「そうだレストラン、行こう。」

「ピンチこそチャンスだ」「コロナで苦しい時こそビジネスモデルを変換できる」。これらは、部外者の無責任な発言だ。塗炭の苦しみにあえぐ外食の現場に、楽観論は響かない。デリバリーやテイクアウトも良いが、それだけでは寂しい。読者の皆さん、今こそレストランに足を運んでみてはいかがだろうか?

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「ピンチこそチャンス」、などと言っていられない

「ピンチこそチャンス」、などと言っていられない

筆者は現在、レストラン運営会社の会長職を務めている。銀座を中心に「俺のフレンチ」など数多くのレストランの運営を行う「俺の株式会社」だ。「俺の」は、ブックオフ創業者である坂本孝氏(現名誉会長)によって2012年に設立された。

「俺の」が運営するレストランは、高級食材をふんだんに使い、著名シェフが調理したものをリーズナブルな価格で提供することで、行列ができる人気店となった。テレビなどメディアでも数多く取り上げられてきた。

そんな有名レストランでも、2020年1月以降、コロナ禍で塗炭の苦しみを味わっている。店舗閉鎖、人員削減、本社移転など構造改革施策を矢継ぎ早に打ち出し、何とか厳しい状況を持ちこたえている状況だ。

無責任な楽観論は響かない

大手外食企業も必死だ。ロイヤルホストなどを運営するロイヤルホールディングスは、大手商社・双日との業務資本提携を行った。居酒屋大手ワタミも、日本政策投資銀行から100億円規模の資金調達を行った。

「ピンチこそチャンスだ」「コロナ禍で厳しい今こそ、ビジネスモデルを変換する時期だ」。経済メディアには、この種の威勢の良い声が散見される。しかし、外食の現場からすると、部外者のこれら無責任な声は響かない。

長期にわたる緊急事態宣言で、売上はコロナ前比で半分以下だ。資金繰りさえおぼつかない。「ピンチこそチャンスだ」などと言っていられない。

レストランの語源は「回復させる所」

レストランの語源は「回復させる所」

レストラン(restaurant)の語源は、「回復させる」である。ラテン語で「良好な状態にする」を意味する「instauro」や、「回復する」を意味する「restauro」に由来している。これらの語源から、14世紀にフランス語で「回復させる」を意味する「restaurer」(英語でいうrestore)という言葉が生まれた。

人が集って食事をすることの価値は、長い歴史を持ち、民族を超えた普遍性を備えている。栄養補給によって物理的な身体機能を維持するという事に留まらない。家族・友人との語らいによる精神の安寧、仕事関係者との会食による心理的距離の短縮、その場で居合わせた人との偶然的な会話による感性への刺激など、他では得られない経験が得られる。

レストラン(バーなど含む)での食事は、栄養補給だけでなく、精神的なバランス維持にも不可欠だ。まさに、精神を「回復させる」場所がレストランなのだ。

コロナ禍で、デリバリーやテイクアウトが盛んになった。消費者に選択肢が増えたという観点からは好ましい変化だ。しかし、デリバリーやテイクアウトした料理を家で一人食することは、物理的な身体機能の維持でしかない。

これに対し、レストランで過ごす時間が我々人間に与えるプラスの影響(特に精神的な影響)は、計り知れない。

エッセンシャルな存在としての外食産業

エッセンシャルな存在としての外食産業

レストランを含む外食産業を取り巻く環境は、コロナ禍以外も厳しい。輸入牛肉の値上がり、天候不順による野菜の値上がり、人手不足による採用難など。時短協力金の入金も滞っている企業が多いと聞く。

上述したように、人々の精神的安定や回復にとって外食産業は本質的に重要(エッセンシャル)な存在だ。この意味で、外食産業に従事する人はエッセンシャルワーカーとも言える。新政権には、重要度の高い産業として迅速で強い政策が希求される。

映画『タイタニック』で、タイタニック号の沈没が避けられないと悟った老紳士のシーンがある。彼は、レストランスペースに座り、かすかに聞こえるクラシック音楽を聴きながら、正装でブランデーを飲むことで精神の安定をはかり、本当の意味での最後の晩餐をした。

エッセンシャルな存在としての外食産業

筆者自身、東日本大震災の翌日、様々な情報が交錯する中、自宅近くにある行きつけの中華料理店に行った。余震が続く中、いつも注文していた料理を食すことで、心の安定を取り戻したことを強く記憶している。外食産業はエッセンシャルな存在なのだ。

外食産業への強い政策が必要

外食産業への強い政策が必要

コロナ禍で人々のストレスレベルは高水準となっている。日々のニュースへのネット民の反応を見るだけで明らかだ。今後、人々のストレスレベルを下げることは、社会的重要性を増すだろう。人々の心を「回復させる」場所への政策は待ったなしだ。

時短協力金の早期支給は当然だ。それ以外にも税制優遇、採用促進支援、原材料値上がり対応など、外食産業側への支援が期待される。加えて、消費者側へのインセンティブ政策も必要となる。大企業・中小企業それぞれの交際費枠の時限的見直し、クーポンの発行など、連続的で厚いサポートが望まれる。

再度「そうだレストラン、行こう。」

そして何より、この記事を読んでいただいている読者の皆さん。デリバリーやテイクアウトも良いですが、レストランに足を運び、心身を「回復させる」時間を過ごしてみてはいかがでしょうか?「そうだレストラン、行こう。」です。

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