

2020-06-25
破壊的イノベーションと持続的イノベーションの違いは?メリットや事例を解説
破壊的イノベーションとは、既存事業のルールを破壊し、業界構造を劇的に変化させるイノベーションモデルです。 この概念は、ハーバード・ビジネススクールの教授であった故クレイトン・クリステンセン氏の著書『イノベーションのジレンマ』で提唱されました。それ以降、飽和状態となりつつある市場に必要なイノベーションとして注目されています。 本稿では、破壊的イノベーションの理論や企業の実践例から、破壊的イノベーションを起こすために必要となる戦略までを解説します。

「不確かな時代に未来をつかむ」をコンセプトに、経営に必要な基礎知識をできるだけわかりやすく、ご紹介します。
破壊的イノベーションとは?
破壊的イノベーションとは、1997年に故クレイトン・クリステンセン氏の著書『イノベーションのジレンマ』で提唱された、イノベーションに関する概念です。
言葉を噛み砕くと、「市場競争のルールが根底から破壊され、既存企業のシェアが奪われるほど革新的なイノベーション」という意味合いです。
これまでの常識を変えるような製品・サービスの投入によって、破壊的イノベーションは起こり得ます。
対となる持続的イノベーションについて
持続的イノベーションは、『イノベーションのジレンマ』にて破壊的イノベーションを説明する上での対義語として登場しました。
この用語は、既存顧客のニーズに合わせ、自社製品やサービスの価値を向上させるために継続して生み出されるイノベーションを意味します。
持続的イノベーションの具体例には、WEBサービスのユーザビリティ向上や、自動車のモデルチェンジによる低燃費化や高性能化などが挙げられます。
いずれも大企業を中心として多くの実践例があり、現在で言う市場競争のルールや常識に該当します。
大企業ほど破壊的イノベーションは脅威となる
持続的イノベーションには規模が大きい企業ほど陥りやすいジレンマがあります。
ひとつはシェアを拡大するたび、新事業への開拓という開けた行動が取りづらくなるジレンマです。
特定事業のシェアが伸びていくと、ステークホルダーからの信頼や顧客からのデータが集まるため、企業はその既存事業ばかり重視してしまう傾向にあります。
もうひとつは、市場が成熟するにつれ、消費者が望む性能よりも企業の技術進化が常に上回るようになり、 過剰供給(オーバーシューティング)が生じるというジレンマです。
結果的に、複雑で高価格な製品が市場に溢れかえってしまい、破壊的イノベーションを採る企業にシェアを明け渡すことになります。
大企業の立場に立ってみると、破壊的イノベーションは市場における脅威となるのです。
破壊的イノベーションの種類と特徴
破壊的イノベーションは、その特徴によって2種類に大別できます。
以下にそれぞれのタイプについて見ていきましょう。
ローエンド型破壊的イノベーション
ローエンド型は、持続的イノベーションによって高価で複雑な商品が占める市場に、低価格で使い勝手の良い製品・サービスを投入するタイプのイノベーションモデルです。
うまくヒットすれば、既存市場のローエンド層を取得でき、そこから徐々にミドルレンジ・ハイエンドのシェアを奪還する機会を得られます。
例えば、航空業界における低価格な就航を可能にしたLCCサービスや、電話系通信事業における格安SIMがローエンド型に該当します。
新市場型破壊的イノベーション
新市場型は、圧倒的な技術革新により生み出した製品・サービスを、全く新しい市場に投入するタイプのイノベーションモデルです。
もともと競合する企業が存在しないブルーオーシャン領域を開拓するため、新しい価値が評価され普及していけば、いずれ多くのシェアを獲得できます。
新市場がさらなる新市場を生むきっかけを与え、市場ライフサイクルが高速化するのも特徴です。
破壊的イノベーションを起こすための戦略
破壊的イノベーションを起こすために必要な戦略について、重要なポイントを2点解説します。
無消費を探す
無消費とは、以下4つの制約によって製品やサービスが使われていない状態を指します。
- スキル:特定のスキルがないと利用できない
- 資力:高い対価を支払わないと利用できない
- アクセス:利用するまでの道のりが煩雑である
- 時間:利用できるようになるまで時間を要する
