ドミナントデザインとは?

ドミナントデザイン(Dominant Design)とは、市場において標準化・固定化された製品(サービス)の仕様です。

ドミナントデザインを持つ製品の場合、どの企業が開発・製造したとしても、おおまかな設計方法や外観・内部構造、使用技術、搭載する機能などが似通ったものとなります。

では、なぜドミナントデザインは生まれるのでしょうか。

その理由は、製品の仕様を突き詰めていくと、それ以上変革しようがない最適な形に落ち着くためです。

ある製品が市場に投入されたばかりであれば、さまざまな仕様が考案され、各企業は差別化を巡る激しい競争を繰り広げます。

しかし、成熟化するライフサイクルの中であらゆる市場テストとイノベーションが繰り返され、徐々にそのデザインは洗練されていきます。

はじめは個性的で画期的な製品だったとしても、結果として顧客ニーズの最大公約数に落ち着き、似通った製品が市場に浸透するのです。

ドミナントデザインの元祖は自動車産業

ドミナントデザインという考え方は、自動車産業が先駆けだといわれます。

現在の自動車といえば、主にガソリンエンジンが生み出す駆動力が4輪のタイヤに伝わり、ハンドル、アクセル、ブレーキなどを操作して移動する乗り物です。

こうした仕様は現在においてほぼ固定されており、自動車はドミナントデザインが確立した製品といえるでしょう。

そのため一般的に街で見かける自動車は、見た瞬間に「これは自動車だ」と認識でき、それが当たり前となっています。

しかし歴史を遡れば、自動車産業の黎明期である18〜19世紀では、駆動技術に蒸気機関や電動モーターなどが使われ、異なる技術規格が混在していました。

外観もキャビンがボートのような形であったり、馬車の延長線上のようなデザインであったりと、輪郭の定まらない状態が続きます。

そして20世紀初頭にはガソリンエンジンが登場し、1908年にアメリカで誕生した「T型フォード」が自動車の大衆化のきっかけとなります。

T型フォードは当時高価だった自動車の常識を覆し、安価で丈夫な実用車として人気を博しました。

この人気こそがドミナントデザインの基礎となり、それ以降も時代とともに顧客ニーズやコスト効率、各種の規制などに適合する形に変化していったのです。

そのほかにも、ドミナントデザインの例は次のように世の中に溢れています。

  • ペットボトルの形状
  • パソコンのキーボードの配列
  • スマートフォンの操作方法
  • ロボット掃除機

つまり、企業と消費者との間に共通の理解を確立し、それを反映できるような設計(デザイン)というのがドミナントデザインということもできるでしょう。

ドミナントデザインと生産性のジレンマ

自動車を代表とした産業の歴史を分析し、ドミナントデザインという法則を発見したのは、J.M.アッターバックとW.J.アバナシーという2人の経営学者です。

彼らは産業におけるイノベーションには次の2種類があると提唱しています。

  1. 製品の仕様そのものに関する「製品(プロダクト)イノベーション」
  2. 生産方法や販売方法などに関する「工程(プロセス)イノベーション」

しかしこの2つは両立が難しく、「生産性のジレンマ」が起こりやすいことも指摘されます。

生産性のジレンマとは、当初は製品イノベーションが活発に行われる一方、やがて企業側の関心が工程イノベーションヘシフトし、製品イノベーションが沈静化する現象です。

なぜこのようなことが起きるのか、詳しい過程を3つの期間に分けてみていきましょう。

流動期

流動期は、ある製品が市場に投入されたばかりの段階です。
画期的な製品が1つ登場することで、各社がそれに追随するように独創的な製品開発を行います。

製品の良し悪しを判断する基準は明確でなく、18〜19世紀の自動車産業のように規格が1つに定まらない場合がほとんどです。

参入企業の数は多くなりやすく、製品イノベーションに特化した戦略が中心となります。

移行期

移行期では、製品仕様が顧客ニーズに合致する形で最適化され、市場におけるドミナントデザインが決まります。

そして、各社の関心は製品イノベーションを巡る競争から、コストと価格を巡る競争に移行します。

つまり、現状の優れた製品を高い生産性で製造・販売する方が効率が良いという考え方が中心となります。

そこで大規模な生産ラインが構築され、その過程で生産工程の分業化、標準化、自動化などが進み、低コストのための生産体制、組織構造が確立されていくのです。

この時点で大規模な設備投資が行えない企業は競争から脱落し、企業数は減少していきます。

固定期

固定期は、製品の成熟化によって差別化が難しくなり(コモディティ化)、市場の成長や製品イノベーションがほとんど抑制された段階です。

企業側としては、すでに多額の投資や労力をかけて構築した生産体制を無駄にしないよう、大幅な製品デザインや機能の変更を避けるようになります。

移行期以上に企業の撤退や大企業による買収が活発化し、少数の企業が市場シェアの大部分を占めることで業界の寡占化が進みます。

ここまでの過程から、ドミナントデザインの確立は生産性のジレンマが生じるターニングポイントだといえるでしょう。

ドミナントデザインは市場の優れた指標となる反面、新たなアイデアを阻害し、業界の寡占化を進行させる一面もあるのです。

ドミナントデザインを破壊するイノベーションとは?

ドミナントデザインは、存在するだけで顧客ニーズを捉え続ける優れた製品仕様の指標といえるでしょう。

しかし、市場のライフサイクルのなかで徐々にイノベーションの代謝は落ちていき、生産性のジレンマが発生します。

次に考えるべきは、固定期における少数のリーダー企業に対抗するための新しいイノベーションです。

ここでのイノベーションは、ドミナントデザインの存在を前提としたものではなく、既存プロセスや現状を否定するような「破壊的イノベーション」です。

たとえば、航空業界におけるLCCサービスなどの新しい価格設定モデルや、技術革新による新製品の開発といった革新的アプローチは、ドミナントデザインを破壊し得るイノベーションとして挙げられます。

ダイソンに学ぶ破壊的イノベーション

既存の形にとらわれないものづくりで代表的なのが、成熟産業とされてきた家電製品にイノベーションの波を次々と起こすダイソン社です。

「吸引力の変わらない、ただひとつの掃除機」でおなじみのサイクロン式掃除機や、羽根のない扇風機などの革新的製品は、まさしくドミナントデザインを破壊する発明といえます。

こうした発明は、掃除機であれば従来の紙パック式のゴミ詰まりによる吸引力の低下、扇風機であれば羽根の回転による危険性や不均一な送風などの問題点に着眼し、解消するための研究・開発がベースとなっています。

当たり前を疑うゼロベース思考や、課題の本質を追究する姿勢が破壊的イノベーションの源となるのかもしれません。

ドミナントデザインを妄信しない戦略づくりが重要

ドミナントデザインは産業が進化する過程で法則的に生まれるものです。

製品イノベーションによって洗練された製品デザインは、工程イノベーションによって効率よく収益化するシステムへと落ち仕込まれていきます。

しかし生産性を追求することによって、同時にドミナントデザインの枠組みにおけるイノベーションの機会は失われていくことも忘れてはなりません。

ドミナントデザインに追従できる期間には限りがあるため、破壊的イノベーションに向けた転換点の見極め、変化に抵抗しない柔軟な戦略づくりが重要となるでしょう。

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