EVへの移行とエンジン部品の今(3)エンジンバルブ

エンジン車特有の部品事業の今をみる本連載、3回目はエンジンバルブを取り上げる。エンジンの性能を左右する重要な部品で、国内ではフジオーゼックス、愛三工業、NITTANの3社が主要メーカーだ。電気自動車(EV)の普及で市場縮小が見込まれる中、三者三様で事業を展開する興味深い事例となっている。

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エンジンバルブは自動車の心臓の弁

エンジンバルブは、エンジン燃焼室の吸気口と排気口を開閉するラッパ形状の部品で、空気の流入やガスの排出を制御する。高温環境で毎分数千回という速さで運動するため、耐熱性や耐摩耗性が求められる。エンジンはよく自動車の心臓に例えられるが、エンジンバルブは心臓の弁ともいえる重要部品だ。

トヨタ除き系列色は薄い

図表_エンジンバルブ国内市場シェア

エンジンバルブの国内市場シェア(2022年)を図に示す。フジオーゼックス、愛三工業、NITTANが3割前後のシェアで市場を分け合っている。市場規模は162億円だった。

トヨタ自動車系列の愛三工業を除き、自動車系列の色は薄い。後述するフジオーゼックス・三菱重工工作機械の事業統合と、ホンダの内製から外部調達への切り替えが起きたが、総じてシェアの大きな変動はない。

シェア首位はフジオーゼックス

シェア首位のフジオーゼックスは大同特殊鋼が46%出資しており、2024年3月期の売上高が234億円だった。エンジンバルブは主力事業で日産自動車、スズキ、SUBARU、いすゞ自動車などに多く採用されている。

フジオーゼックスが首位の座を盤石にしている背景の一つに三菱重工工作機械との事業統合がある。

エンジンバルブは中身が空洞の「中空」と、空洞のない「中実」に大別される。さらに「中空」は、軸の部分が空洞の「軸中空」と、傘状のヘッド部分も空洞にした「傘中空」があり、ニーズに応じて使い分ける。あえて製造の難易度が高い「中空」にするのは、冷却効果による耐熱性向上と軽量化のためだ。

フジオーゼックスは「軸中空」を主力とし、三菱重工工作機械は「傘中空」を主力としていたが、2016年、フジオーゼックスが新設する子会社が両方の生産を担う体制とし、さらにフジオーゼックスは、三菱重工工作機械の「中実」事業を譲り受けた。フジオーゼックスは、「中実」「軸中空」「傘中空」の3種のエンジンバルブを取りそろえ体制を強化した。

2024年3月に発表した中期経営計画では、2030年度の世界シェアを現状の8%から12%に引き上げる目標を掲げている。EV化で事業を縮小する海外同業他社の受け皿となって、残存者利益拡大を狙っている。

愛三工業は売上高のわずか3%

愛三工業は売上高のわずか3%

一方、シェア2位の愛三工業は、売上高(2024年3月期)でフジオーゼックスの約13倍、3,143億円と規模が大きいが、燃料ポンプなど燃料系製品、スロットルボデーなど吸排気系製品が主力で、エンジンバルブは3%程度に過ぎない。

同社は2022年、デンソーから燃料ポンプ事業を買収、世界シェアは40%となった。燃料ポンプで残存者利益を確保し電動化投資に振り向ける方針で、エンジンバルブ事業については明確な方向性を示していない。

大衆車向け「傘中空」の先駆者NITTAN

シェア3位のNITTANの売上高(2024年3月期)は494億円で、エンジンバルブは売上高の84%を占める主力製品。ホンダ、マツダ、スズキ、日野自動車でのシェアが高い。

大衆車向けの「傘中空」バルブを量産したのは同社が初めてで、「軸中空」バルブも生産している。同社は軸部分の中空直径を広くして冷却効果をさらに高めた「ハイパー中空バルブ」の量産化を計画しており、高級車での受注を狙っている。

金原利道会長(当時)著『バルブ屋の進化論』ではこう記されている。「電動化の時代だからといって、エンジンを搭載する自動車がすぐゼロになるわけではない……(中略)……限定生産、注文生産などの形で、プレミアム感をもったエンジン車は残ると我われは考えています。そうしたプレミアムカーに、最高品質のNITTAN製傘中空バルブを採用してもらえないだろうか。薄利多売ではなく、バルブ自体もプレミアムな存在となれば、新しい市場を創造できるはずです」

ホンダは内製から外部調達に

ホンダは内製から外部調達に

これまで部品メーカーの動向を見てきたが、自動車メーカー側でもエンジンバルブをめぐって興味深い動きがある。すべての国内自動車メーカーはエンジンバルブをこれら部品メーカーから調達しているが、ホンダのみ一部自社生産しており、内製品とNITTANからの調達品を併用してきた。

そのホンダも「2040年脱エンジン」を宣言し、内製品目や生産体制を見直しており、エンジン部品を製造するパワートレインユニット製造部(栃木県真岡市)を2025年に閉鎖する方針。同製造部で生産しているエンジンバルブを順次外部調達に切り替えている。

その切り替え分をNITTANが受注しており、ホンダが採用するエンジンバルブは内製:NITTAN製=6:4だったのに対し2022年に4:6に逆転した。足元では、フジオーゼックスも「鏡面加工」という技術確立に成功、切り替え分を受注し、2024年6月からホンダヘの出荷を始めている。

灯滅せんとして光を増す

エンジンバルブに限らず、EV化が自動車メーカーの既存部品の内外製区分に影響を与え、部品メーカーの受注拡大につながる事例が今後増える可能性はある。だが、EV化によってエンジン車特有の部品は結局不要となるため、そうした部品メーカーにとっては、「灯滅せんとして光を増す」一時的な恩恵ととらえるべきだろう。

いずれは縮小するエンジン車関連部品事業を埋め合わせるためには、新規事業の創出・拡大に向けた投資が欠かせない。その原資確保のために、一時的ではあるとはいえ、貴重な収益源となる。

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