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「従業員エンゲージメント」向上で業績はあがる〜「経営人材」へのサプリメント■第4回〜
「従業員エンゲージメント」(企業への貢献意欲、信頼、一体感)を向上させる取り組みが、多くの企業で行われている。従業員エンゲージメントが高い組織では、組織の活性化、業績の向上、離職率の低下など、様々な点で効果があるとされている。今回は、従業員エンゲージメントとはどのようなものか、終身雇用の崩壊した日本企業で、意欲をどのように向上させるのか、具体的な方法を含め紹介する。
1 従業員エンゲージメントとは
従業員エンゲージメントとは、企業と従業員とが相互に影響し合いながら、お互いが一体となって成長し合い、絆を深める関係のことだ。
日本では、終身雇用という仕組みが一般的だったため、働く過程で従業員エンゲージメントが自然と高まると考えられてきた。日本企業にとって「社員の愛社精神や組織の一体感が強み」という考え方は根強い。
ところが、終身雇用が崩壊した現在では、優秀な社員がより好条件で引き抜かれたり、より良い待遇を求めて転職したりということが当たり前に起こっている。
また、最近では米国のギャラップ社の「従業員のエンゲージメント(仕事への熱意度)調査」で、日本の「熱意あふれる社員の割合が6%」で米国の32%と比べて著しく低く、調査した世界139ヶ国中132位と最下位クラスの低水準にあるということも示されており、このような状況の中、従業員エンゲージメントの向上が重要視されつつある。
2 従業員エンゲージメントの向上がもたらす効果
従業員エンゲージを向上させるということは、以下のような様々な効果があると言われている。
①業績が向上する
従業員エンゲージメントが向上するということは、従業員は自分が働いている企業に対して信頼感や愛着を高めるということだ。自分が担当している仕事に対しても誇りや愛着を感じることとなり、仕事に対するモチベーションも向上し、自発的、自律的に仕事に取り組むようになる。
また、従業員エンゲージメントの高い組織は、組織内の信頼感も高いと言われる。自分のことだけを考えるのではなく、お互いに助け合って仕事へと取り組む雰囲気が醸成されるため、同僚への信頼感が高まり、協力して会社に貢献するようになり、チームワークの良い組織づくりに通じる。
このようなモチベーションの高い従業員と信頼感で結ばれた組織は、高いパフォーマンスを発揮し会社の業績に貢献することとなる。
②離職率が低下する
給与やボーナスなどの報酬による「外発的動機付け」だけで、従業員の会社に対する帰属意識を高めることでは、従業員はすぐにさらに条件の良い企業へと転職をしてしまうことになるだろう。
しかし、仕事へのやりがいや誇り、働きやすさといった価値は「内発的動機付け」となり、その企業への愛着もわき、その会社で働いていたいという帰属意識につながる。こういった内発的動機付けは企業によって独自のものであるため、簡単に離職することを防ぐことにもつながる。
③優秀な人材を確保しやすくなる
従業員エンゲージメントが向上することで、企業の業績が向上し、離職率が低下することで会社は活気があり働き甲斐のある職場となり、優秀な人材を確保しやすくなる。
また、エンゲージメントの高い従業員の活気にあふれた姿を見ることは「この会社で働いてみたい」という感情が湧いてくることにもつながり、優秀な人材採用において良い効果を与えることになる。
3.従業員エンゲージメントを高めるには
このように従業員エンゲージメントの向上は企業にとっても従業員にとっても多くの効果をもたらす。それでは従業員エンゲージメントを向上するにはどのような取組みが必要なのだろうか。重要なポイントについて説明する。
会社のビジョンや社会に貢献している価値を明確にする
従業員エンゲージメントを高めるうえで、自社のビジョンや社会へどのような価値を提供しているのかを従業員に認識・説明することは非常に重要だ。
つまり自分が取組んでいる仕事が社会にどのような影響や貢献を与えているのか、どのような価値を提供できているのかを従業員に実感させることだ。
そのためには、会社の取組みを社外に向けて発信するだけでなく、意外と後回しになりがちな社内に対しても、会社のビジョンや価値をしっかりと伝えていく事が必要だ。
また、ビジョンについて実際に社員がどう感じているのか、共感できているのかなどを経営者側も一体となって直接対話をしたり、議論したりする機会を設けることも重要だ。
社内のコミュニケーションを活性化させる
会社という組織で仕事をする以上、すべてを自分一人で進められることは難しく、上司や同僚、部下などと協力をして仕事を進めることになる。そのため社内の同僚やチームメンバーなどと良好な関係を築くことも、従業員エンゲージメントを高めるうえでは重要だ。
逆に職場で孤立してしまい社内で人と人とのつながりが感じられなくなり、他の人とコミュニケーションが少なくなってくると、会社への愛着が低下してしまうので要注意だ。
この組織のために頑張りたい、この人のために貢献したいと思えるような人間関係作りが求められる。
例えば部門横断的な勉強会を行ったり、食事会やイベントを開催したりするなどの機会を利用して、社内のコミュニケーションが活性化することも有効だ。
公正な人事評価とフィードバックを欠かさずに行う
従業員エンゲージメントを向上させていくためには、従業員に「会社は自分のことを認めてくれている」「自分を正当に評価してくれている」という意識を持ってもらうことが重要だ。もし自分がちゃんと仕事をしているにもかかわらず、仕事はせず上司に取り入ることが上手な人が高く評価されている場合、従業員は著しくモチベーションが低下し、会社への忠誠心も下がるだろう。それを避けるためには、会社として公正な人事評価の仕組みを整えることが非常に重要になってくる。
また、日々の忙しさや現場の管理職に任せきりがゆえに人事評価はするがフィードバックを疎かにしてしまうことも避けなければならない。従業員の納得性を高めるためには公正な評価と同時に「1on1」(一対一の面談)などの取り組みを導入し適時適切にそのフィードバックを行うことも、とても大切だ。
定期的に従業員エンゲージメントを調査する
従業員エンゲージメントは、目に見えづらく、従業員エンゲージメントを高めるための取組みを行っても、実際に向上したのか、どの施策が効果的だったのかを検証することが難しい。
そこで、半年に一回や年一回など定期的に従業員にアンケートなどを実施し状況を把握することで、数値として可視化して現状をとらえ、改善へと取組んでいくことが大切だ。また、環境変化が激しい今日では、一度調査した際に従業員エンゲージメントが高いという結果が出たからといってそのままにせず、定期的に調査を繰り返し、状況を定点観測することも重要だ。
「終身雇用崩壊」後に必要不可欠
かつて日本企業では従業員は会社に尽くし、その代わり会社は従業員を守るという意識があった。しかしながら、現在では終身雇用や年功序列といった日本特有の仕組みも崩壊しつつあり、人材の流動化が加速している。そのような中、従業員のモチベーションを高め、高い能力の発揮が期待でき、離職率の低下につながる「従業員エンゲージメント」という考え方の導入は、今や企業の競争力に必要不可欠になってきているのではないだろうか。
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