これらの制約を見つけ出し解決することで、破壊的イノベーションを起こす道が見えてきます。
満足度が今以上に向上する顧客層を探す
特定の切り口ではこれ以上顧客満足度が向上しない「過剰満足状態」にある分野や顧客層を探すのも重要です。
例えば、現状満足しているものの、「安価であれば他に乗り換えよう」と考えている消費者がいたとします。
こうした「必要十分」を望む消費者が多い市場に、安価でシンプルな製品・サービスを投入することで、破壊的イノベーションを起こすことが可能です。
破壊的イノベーションの事例
市場に投入された当初、破壊的イノベーションとして多くの注目を集めた製品・サービスの事例を3つご紹介します。
iPhone(Apple)
「iPhone」は、携帯電話としての機能に加え、音楽プレイヤーやアプリプラットフォームなどの付加価値が付いた小型コンピューターとして開発されたApple社の主力製品です。
現在はスマートフォンとして当然のように普及していますが、あらゆるサービスを代替できるiPhoneの付加価値機能は、当初多くのメーカーにとって脅威となりました。
他にも、従来の携帯電話を「ガラパゴス化」させ、スマートフォンアプリという新しい領域の土壌をつくるなど、市場に劇的な変化をもたらしたのです。
Wii(任天堂)
任天堂株式会社が開発した「Wii」は、従来の概念を覆すリモコン+ヌンチャク型のコントローラを使って操作するゲーム機です。
Wiiの特徴として、センサーバーを活用した手の動きに連動する直感的な操作が挙げられ、これまでのゲーム機にない画期的な要素でした。
こうしたカジュアルに遊べるスタイルがテレビゲームの敷居を下げ、子どもや女性の顧客層獲得に成功しています。
破壊的イノベーションは企業の規模に関係なく求められる
これまで日本企業が得意としてきた持続的イノベーションによって、市場は飽和状態となりつつあります。
すなわち、スタートアップやベンチャーによっては市場を破壊するチャンスであり、大企業によっては破壊に対する防衛の瀬戸際にある状態です。
消費者や顧客に新しい価値を提供する破壊的イノベーションは、企業規模に関係なく求められています。
突破口となる無消費や過剰満足状態を分析し、とりわけ大企業であれば既存事業にとらわれない経営の舵取りをするなど、広い視野で市場にアプローチしていきましょう。
Frontier Eyes Onlineでは経済やビジネスのトレンドから基礎知識まで、幅広く解説しています。
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破壊的イノベーションとは?破壊的イノベーションとは、1997年に故クレイトン・クリステンセン氏の著書『イノベーションのジレンマ』で提唱された、イノベーションに関する概念です。 言葉を噛み砕くと、「市場競争のルールが根底から破壊され、既存企業のシェアが奪われるほど革新的なイノベーション」という意味合いです。 これまでの常識を変えるような製品・サービスの投入によって、破壊的イノベーションは起こり得ます。 対となる持続的イノベーションについて持続的イノベーションは、『イノベーションのジレンマ』にて破壊的イノベーションを説明する上での対義語として登場しました。 この用語は、既存顧客のニーズに合わせ、自社製品やサービスの価値を向上させるために継続して生み出されるイノベーションを意味します。 持続的イノベーションの具体例には、WEBサービスのユーザビリティ向上や、自動車のモデルチェンジによる低燃費化や高性能化などが挙げられます。 いずれも大企業を中心として多くの実践例があり、現在で言う市場競争のルールや常識に該当します。 大企業ほど破壊的イノベーションは脅威となる持続的イノベーションには規模が大きい企業ほど陥りやすいジレンマがあります。 ひとつはシェアを拡大するたび、新事業への開拓という開けた行動が取りづらくなるジレンマです。 特定事業のシェアが伸びていくと、ステークホルダーからの信頼や顧客からのデータが集まるため、企業はその既存事業ばかり重視してしまう傾向にあります。 もうひとつは、市場が成熟するにつれ、消費者が望む性能よりも企業の技術進化が常に上回るようになり、 過剰供給(オーバーシューティング)が生じるというジレンマです。 