伴奏者として 「ある素材メーカーの改革」(中)

「仕掛品の保管倉庫なんだけど、建物が古くて雨漏りするんだよね。雨漏りの場所を避けながら、雨の日はブルーシートをかぶせてるんだよ」 投資家として、業界シェア6割を誇る老舗素材メーカーの改革を任された筆者は、工場の様子に愕然とする。

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工場には雨の日の顔がある

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私は、工場見学を晴れの日と雨の日の2回に分けてするようにしている。大企業の工場では必要ないのかもしれないが、中小企業の工場は、比較的予算が限られている中で、アイデアを駆使しながら、修繕をしたり、導線を変更したりしている。急場をしのぐため、仕掛品の一時保管がずさんになりがちだ。

現場を見ないと、何が壊れているのか、何が無駄なのか、何が非効率なのかがわからない。修繕が必要な個所、更新投資が必要な機械などを1つ1つ確認していく。最も重要なのは、排水処理設備だ。

これは地域住民の方々との接点でもあり、かつ、環境汚染に関する規制は年々厳しさを増している。さらに、規制の運用は自治体ごとに確認していかなくてはならない。

「うちの排水処理場は立派でね、まあ、それだけたくさんの水を使う工場だってことなんだけど。カスがたまって、沈殿しちゃうから、撹拌機で混ぜながら、ふるいにかける仕組みなんだよ」

自信満々の社長に、私は思わず尋ねた。

「あれ?この撹拌機、動いてますか?」
「そうなんだよ。撹拌機の軸が折れちゃって、きちんと機能してないんだよね」

半径5メートル以上の貯留槽の真ん中に撹拌機の軸があるが、確かに折れている。当然、撹拌機は回転していなかった。

「これは何とかしなくちゃって思ってるんだけどね。うちの生命線だからね」

エコではないエコ製品工場

排水

工場で生み出される製品は、自然界で生分解される環境志向のものだ。しかし、工場内では様々な薬剤が使用されており、1日800トンを超える水、樹皮くず、革くず、脂肪、石灰、硫酸、染色剤、害虫の死骸など、多岐にわたる物質が排水設備に流れ込む。

大量に使用される石灰水は硫酸で中和されるが、きちんとした濃度管理をしなければならない。排水ルートも、一般工場排水とは別ルートなのだが、工場内の側溝や敷地内の道路が破損しており、一般配水ルートへの流入が避けられない。雨の日は、なおさら流入が増えた。

撹拌機を直すためには、排水設備を止める必要がある。水も全部抜かなくてはならないし、時間とお金がかかる。

私は、社長に進言し、排水処理担当部長、各現場の幹部を加えたプロジェクトチームを組んだ。大手素材メーカー、化学薬品メーカー、飲料メーカーなど、環境対策のしっかりしている複数の企業にコンタクトし、それぞれの排水処理施設の見学を依頼した。

その結果、これまでとは異なる方法による、新しい排水処理設備の設置が最善策であることがわかった。単純にカスをフィルターで濾すのではなく、バクテリアを用いて、生分解してしまう方法だ。このためには数か月の廃液試験、相応の金額の設備投資が発生することとなるが、既存の貯留槽を活用できるため、トータルコストは節約できた。

つづく

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