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再生企業の事業承継
国内企業の7割弱が赤字――。国税庁の統計で明らかになった数字だ。 足元の業績が悪く、厳しい経営状況となっている企業の多くは、事業承継の問題を抱えていても、廃業などの後ろ向きな姿勢をとってしまう。 本記事では、そういった業績不振企業(再生企業)がどのように事業承継を果たすべきかを、成功事例を交えて考察する。
事業者の半数が廃業予定
日本政策金融公庫総合研究所の調査によると、後継者が決まっている企業は全体の1割強。また、全体の5割の企業は廃業を予定しており、そのうち、7割の企業は同業他社よりも業績不振と感じている。
また、その廃業予定のうち6割の企業は、今後10年間の事業の将来性に何らかの不安を抱えている(図表)。
そのような業績不振で、将来に不安を抱える企業が、いわゆる再生企業だ。
再生企業が事業承継を円滑に進めるためには、業績改善も同時に進める必要があり、「戦略の再構築ができる後継者の選定」を最初に実行しなければならない。
現社長の子どもや、従業員の中にそのような人材がいれば良いが、いない場合は、M&Aが必要になる。
戦略の再構築による業績改善
後継者による戦略の再構築
再生企業の場合、「業績改善をしてから、後継者への事業承継を進めたい」という経営者が多い。
その意図は、現経営者から見ると後継者候補が未熟で、安定経営をしている状況で引き継ぎたいという「親心」であったり、現経営者は現在のような厳しい状況を乗り切った過去の経験もあるので、今回も自らが乗りきるべきだという使命感からであったりする。
そうした意向は良いのだが、経営不振の状況が数年以上の長期間にわたって、改善ができていないケースもある。このような場合、業績改善局面から、後継者候補が主体的に関わるべきだ。
ある地方の温泉旅館は、周囲に安価なビジネスホテルが乱立したため、競争が激化し、年々業績が悪くなっていた。
同旅館の後継者は、海外留学をしてホテル経営やホスピタリティを学び、帰国。その後は他のホテルや旅館で5年間修業を積んでから帰郷し、フロント業務から後継を始めた。
後継者は、客観的に自社の温泉旅館を分析してインバウンド向けの対応が必要と判断。
インターネットやSNSを活用して海外からの集客を増やし、海外客を受け入れる体制づくりを社内外に構築していった。
ある金物部品メーカーも、後継者の関与が奏功したパターンだ。
この金物部品メーカーはかつて職人技の研磨技術に秀でていた。そこで大規模な投資をして本社工場を新築したが、その後、機械技術の進歩や、大口の販路であった国内家電メーカーからの受注減で業績が悪化していった。
この金物部品メーカーの後継者は、製造拠点を海外へシフトさせ、国内はサンプル制作と提案営業に特化させた。国内家電メーカーに依存する体質から、自動車や海外メーカーなどに販路を大きく広げていった。
前者の温泉旅館では、後継者が温泉旅館の魅力について外国人が高い関心を示していることに注目した。外国人を呼び込むことで、自社のみならず、周囲の旅館、店舗など街全体の賑わいを取り戻す発想を実行した。
後者の金物部品メーカーは、後継者が会社の技術力を十分理解して、他のマーケットへの活用が可能なことを見出した。そして、今までの待ち姿勢の受注生産ではなく、新たなマーケットへ提案していくスタイルを構築していった。
このように、それぞれの後継者は、自らの会社の強みを理解したうえで、それを生かせるマーケットへの切り替えを実行している。
M&Aによる戦略の再構築
再生企業内に後継者がいない場合は、M&Aによる解決を目指すべきだ。
前述と同様、現経営者が業績改善した後に承継に取り組みたいという意向も多いが、M&Aは通常の企業であっても成功させるのは容易ではない。
再生企業のような業績不振企業でも、相手先の選定に長い期間が必要になるため、自力での業績回復を進めつつ、早期にM&A手続きに着手することが重要だ。
同業他社にM&Aをされた食品メーカーの例を挙げる。
買手企業は食品業界の上位企業で信用力が高かった。そのため、M&A後は原料の大量仕入れなど規模のシナジーの恩恵を受けられるようになった。また、買掛金などの支払サイトの短縮によるコスト削減交渉、販売先(商社)へのリベート率の下落交渉の成就などによって、短期間で業績がV字回復していった。
他の例として、物流企業が食品スーパーを、という異業種のM&Aがある。
その食品スーパーは、オーナー家の役員からのトップダウン戦略が時代の流れに合わず、業績不振になっていた。現場の店長は、業績回復のために現場職員からのボトムアップの意見収集を行っていたが、当時のオーナーは聞く耳を持たなかった。
そこで物流企業は、物流効率の向上によるコスト削減をするとともに、その店長らの意見に理解を示した。
そして現場に権限を移すと、従業員が活気づき、店はにぎわいを取り戻していった。適正な人事評価や組織づくりにより、組織力のアップを果たしたのだった。
前者は、元の食品メーカー単独では成し得なかったシナジー効果を発揮した。それによって、短期間での業績回復につながり、従業員へ決算賞与を出せるまでに改善した。
後者では、物流会社が人員配置についてオーナー家などの聖域へ切り込み、適正な評価ができる組織に変革した。
それぞれの買手企業は、再生企業を会社として本来あるべき姿へのポジションへシフトしたことで、業績の改善を実現できたのだ。
事業承継の目的は、事業を将来へつなぐこと
企業は事業を継続することで、取引先を維持でき、従業員の雇用も確保できる。その結果、地域の経済を循環させることができる。
ほとんどの経営者は、企業経営において良いときも、厳しいときも経験している。また、自らが創業者であれば、ゼロからの事業を立ち上げている。
そのため、再生企業の経営者は、会社を良い状態にしてから承継したいという思いが強い。
しかし、長期的な視野で見たときに、次の後継者にその試練を乗り越える過程を経験させることこそが、経営の承継として、現経営者の需要な最後の仕事だ。
また、後継者がいない場合のM&Aに関しては、M&Aそのものを戦略として取り組み、同社がどのような企業と連携すると事業を継続または発展させられるか、という視点で相手先の選定を進めることが重要になる。
このように、事業承継の選択肢は多岐にわたる。そのため、企業経営者には足元の業績が悪い事業に将来性がないと考えて廃業を選ぶ前に、自社の将来の発展のため、前向きな事業承継の検討をしていただきたい。
※機関誌「FRONTIER EYES」vol.25(2019年5月発行)掲載記事を修正の上再掲
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