結果的に、複雑で高価格な製品が市場に溢れかえってしまい、破壊的イノベーションを採る企業にシェアを明け渡すことになります。 大企業の立場に立ってみると、破壊的イノベーションは市場における脅威となるのです。 破壊的イノベーションの種類と特徴破壊的イノベーションは、その特徴によって2種類に大別できます。 以下にそれぞれのタイプについて見ていきましょう。 ローエンド型破壊的イノベーションローエンド型は、持続的イノベーションによって高価で複雑な商品が占める市場に、低価格で使い勝手の良い製品・サービスを投入するタイプのイノベーションモデルです。 うまくヒットすれば、既存市場のローエンド層を取得でき、そこから徐々にミドルレンジ・ハイエンドのシェアを奪還する機会を得られます。 例えば、航空業界における低価格な就航を可能にしたLCCサービスや、電話系通信事業における格安SIMがローエンド型に該当します。 新市場型破壊的イノベーション新市場型は、圧倒的な技術革新により生み出した製品・サービスを、全く新しい市場に投入するタイプのイノベーションモデルです。 もともと競合する企業が存在しないブルーオーシャン領域を開拓するため、新しい価値が評価され普及していけば、いずれ多くのシェアを獲得できます。 新市場がさらなる新市場を生むきっかけを与え、市場ライフサイクルが高速化するのも特徴です。 破壊的イノベーションを起こすための戦略破壊的イノベーションを起こすために必要な戦略について、重要なポイントを2点解説します。 無消費を探す無消費とは、以下4つの制約によって製品やサービスが使われていない状態を指します。
これらの制約を見つけ出し解決することで、破壊的イノベーションを起こす道が見えてきます。 満足度が今以上に向上する顧客層を探す特定の切り口ではこれ以上顧客満足度が向上しない「過剰満足状態」にある分野や顧客層を探すのも重要です。 例えば、現状満足しているものの、「安価であれば他に乗り換えよう」と考えている消費者がいたとします。 こうした「必要十分」を望む消費者が多い市場に、安価でシンプルな製品・サービスを投入することで、破壊的イノベーションを起こすことが可能です。 破壊的イノベーションの事例市場に投入された当初、破壊的イノベーションとして多くの注目を集めた製品・サービスの事例を3つご紹介します。 iPhone(Apple)「iPhone」は、携帯電話としての機能に加え、音楽プレイヤーやアプリプラットフォームなどの付加価値が付いた小型コンピューターとして開発されたApple社の主力製品です。 現在はスマートフォンとして当然のように普及していますが、あらゆるサービスを代替できるiPhoneの付加価値機能は、当初多くのメーカーにとって脅威となりました。 他にも、従来の携帯電話を「ガラパゴス化」させ、スマートフォンアプリという新しい領域の土壌をつくるなど、市場に劇的な変化をもたらしたのです。 Wii(任天堂)任天堂株式会社が開発した「Wii」は、従来の概念を覆すリモコン+ヌンチャク型のコントローラを使って操作するゲーム機です。 Wiiの特徴として、センサーバーを活用した手の動きに連動する直感的な操作が挙げられ、これまでのゲーム機にない画期的な要素でした。 こうしたカジュアルに遊べるスタイルがテレビゲームの敷居を下げ、子どもや女性の顧客層獲得に成功しています。 破壊的イノベーションは企業の規模に関係なく求められるこれまで日本企業が得意としてきた持続的イノベーションによって、市場は飽和状態となりつつあります。 すなわち、スタートアップやベンチャーによっては市場を破壊するチャンスであり、大企業によっては破壊に対する防衛の瀬戸際にある状態です。 消費者や顧客に新しい価値を提供する破壊的イノベーションは、企業規模に関係なく求められています。 突破口となる無消費や過剰満足状態を分析し、とりわけ大企業であれば既存事業にとらわれない経営の舵取りをするなど、広い視野で市場にアプローチしていきましょう。 Frontier Eyes Onlineでは経済やビジネスのトレンドから基礎知識まで、幅広く解説しています。 是非よろしければメルマガのご登録をお願いいたします。 |
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