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中国の「お一人様」社会 単身経済の進行
中国では「一人っ子政策世代」(1979-2014年生)の独身率が高まっている。そもそも未婚者に占める男性比率が高い上に、自らのキャリアや消費を優先する考え方が浸透しているためだ。日本で言う「お一人様」向けサービスの拡充とともに、人口減、高齢化の進行に備えが必要となっている。
一人っ子政策と人口減少
フィナンシャル・タイムズなど欧米メディアは、2020年の国勢調査の結果、中国の人口が50年ぶりに減少に転じた、と報じた。国勢調査の結果はまだ公表されていないが、事実であれば、一人っ子政策の緩和後も、出生率が上がっていない事になる。
中国では1979年、急速な人口増加を抑制するため、「一人っ子政策」(独生子女政策)を開始している。
また、中国では結婚できる年齢が男子22歳女子20歳以上であり、遅い結婚と遅い出産が奨励されるとまで記載されている。(中華人民共和国婚姻法 第二章第六条)。
日本民法改正で2022年4月より男女共に婚姻年齢は18歳以上となる(現行 男子は18歳 女子は16歳)。韓国も同様18歳以上。香港は男女共16-21歳未満は双方の父母または後見人の同意で婚姻でき、21歳以上は自由に婚姻可能である。
それだけ、中国にとって人口の抑制は重要な課題とされていた。
一人っ子政策の目的と背景
中国は当初、「人口は労働力」という考えのもと、政策として人口を増やすよう努めてきた。
しかし、1970年代から人口の増加速度が速すぎると人民の生活や、①農業②工業③科学技術④国防の「 4 つの現代化」 に多くの問題をもたらす、という考え方に変更した。
「計画生育政策」と呼ばれた出産規制は、1973年からでこれまでの人口増産計画を正式に変更とし、夫婦に基本最大子供2名、出産間隔を3年空けるとし、1978年に中華人民共和国憲法に「晩婚・晩産・少産」が規定された。
その後婚姻法が上記の通り改正されたが、「一人っ子政策」(独生子女政策)は憲法制定後1979年から開始している。
また、1950年に制定された婚姻法は、冒頭で紹介した部分を含め1981年1月1日に改定している。
政治的な背景
人口政策の変わった1973年、当時の周恩来首相が毛沢東主席の了解の下、鄧小平氏が副首相となった。しかし鄧氏はその後、共産党保守派との確執から業務を剥奪された。
鄧氏は毛沢東主席の死去、及び「四人組」逮捕を経て1977年に復帰し、翌78年に「改革開放」政策が採択された。
社会主義市場経済の導入と人口抑制の結果、中国は急激な経済発展を見せ、世界GDP第二位の経済大国となった。
ふたりっ子政策へ移行
工業化と都市経済の拡大により、農村部から都市部への低賃金余剰労働力の移動が進むと、確保できる労働力の限界を迎え、経済成長の転換期に入る事を 「ルイスの転換点」と言う。
中国の一人っ子政策を続けていれば、早期に「ルイスの転換点」が訪れると見られたものの、実際には明確にその傾向は見られなかった。
人口抑制策については、ようやく2013年から緩和策がなされ、2016年1月1日改訂の「中華人民共和国と計画生育法」 では国家は、夫婦は2人の子女を持つ事を提唱するとした。
「一人っ子政策の終焉」である。
2017年、第二子の出生人口が全体の51.2%に達し、第一子人口を上回った。
が、逆に見ると第一子の出生人口が減少傾向にあり、子どもを持たない人が増えていることが分かる。
その後、出生人口全体は、減少を続ける。
増加しない出生数
上の図は、一人っ子政策時の1979年から2019年までの出生人口推移となる。
公安部発表の2020年新生児数は1,003.5万人。一部農村部集計が含まれていないため、全体では1,200-1,300万人と推測される。(も国家統計部はまだ一部農村部を含めた数値を公表していない)。
この数値であっても、2019年の1,465万人より約15%は減少している事となる。
第二子も第一子も減少している事で、産児制限を外しても、増加傾向はみられない。
未婚男性:未婚女性=1.52:1
結婚が出産の前提ではないが婚姻数をみても2013年1,346.9万組以降減少傾向にある。2019年の結婚登記数は927.3万組で前年比マイナス8.8%で人口比の結婚率は6.6‰(パーミル 千分の一)でマイナス0.7‰となる。対して正式離婚数は470.1万組で対前年比プラス5.4% 離婚率は3.4‰で同プラス0.2‰となっている。
更に男女の婚姻の視点から、国家統計局2019年サンプル調査によると15歳以上の未婚男性:女性比は1.52:1となる。
中国は2020年に10年に一度の国勢調査を実施しているが統計結果は集計中としており、公開後出産、結婚などの傾向がより明らかになる。
米国コロンビア大学 Elyakin Kislev博士らの「Happy Singlehood」 では単身独居者がどのように社会での安全感を得ているかについて記述されている。
