アセアン諸国「コロナ・ショック」耐性を分析すると…

コロナウィルスの感染拡大に伴い、ヒトの移動に制約が出ている。不確定要素の増加に伴い日系企業によるクロスボーダーM&A活動にとっても、慎重・静観対応となるケースが増えている。そこで、筆者が主に担当するアセアン諸国の経済について、コロナ・ショックに対する「耐性・安定性」について分類してみた。 ※あくまでも、経済力について、東南アジアでのコロナ蔓延が抑えられているという前提である。

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国別のコロナウイルスへの耐性

 

高耐性:○ 

 

■タイ

バンコク

2020年GDP成長率を1.0ポイント下方修正(修正後:1.5~2.5%)観光大打撃、航空会社不振の報道が多いが、財政安定(=金融政策余地あり)は他のアセアン諸国との比較で突出して優位。課題は実質的な軍事政権(野党解党など民主化運動封じ込め)であるが、コロナ問題のような有事における政策運営のスピード感では有利と言える。

(M&A等進出に際しての注目産業)

精密機器・飲料・食品・通信(商用5G開始)の産業に注目。人件費高く低付加価値の工業品・繊維製品は採算確保が難しい。

 

■インドネシア

ジャカルタ

経済けん引が内需主導との特性を持つ点は、コロナ問題に伴う世界需要減の影響は受けないことになりプラスとなる。この点は同時に、国内需要分を国内生産で対応出来ていないとの課題でもあり、自動車産業を含めまだまだ国内での工業化が遅れている。昨年2期目に入ったジョコ大統領は首都機能移転や外資誘致政策を矢継ぎ早に発動しており、この部分が伸びしろと言える。

(M&A等進出に際しての注目産業)

自動車・運送等ロジスティクス・インフラの産業に注目。小売・食品・不動産は地場系独占にて協業以外で入り込む余地は小さい。

 

少々リスクあるが期待値高い:△

■ベトナム

ホーチミン

サムスンを中心とする韓国企業の主要製造拠点がある。生産活動がコロナ問題で停滞する可能性が、同国輸出の最大リスクとなる。逆にグローバルベースでファーウェイやiPhoneの中国生産が停滞し、その間にGalaxy販売量が増えれば追い風にもなる。

国民車(ビングループ)は苦境。デザイン・基礎技術・部品の多くが欧州からの輸入であり、値段が欧州輸入車と変わらず高すぎる(例:SUV車$70,000㌦)点が難題(政府が欧州からの輸入関税を引き下げる等出来るか?)。

本来国民車は、安い価格を武器にした戦略(インド・マレーシアが得意)。部品まで現地生産でまかなう、タイ製日本メーカー車(ホンダSUVなど)がコスパよく引き続き人気。

近時のカンボジア(政治面)に対するEU制裁を受け、同国からの縫製品供給が減少、これがベトナム縫製産業にプラスに働く可能性が大きい。

(M&A等進出に際しての注目産業)

自動車部品・運送等ロジスティクス・インフラ・ファシリティマネジメントの産業に注目。縫製についてはコロナ問題収束に伴うグローバル需要次第。

 

課題多い:×

■マレーシア

マレーシア クアラルンプールの街並み

マハティール首相辞任劇から株価指数は過去10年来の下落を見せた。2020年の成長率の予想は3%台に下方修正。1月、3月と利下げ実施。首相交代の影響は未だ終わっていない。

コロナ問題はムヒディン新首相にとってはいきなりの試練となる。マハティール氏の反撃糸口(次の国会で内閣不信任案~内閣総辞職~総選挙に追い込む公算)となる可能性もある。よって公共インフラ投資などへの政策運営は、停滞が見込まれる。外資誘致策を打ち出す余裕はないだろう。国会は当初3月9日予定が、5月18日開催に延期された。これがムヒディン氏にとって吉と出るか凶と出るかは要注目だ。

(M&A等進出に際しての注目産業)

コロナ問題・政治問題収束次第で、自動車・運送等ロジスティクス・ファシリティマネジメントの産業に注目。

 

■シンガポール

マーライオン

2020年GDP成長率を1.2ポイント下方修正(修正後:△0.5~1.5%)、コロナ問題による観光・輸出業へのマイナスインパクトに加え、同国上場企業の中には事業が中国市場の企業も少なくなく、株価インパクトは同国経済動向以上に中国動向に引っ張られる可能性が大きい。

グラブ社というユニコーン企業を輩出しており、様々なスタートアップ投資機会は多くある一方、これらスタートアップ企業への中国からの投資バックアップが大きく影響していることもあり、現時点ではこれら投資機会への関心も、やや慎重にならざるを得ない。

(M&A等進出に際しての注目産業)

コロナ問題収束次第で、医薬・IT系のスタートアップ機会に注目。

 

まとめ

コロナ問題に伴う最近の経済インパクトとは、ヒトの行動が強制的にストップされることに伴う経済活動の停滞と、その不透明感に伴う金融市場の縮小であり、震災時に類似する部分はある。

他方、局所的な震災の影響と異なり、コロナは世界中に恐怖心を与え、いつまで続くか分からない点で、平常化までに時間を要す可能性が高い。そのような中でM&A戦略を策定する中で、対象企業だけでなく、投資対象国の体力(=耐性)についても十分留意の上での検討が必要となる。

(以上)

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