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トランプ関税、中小自動車部品メーカーへの影響懸念
「トランプ関税」が世界の自動車産業を揺るがしている。日本では2024年に823万台の自動車が生産され、そのうち137万台が米国に輸出された。金額にして6兆円にのぼる。自動車部品の米国向け輸出額は1.2兆円だった。いずれも米国が最大の仕向け地であり、日本の自動車産業にも大きな影響が及ぶ。日本の自動車メーカーの間では、追加関税のコストを回避しようと、日本での生産を米国に移管する動きが出ており、自動車部品メーカー、とりわけ米国に工場を持たない中小規模の自動車部品メーカーは苦境に立たされる恐れがある。
トランプ関税がグローバル生産最適化の波乱要因に

自動車をどの国・地域で生産するかは、グローバルに工場を展開する自動車メーカーにとって重要な経営判断の一つである。自動車メーカーがグローバル生産の最適化に日々励む中で、大きな波乱要因となっているのがトランプ関税だ。2025年4月3日から米国で輸入する乗用車に対し25%の追加関税が賦課されることになった。5月3日からは主要な自動車部品に対しても同様の措置が発動された。米国を主要市場と位置付ける日本の自動車産業への影響は甚大である。
一部の自動車メーカーは国内から米国へ生産を移管
関税コストを回避しようと、さっそく、日本の自動車メーカーの間で生産場所を変える動きが出ている。日産自動車とホンダが、日本で生産して米国に輸出していた一部車種の生産を米国に移管する方針だ。
この際、自動車部品メーカーによる部品の生産も、関税コストを回避するために、日本から米国に移管するのが望ましい。ただし、米国は人件費や資材費の高騰で事業環境が悪化しており、移管のハードルは高い。トランプ関税の度重なる修正も踏まえると、自動車部品メーカーは難しい判断を迫られている。
(日本の自動車部品メーカーが、中国など第三国から米国へ輸出するケースも多く、同様の影響を受ける。ただし米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)に属するメキシコ、カナダは関税が一部免除されている)
米国での部品減産計画を取りやめる事例も
日本貿易振興機構(JETRO)がトランプ政権の関税政策に関するウェビナーへの参加企業などを対象に2025年4月に実施したアンケートでは、関税への対応策として「米国国内での現地生産増加(輸出からの切り替え)」を選んだ割合(輸送用機械器具459社、複数選択)が28.8%だった。厳しい事業環境でも米国での部品増産を選択するケースが一定数ある。
バネ部品大手のニッパツは、人件費の高騰を受けて米国での減産を計画していたが、トランプ関税を受けて中断した。米国での一部部品の生産を日本に移管したが、それを元に戻すという。同社では、自動車メーカーが米国生産を強化し、米国産部品の需要が高まるとみている。
米国に工場がない自動車部品メーカーは苦境に
ニッパツのような規模が大きい自動車部品メーカーであれば、こうした対応が可能だ。しかし、2次、3次以下の中小規模の自動車部品メーカーは、米国に工場を持たず、自動車メーカーの生産移管に追随できないケースが多い。人件費が高騰しているうえに、工場を新設するような投資余力に乏しいためだ。自動車メーカーの生産移管に伴い、日本での減産が進めば、中小の自動車部品メーカーには大きな影響が及ぶ可能性がある。
どの自動車メーカーに依存しているかで影響は異なる

自動車メーカーごとに、米国における自動車の販売量や、その自動車をどこの国・地域で生産しているかの割合は異なる。このため、自動車部品メーカーへの影響度合いも、自動車メーカーごとの取引量で差が出る。
先述したホンダは、日本で生産する車両(2023年度70万台)のうち米国に輸出している車両の割合は1%未満であり、量としては少ない。日産も、生産移管に伴う日本の減産量は5月から7月の3カ月間、1.3万台で今のところ規模は大きくない(日産の2023年度の日本生産は72万台だった)。しかし、減産が定常化すると自動車部品メーカーへの影響は拡大する。
SUBARU、マツダの動向が焦点
日本の自動車産業という観点から見ると、SUBARUやマツダの動向が焦点となる。SUBARUは2023年度に日本で60万台を生産し、このうち米国向け車両の割合が約5割だった。マツダは2023年度に日本で79万台を生産しており、このうち米国向けは約3割。いずれも、日本で生産し米国に輸出する車両が多い。仮に、大規模な生産移管が起きると、SUBARUやマツダとの取引が多い自動車部品メーカーへの影響は大きい。
生産移管せずとも、値上げで減産の懸念も
自動車メーカーが生産を移管しないとしても、関税コストを自動車価格に転嫁すれば、価格が上昇、販売が減って、減産することも予想される。自動車メーカーによる自動車販売の価格設定も、自動車の生産量を左右するため、日本の自動車部品メーカーに影響を与える重要な要素だ。
また、関税コストで自動車メーカーの業績が悪化すると、自動車部品メーカーに対するコスト削減の圧力が高まる可能性がある。米国事業の収益依存度が高いほど、その圧力は高まるだろう。
トヨタ自動車は調達方針を維持、日産は減産分を別の仕向け地で補う
トヨタ自動車は日本で生産する車両のうち、米国向け車両の割合が2割弱と高くない。しかし、2023年度の日本の生産台数は330万台と群を抜いて多いため、やはり大きな影響力を持つ。ただし、トヨタ自動車は関税コストを自社で吸収し、米国での販売価格を当面維持、自動車部品メーカーからの調達量や価格も原則、維持する方針を明らかにしている。
日産は米国向けの車種を減産する一方で、グループ会社の日産車体九州で生産している中東向けの車種を増産する計画だ。自動車部品メーカーを含む産業や雇用を守るために、米国以外の仕向け地を確保するのは、有効な手立てである。
自動車メーカーがどこの国・地域で何をどれくらい生産するかの判断は、トランプ関税を受けて、従来よりも重大さを増している。
参考文献
日刊工業新聞 電子版「ホンダ、日本から「シビック」移管 トランプ関税対応」
読売新聞 地域ニュース「トランプ関税受け日産が米国向けを減産へ…「城下町」福岡県苅田町で高まる不安、人員削減検討する企業も」
2025/3/31 中日新聞朝刊 1ページ「トヨタ 米で値上げせず 関税対応で当面 上昇分は自社負担 生産・雇用維持へ」
2025/4/16 日本経済新聞「ニッパツ、米国で自動車部品の減産を撤回 関税対応で」
2025/4/22 日本貿易振興機構(JETRO)調査部「米国トランプ政権の追加関税に関するクイック・アンケート調査結果」
2025/4/16 日本貿易振興機構(JETRO)調査部「米国トランプ政権の関税政策の要旨」
日本自動車工業会統計
2025/3/27 NHKニュース「米自動車追加関税 中堅の自動車メーカーを中心 生産や販売戦略に大きな影響も」
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