婚姻者のどちらかが身体障碍となる、または失業した場合の離婚率が上がる事、婚姻者より社会との関わりを持つ、SNS使用率の高さが見られる。中国も同様であり一人っ子政策終息前後から、関連する出版物は増えている。
80后、90后以降のライフスタイル
経済成長と共に、「月光族」との単語がだされ、現在もメディアに出る事がある。勤務で得た収入を全て支出に回し、その時の良い生活を求める層と言える。2000年前半より、これらが食事、生活用品、サービス業に新たな消費形態を生み出していった。
一人っ子政策開始は、文化大革命終息時であり大学等高等教育の開放でもあった。出生人口は同政策後でも1987年まで増加するがそれからは減少に向かう。
大学進学率が増加していくのも生活収入の増加が子女の高等教育に進めた結果であり、政府の計画は順調に現実化していった様に見える。80年代以降の経済拡大の中で生まれた世代(80后、90后)は、祖父母から教育、生活両面で支援を受けながら、社会に進出した人は少なくない。
新しい消費、ライフスタイルを推進していく世代であり、一部で単身社会の形成がされていく。
祖父母の存在と単身経済
民政部統計では2018年独身成人は2.4億人。うち単身居住者は7,700万人で、2021年内には9,000万人から1億人に近づくと推定される。
単身者の増加には色々な要因がある。一人っ子政策からの女性に比べ未婚男性比率が高いこと。
中国では結婚時に住宅を購入するのが一般的であるが、その費用上昇が続いている事。
インターネット含め単身でも孤独を感じず生活が出来る等、日本等他国大都市部で見られる傾向が急激に進んでいる。
出産の減少についても、環境変化含め複数要因が絡む。
以前は祖父母が孫の養育を行い両親は仕事を、とのスタイルであった。地方都市の発展もあり、子女のいる大都市と別々の生活を求める層も増えた。
以前より家政婦の雇用もあるが、家政婦の高齢化と実子を預ける不安。そして教育費の高さである。
高学歴社会となった中国では、児童のころより学校以外に様々な教育を与える。両親の仕事へのプレッシャーも大きくなっている中で、出産で休業する事への不安を抱える女性も以前から見られる。
単身経済の拡大は続くと推測する。
空巣青年と消費
「空巣」は日本語でいう犯罪用語ではなく、文字の通り「Empty Nest Youth」20,30代の単身独居者を指す。
アリババが2017年に発表した「空巣青年ビッグデータ図鑑」から90后が61%、一人で食事、就寝、仕事に励む「蟻族」と言われた80后世代が35%となり、これから00后も含まれ、増加すると予想する。
また、ここでも男性:女性=64:36と男性が圧倒的に多い。
地域では深圳、北京、広州大都市がトップ3で各約300万人。以下も一線都市となり、日本の東京等大都市での人口増加と同様の傾向が見られる。
ただし中国では、「月光族」は一線都市では40%だが四線五線都市では76%にぼる事で、収入差を考えると彼らの支出額に地域差は少ないのかもしれない。支出行動が類似している可能性である。
彼らの42%は、消費の動機は「自分を喜ばせる為」であり、各産業が提供商品、サービスを変化させている。
小売食品、アルコールにおいても少量包装の増加であり、家電業界でも、小型多機能一人用製品の開発、大型が中心であった家具業界の単身用製品の販売。外食産業ではデリバリーの拡充であり、イートインでは一人用スペースの設置である。
テーブルで数人が囲むのが主流だった鍋料理の一人用は、すでに定着しているサービスだ。
単身増加→ペットも増加
中国ペット産業は大きな拡大を示しており、2015年978億元(1.6兆円)から2020年2,953億元(4.7兆円)に拡大。2023年5,928億元(9.5兆円)との予測もある(iiMedia)。全体の70%が80后、90后であり、単身者のペット月額費用は平均5,561元(約9万円)との資料もある。日本のペット市場1.57兆円、ペット費用1-2万円/月と比べてもかなり高額な支出である。
そしてAIスピーカー市場も、2019年4,589万台の出荷(前年比109.7%)と大幅な拡大を見せている。
日本の都市化と都市人口集中、単身化の進行は、中国でもこの20年大きく進行しており、継続されこの世代の消費傾向が産業に与える影響は広がると予測する。
さらに進む「お一人様」市場
中国はこのままでは高齢化社会への加速度は高まり、新たな「ルイスの転換点」を迎える。しばらくは消費の中心層に対応した製品、サービスの提供開発が消費規模の拡大に繋がる。
中国において、結婚率の減少と出産数の減少は継続する。
消費の中心である80后、90后において単身者の数が増加する中、単身者向けの製品開発とサービスの拡大も続く。常に新しい情報を欲する世代だけに同一のサービス、商品の提供を続けても飽きられる可能性が高い。
精神的癒やしを必要とする層も多い中、ペット、AIのニーズの拡大が見込まれる。
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