大企業もサポートが欲しい

revic
新型コロナウイルスの感染拡大は、全ての産業の企業経営を直撃した。その対象は、飲食店やカラオケ店など個人零細企業だけではない。大手航空会社が相次いで緊急融資を要請するなど、大企業、中規模企業の経営も同様に大きな打撃を受けた。

大・中規模企業は、多くの従業員を抱える雇用体だ。取引先と形成するエコシステムでも中心的役割だ。社会的インフラとしての顔も併せ持つ。日本経済復活のためには、個人零細企業だけでなく、大・中規模企業のサポートも必須だ。

政府も手をこまねいているわけではない。既に、日本政策投資銀行や地域経済活性化支援機構(REVIC)による大・中規模企業への出資も構想されている。この動き自体は自然な流れだ。しかし、政府による出資には様々な論点がある。実際に、産業再生機構という官製ファンドに所属した筆者自身の経験も踏まえ、政府出資の論点について紹介する。

毀誉褒貶の政府出資、一貫しない世論

政府出資に対しての世論は、時代によって大きくスイングした。不良債権一掃のために産業再生機構が設立された2003年、日経平均株価は1万円を下回っていた。世界が日本を見限った時期だったが、世間は同機構に冷たかった。ある大臣は「民間でできることは民間で」と繰り返しコメントしていた。

2008年にリーマン・ショックが発生し、資金の担い手がいなくなると、多くの「●●機構」が設立された。出資対象は、海外のベンチャー、日本文化推進のための合弁企業、農業を活性化させる企業など、百花繚乱。“機構資本主義”とも呼ぶべき時代だ。

2019年になると、計10以上も設立された官製ファンドの結果が出ていないと批判が巻き起こった。農林漁業成長産業化支援機構(A-FIVE)や海外需要開拓支援機構(クールジャパン機構)などが強い批判を浴びた。
今回のコロナウイルス問題では、景気の悪化とともに、再度、官製ファンドに期待が集まっている。世論とは所詮こういうものかもしれない。

今年後半以降、官製ファンドによる政府投資には拍車がかかる。だからこそ、今、政府投資の今日的役割を論じる必要がある。政府投資をより実効的なものにしつつ、一方で、中長期的に見て民業圧迫をしないような、設計・運用が不可欠だ。

政府出資を行う際に保持すべき共通認識

内閣府庁舎

政府出資には量的限界があり、コロナウイルスの影響を受けているとはいえ、すべての産業、すべての企業を対象に出資はできない。また、コロナウイルス感染が発生しようがしまいが、産業は常に変化している。多くの場合、その変化とは進化や再編だ。
資本家や経営者の七転八倒の結果であり、収益性改善という目的地への道程だ。政府出資が産業の自律的進化・再編を妨げてはならない。

政府出資は、民間の金融機能にとっての収益機会も圧迫する可能性がある。日本における民間の投資ファンドは、21世紀初頭の金融危機という塗炭の苦しみから生まれた。我が国にとって貴重な存在で、成長途上の新金融機能である。

旧「産業再生機構」とは、時代が違う

新東京ビル

2003年の産業再生機構設立時と現在の大きな違いは、民間プレイヤーの有無だ。

産業再生機構の機能を大雑把に分けると、

① 対象企業の再生計画の作成
② 債権者の利害調整、
③ 出資実行
④ 出資後の対象会社の利益改善
⑤ 出資した株式の売却、となる。

これら一連のプロセスを行う国内投資ファンドは2003年当時まだ勃興期であり、巨大案件は外資ファンドの独壇場だった。また、①や④を担うコンサルティング会社、法律事務所、会計事務所なども今より存在は小さかった。

大きく育った民間プレイヤー

八幡製鉄所

今は1000億円以上の資金を運用する国内ファンドも出現し、ファンドのすそ野は広くなった。弁護士が500人規模で属する大手法律事務所も5つ存在し、会計事務所大手も数千人のプロフェッショナルが所属している。再生に強いコンサルティング会社も育っている。

国内ファンド、法律事務所、会計事務所、コンサルティング会社のメンバーには、産業再生機構に所属していたメンバー、あるいは同機構の案件に携わった人間が少なくない。同機構は、知見や経験を通じて日本に企業再生の民間プレイヤーを生み出す触媒になった。

