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EVへの移行とエンジン部品の今(14)ピストン
電気自動車(EV)では不要となる、エンジン車特有の部品事業を取り上げる本連載。14回目はピストンを取り上げる。
燃焼効率を左右するピストンは、ミクロン単位の寸法管理が求められる高度な精密部品だ。日本では海外メーカーが日系企業を買収する形で参入し、プライベートエクイティファンドが主導する再編も起きている。
▼EVへの移行とエンジン部品の今(シリーズ通してお読み下さい)
「EVへの移行とエンジン部品の今」シリーズ
エンジン性能を支える、多様な形状とミクロン単位の寸法管理
ピストンは、エンジンシリンダー内の燃焼により、激しく上下運動を繰り返すため、軽いアルミ合金が多く採用される。普通の乗用車向けのピストンは、砂型を使った鋳造で形を作り、加工して完成となる。
ピストン上部は、平坦な形状が基本だが、熱効率を上げるために中央を盛り上げたり、へこませたりする形状が採用される場合もある。エンジン性能に大きく影響するため、加工ではミクロン単位の寸法管理が求められる。
アート金属工業が国内首位
上図は2022年の国内シェアを示している。アイシンの子会社アート金属工業(直近期売上高241億円)が首位で、独大手自動車部品マーレの日本法人マーレエンジンコンポーネンツジャパン(同198億円)、同じく独エンジン部品コルベンシュミットの日本法人コルベンシュミット(同80億円)が続く。
2017年、アイシン(同4.9兆円、当時アイシン精機)はアート金属工業を子会社化し、ピストン事業をアート金属工業に集約した。アート金属工業はもともとピストン専業メーカーで、トヨタ自動車やスズキ、ダイハツ工業に供給しており、国内シェア首位だった。アート金属工業は当時、拠点がアジアに限られていたため、アイシンの北米拠点を活用し、グローバルで地域補完する狙いもあった。
一方アイシンとしては、アイシングループ各社がそれぞれの部品で専門性を高めることで、グループ全体の競争力を強化するのが狙いだ。当時のアイシン幹部は、「アイシンはエンジン部品を多く手掛けている。ピストンは変化に柔軟に対応できるアート金属に任せた方が、エンジンシステム全体として自動車メーカーに良い提案ができる」とコメントしている。
ドイツ勢はM&Aを足掛かりに、日本市場で事業拡大
マーレエンジンコンポーネンツジャパンは、かつてディーゼルエンジン用ピストンで国内最大手だったイズミ工業が前身。両社は技術提携関係にあったが、1998年にマーレがイズミ工業を傘下に収めた。アイシン・アート金属工業と同様に、アジアを中心に拠点を持つイズミ工業と、欧米に拠点を持つマーレで地域補完をする狙いがあった。
独コルベンシュミットは、2003年、マツダの100%子会社だった自動車部品メーカー、マイクロテクノ(同49億円)のピストン事業部門を買収し、日本に本格参入。当時は供給先のほとんどがマツダだったが、その後SUBARUや日野自動車にも広げた。買収後10年でピストン生産量は2倍超となった。今も国産マツダ車の85%に同社製のピストンが採用されている。M&Aをきっかけにして、日本で事業基盤を拡大する好事例だ。
プライベートエクイティファンドの傘下に入る事例も
EVシフトが進めばピストン市場は縮小する。こうした背景から、ピストンメーカーをめぐっては、ファンドが関与した再編も起きている。
独コルベンシュミットは、独軍事企業ラインメタルの自動車部品部門に属していたが、2023年から2024年にかけて独プライベートエクイティファンドのコミタンス・キャピタルに売却された。ラインメタルは、2035年に欧州連合でエンジン車の販売規制が打ち出されたことにより、エンジン部品事業の縮小を進めていた。コミタンスは売り手のノンコア事業を対象に投資する方針をとっている。
米自動車部品大手のテネコは、日本でのシェアは低いが、世界的なピストンメーカーとして知られている。同社も2022年に米プライベートエクイティファンドのアポロに買収された(アポロは2024年にパナソニックホールディングスの車載機器子会社も傘下に収めている)。
テネコのピストン事業は、米自動車部品メーカーのフェデラルモーグルを母体としている。テネコは2018年に、米著名投資家カール・アイカーン氏が率いるファンドからフェデラルモーグルを買い取った。構造的な変化を迫られる自動車部品業界においてファンドの台頭がうかがえる。
参考文献
「徹底カラー図解 新版 自動車のしくみ」野崎博路監修(マイナビ出版)
「改訂 新版 最新オールカラー クルマのメカニズム」青山元男著(ナツメ社)
「2023年版主要自動車部品255品目の国内における納入マトリックスの現状分析」(総合技研)
東京商工リサーチ「CD・Eyes」
2014/11/04 日刊工業新聞 5ページ「点検!革新生産ライン(3)コルベンシュミット-工程統合し中間在庫なくす」
2015/05/15 通商弘報「ピストンのコルベンシュミット、系列を超えて販路を開拓-欧州企業のアジア拠点展開と日本-」
2017/03/25 信濃毎日新聞朝刊 6ページ「アイシン精機のピストン事業 アート金属工業に譲渡 統合で開発力強化」
製品・事業 | アート金属工業株式会社
小口径ピストンの生産 クロージング|ラインメタル
アイカーン氏、米フェデラルモーグルをテネコに54億ドルで売却へ | ロイター



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