工場には雨の日の顔がある

 ame

私は、工場見学を晴れの日と雨の日の2回に分けてするようにしている。大企業の工場では必要ないのかもしれないが、中小企業の工場は、比較的予算が限られている中で、アイデアを駆使しながら、修繕をしたり、導線を変更したりしている。急場をしのぐため、仕掛品の一時保管がずさんになりがちだ。

現場を見ないと、何が壊れているのか、何が無駄なのか、何が非効率なのかがわからない。修繕が必要な個所、更新投資が必要な機械などを1つ1つ確認していく。最も重要なのは、排水処理設備だ。

これは地域住民の方々との接点でもあり、かつ、環境汚染に関する規制は年々厳しさを増している。さらに、規制の運用は自治体ごとに確認していかなくてはならない。

「うちの排水処理場は立派でね、まあ、それだけたくさんの水を使う工場だってことなんだけど。カスがたまって、沈殿しちゃうから、撹拌機で混ぜながら、ふるいにかける仕組みなんだよ」

自信満々の社長に、私は思わず尋ねた。

「あれ?この撹拌機、動いてますか?」
「そうなんだよ。撹拌機の軸が折れちゃって、きちんと機能してないんだよね」

半径5メートル以上の貯留槽の真ん中に撹拌機の軸があるが、確かに折れている。当然、撹拌機は回転していなかった。

「これは何とかしなくちゃって思ってるんだけどね。うちの生命線だからね」

エコではないエコ製品工場

排水

工場で生み出される製品は、自然界で生分解される環境志向のものだ。しかし、工場内では様々な薬剤が使用されており、1日800トンを超える水、樹皮くず、革くず、脂肪、石灰、硫酸、染色剤、害虫の死骸など、多岐にわたる物質が排水設備に流れ込む。

大量に使用される石灰水は硫酸で中和されるが、きちんとした濃度管理をしなければならない。排水ルートも、一般工場排水とは別ルートなのだが、工場内の側溝や敷地内の道路が破損しており、一般配水ルートへの流入が避けられない。雨の日は、なおさら流入が増えた。

撹拌機を直すためには、排水設備を止める必要がある。水も全部抜かなくてはならないし、時間とお金がかかる。

私は、社長に進言し、排水処理担当部長、各現場の幹部を加えたプロジェクトチームを組んだ。大手素材メーカー、化学薬品メーカー、飲料メーカーなど、環境対策のしっかりしている複数の企業にコンタクトし、それぞれの排水処理施設の見学を依頼した。

その結果、これまでとは異なる方法による、新しい排水処理設備の設置が最善策であることがわかった。単純にカスをフィルターで濾すのではなく、バクテリアを用いて、生分解してしまう方法だ。このためには数か月の廃液試験、相応の金額の設備投資が発生することとなるが、既存の貯留槽を活用できるため、トータルコストは節約できた。

つづく

ランキング記事

1

アリババは国有化されていくのか

アリババグループの金融・オンライン決済部門のアント・グループ(前アント・ファイナンス)は、2020年11月に予定されていた上場が延期され、そのまま現在に至っている。ジャック・マー氏の中国金融政策への批判発言から端を発し、アリババは金融業に限らず様々な制限が加えられていると報道されている。この記事では、アリババの現状とともに、中国のモバイル小口決済について考察したい。

2

品質不正多発の三菱電機に学ぶ、あるべき不正撲滅方法

三菱電機の品質不正が止まらない。2021年7月に35年以上に渡る品質不正が公表された。調査を進める中で不正の関与拠点、件数が膨らみ、直近の報告では実に150件近い不正が認定されている。一方で、当社に限らず不正そのものの発生や再発は止まらない。再発防止策がなぜ機能しないのか、当社の取り組みを題材にあるべき再発防止策について解説する。

3

進む地方銀行の持株会社体制への移行

経営統合によらない地方銀行の持株会社体制への移行が増えている。銀行法改正による後押しを受けて、地域の課題に向き合いながら、事業の多角化を進めやすくして収益拡大を図るのが狙いであるが、果たして中長期的な企業価値向上に資する事業ポートフォリオの構築は進むのだろうか。

4

人的資本とは 経営の新しい潮流

人材を資源ではなく付加価値を生む「資本」として見直す潮流が拡がっている。企業の「人的資本」に関する情報開示が制度化されるのに伴い、人事部門は従来の定型業務中心の役割から、企業の中長期戦略を実現するための戦略人事への転換が求められている。

5

村上春樹さんから学ぶ経営㉕ ニッチ再び。大谷選手と「何かを捨てないものには、何もとれない」

私が経営の根幹だと考える「ニッチ」(『隙間』の意味ではありません)について、再び論じたいと思います。大谷翔平選手の活躍が常識外であったため、少々長い回となります。それでは今月の文章です。

人気のキーワード

海外スタートアップ情報はこちら!  寄稿・執筆者募集中