製鉄業が未発達の時代(明治34年)に、官営八幡製鉄所(現日本製鉄九州製鉄所)が果たした役割と同様だ。

産業再生機構は100件以上の資産査定(DD)を行い、41件に投資した。中小規模の企業への投資でもDDには10人以上のスタッフ(弁護士、会計士、不動産鑑定士、コンサルタントなど)が必要だ。カネボウやダイエーなど大型案件では100人以上を必要とする。産業再生機構機構の短い活動期間で、DD、実際の投資とその後の売却の過程で携わったスタッフは、少なく見積もっても、のべで数千人を下らない。これだけの知見が今や民間に備わっている。

政府しか提供できない「低利のリスクマネー」

日本国旗

いずれにせよ、2003年と比べて、現在は民間における企業再生の機能が十分に発達済みだ。現在では、純粋に官製ファンドにしかできないことは極めて少ない。

あえて言えば、②の利害調整だけだ。これとて、債権者の中に政府系金融が入る場合や、債権者同士の意見が強く対立する場合でなければ、民間プレイヤーでも利害調整は十分可能だ。2008年に運用が開始された事業再生ADR(Alternative Dispute Resolutionの略称で、裁判外紛争解決手続を指す)や、2003年より各都道府県に設置された中小企業再生支援協議会が既に定着しており、屋上屋を架す官製機能は求められていない。

官製ファンドによる政府出資という枠組みにしか提供できないものは、「低利のリスクマネー」だ。

経済合理的な人間を前提とした“市場”という世界には、「低利のリスクマネー」なるものは存在しない。リスクの多寡は、そのリスクを取ったものが将来的に得られるリターンの多寡と正の相関がある。リスクマネーは高いリターンを要求する。実際、投資ファンドは20~30%以上の年率リターンを目標に掲げている場合が多い。

政府だけが、「低利のリスクマネー」という特殊なマネーを供給することができる。民間プレイヤーの将来見通しが極端に悲観的で、リスクマネーが市場に十分に供給されないとき、最後の出し手として政府出資が奏功することとなる。

民間プレイヤーへの機会提供の方法

リスク
「低利のリスクマネー」という政府出資は非市場的存在である。非市場的存在の増加は、市場に負のインパクトをもたらす。政府出資は、民間プレイヤーがリスクを取れない時期など特殊な局面に限定すべきだ。

政府出資を行う場合、実際に出資実行する前に、同等以上の条件での出資意志を持った民間プレイヤーを十分に探索すべきだ。具体的には、政府出資用に行ったDDの後、それを民間で出資意志を持つものに開示する。実際に出資できる民間プレイヤーが現れれば、政府側は出資を取りやめ、出資主体の座を彼らに譲るべきだ。

この手法の採用で、政府は民業圧迫の回避や投資総額の削減が可能となり、出資が失敗した場合に発生する国民負担を減じることとなる。類似の手法は、米国の連邦破産法第11章(チャプター11)の手続きでも行われ、当て馬方式(ストーキング・ホース・ビッド)と呼ばれている。日本でも既に産業再生機構が手掛けたダイエー案件において、2005年に民間スポンサーを募る際に使われた手法である。

出資後の民間プレイヤーへの還元

多角的なDDを行って再生計画を立てたとしても、実際の経営結果は100%計画通りになるわけではない。政府出資を受けたことで経営にゆるみが出る場合もある。

政府出資の後は、対象企業の経営状況を厳しくかつ客観的にモニタリングする必要がある。加えて、可能な限り早期に、政府出資した資金を、損失を回避して民間プレイヤーに還元することが健全な経済の発展につながる。

この観点からは、政府出資の時点で、出資対象の企業名を開示することが望ましい。政府出資と企業名の開示が呼び水となり、その投資資金を早期に民間プレイヤーへ売却する可能性が高まるためである。

政府側は出資した資金を長期保有すべきでない。政府出資を担う機関に属する職員は、出資先企業の担当を長期間行うインセンティブがある。民間プレイヤーから買収の関心があれば速やかに入札を行い(特命売却の回避)、損失回避を前提に民間プレイヤーに(出資後1年以内でも)売却すべきだ。前述の当て馬方式の時間的継続版とも言える。

経営陣ではなく、ユーザーや社会の便益を優先

民間活力を削がないためにも、政府出資は時限的で必要最小限あることが望ましい。現在は、企業再生の民間プレイヤーは十分に存在しており、2003年の産業再生機構発足時とは雲泥の差がある。また、政府出資の目的は、現在の企業経営者や彼らの経営権の保全ではなく、当該企業の商品・サービスを享受しているユーザーや社会の便益という視点が好ましい。同業他社や投資ファンドなど民間プレイヤーからの買収提案があれば、政府側は可及的速やかに入札を行うという仕組みを導入し、各産業における進化・再編を後押しすべきである。

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