・投資収支・財務収支の3つの実績を評価し、キャッシュフローを細分化することで、会社のどの事業部の資金繰りに問題があるか分析しやすくなります。
キャッシュフロー計算書をベースにした資金繰り表の作り方
3つのタイプの中でも、キャッシュフロー計算書をベースにした資金繰り表は、現金の流れの問題点を客観的に評価するのに役立ちます。しかしこのタイプの資金繰り表は、記載する勘定科目が多いため、苦手意識を持つ方が多いかもしれません。
実は、毎月更新作業が必要な項目はそれほど多くなく、大半のものは前月の数値をそのまま記載してかまいません。資金繰り表の作成担当者が毎月チェックする項目は次の通りです。
借入金の返済額・支払利息
元金均等返済で融資を受けている場合、毎月金額が変化します。資金調達をした金融機関から返済予定表が送られてきますので、その数字をもとに記入しましょう。
人件費・販管費などの諸経費
代表的な勘定科目として、人件費、通信費、交通費、賃料、水道光熱費、保険料、リース料金があります。こうした諸経費の支払い額は年度ごとに大きく変動しないため、昨年か直近の実績値でかまいません。
売上・仕入れ金額の予測
3カ月~1年先を見据えた予定資金繰り表を作成する場合、営業収支の収入と支出(仕入れ)の予測金額は変動幅が大きいため注意が必要です。昨年の実績値ではなく、過去3期以上の実績値をチェックすることで、おおまかな数値を予測できます。
予定資金繰り表をつくる場合は、次月の実績資金繰り表とすり合わせて、予測と実績が異なる原因を分析することも大切です。たとえば、4月の予定資金繰り表は、5月の実績資金繰り表で比較検討できます。どの項目に差異が出たか、どの程度の差異が出たかを知ることで、資金繰り表の精度をより高められます。
理想的な資金繰りのための4つのチェックポイント
健全で安定した資金繰りをつづけるためには、資金繰り表から問題点を早期に発見することが大切です。資金繰り表で見るべき4つのポイントを解説します。
1. 営業収支
営業収支とは、本業から得られた収入/支出の差額のことです。本業が好調であるかどうか、設備投資や借り入れの返済・税金の支払い・従業員への賞与などにあてる現金があるかが分かるため、最初にチェックすべきポイントです。
営業収支が慢性的にマイナスの企業は、金融機関からの借り入れに依存しており、倒産一歩手前の危機的な状況にあります。
2. 現在の預金残高(現預金)
現預金を厚く持っていれば、有事の際に運転資金に回して安定した企業経営が可能になります。
現預金の金額の目安は、一般的に月商と同程度かそれ以上です。月末の預金残高が著しく少ない場合は、もしもの際の保険がないということを意味します。
3. 借入金の返済額と営業収支のバランス
銀行からの借り入れを行っている場合は、毎月の返済額と営業収支のバランスを見ましょう。営業収支よりも返済額の方が大きければ、毎月の預金残高が目減りし、企業体力がすこしずつ失われていきます。
バランスを改善するには、金融機関からの資金調達のほか、リスケジュール(返済金の金額や期間の変更)を申し出る方法もあります。
4. 設備投資の金額
車両・機械の購入、新たな拠点や工場の建設など、設備投資は大きな買い物です。設備投資が事業の成長に結びつかなければ、毎月のローンの支払いや借入金の返済などで、資金繰りを悪化させる原因になります。大規模な設備投資を行う場合は、費用便益分析を行い、財務への影響を慎重に評価しましょう。
資金繰りの問題点を改善する4つのポイント
もし資金繰りが悪化したら、どのような対応が必要なのでしょうか。ここでは、資金繰りに問題が見つかった場合の4つの対処法を解説します。
1. 取引先を見直す
現金が慢性的に不足するなら、取引先との条件に問題があるかもしれません。売掛金の回収や買掛金の支払いについて、条件変更も視野に入れて、自社に不利な条件がないかチェックしましょう。また、取引先に信用不安がないかの確認も必要です。多額の売上債権がある取引先が破綻すれば、巻き添えを食うことになりかねません。
2. 在庫管理を見直す
資金繰りと在庫管理には相関関係があります。在庫を過剰に抱えていないか、仕入れを過度に抑制していないか、商品の「回転率」を調べましょう。商品の回転期間が長い場合は、不良在庫が発生しており、資金繰りに悪影響が出ている証拠です。
3. 経費を見直す
経費の削減は資金繰り改善の常套手段です。とくに金額の大きい固定費(賃料・保険料)の削減を徹底しましょう。たとえば、事業所の周辺地域の賃料相場が下がっていれば改定交渉が可能です。会社の加入している保険についても見直し、より安いプランに変更できないか検討しましょう。
4. 借り換え保証制度を利用する
信用保証協会の加入企業の場合、「借り換え補償制度」が利用可能です。借り換え補償制度は、借り換えにより返済期間を伸ばしたり、複数の融資を一本化したりして、月々の返済金額を減らせる制度です。営業収支よりも返済金額が上回っている場合は特に、利用を検討しましょう。
資金繰り表の作成は、キャッシュフローの見通しをよくするために不可欠
資金繰り表を作成することで、キャッシュフローの見通しがよくなり、自社が資金繰りでどのような問題を抱えているかがわかります。
運転資金が不足していれば、金融機関での資金調達や、売掛金の現金化、買掛金の猶予など、必要な対策をとれます。
損益計算書では利益が出ているのに、手元の運転資金が残らない企業は特に、早急に資金繰り表を作成しましょう。資金繰り表があれば、手元に残るお金の動きがわかるため、経営を立て直すための指標となります。
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