上司からの「やる気を失わせる」一言とは?5つの事例と賢い対処法

仕事の現場では、何気なく放たれた一言が、人のやる気を一瞬で奪ってしまうことがあります。「あの言葉で自信をなくした」「一気に意欲がしぼんだ」そんな経験をしたことがある人も多いでしょう。相手の意欲を削いでしまう典型的なフレーズの例を取り上げながら、もし自分がそうした一言を投げかけられたとき、どのように受け止め、どう返せばよいのかを解説します。

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1.「私はいいと思うけど、他の人はどうかな」

1.「私はいいと思うけど、他の人はどうかな」

この言い方は暗に「よくない」と言っています。総論OKと言っているのと同じで、総論OKって本当はノーなのです。反対と言い切れずに、自分なりに遠回しに反対を主張しているのです。ノーと言い切れない人が遠回しな表現をすることで、残念ながらモチベーションが下がってしまう人はたくさんいます。

こうした発言をする人は押しの強い人ではありません。イエスかノーかっていったときに、比較的イエスとか、黒か白といったら黒に近い白ですとか、余韻や逃げ道を作っておきたいのです。だからといって「イエスなのかノーなのか」と尋ねても曖昧な答えは切れ味のある言葉にはなりません。

こうした発言をする人にどう対応するべきなのか? まずは、「ノーですね」と言ってあげるべきでしょう。「わかりました。ノーでいいんですね」と。つまり、余韻を残さないほうがいいです。いざという時に「私はこっちの立場だった」と示せるように相手の曖昧な言葉を整理し、エビデンスにしておくことが大切です。そもそもモチベーションが下がる理由は、「どっちやねん」と感じる曖昧な発言に振り回されてやる気がなくなるからです。

そこで「わかりました。ではノーという理解で進めますね」と明確にすると、「いや、そういうことじゃなくて俺は賛成なんだ」などと言い始めるでしょう。でも「結局は反対なのですよね」と断言することでモチベーションは下がらないのではないでしょうか? 何ごとも整理して曖昧さが消えることでモチベーションは下がりづらくなります。いわゆるクローズドクエスチョンです。はっきりとした答えを返すことが大事でしょう。

2.「前例がありません」

すごくきれいごとを言うと、「前例がないからこそ、やる」という姿勢が本来は正しいです。特に今の時代において、前例に倣うだけでは成功しづらい。後追いは二番煎じになり、結局は競合に負けてしまいます。本来プライスリーダーになれる人は、古い言葉で言うと、ブルーオーシャンに飛び込める人です。

大事なことは、前例がないと言われたときに、「だからこそやるんです」と返す姿勢です。「だからやるんじゃないですか、普通」と相手にさらっと返すことなのです。ここで「前例があればやるのですね?」と揚げ足取り的に言質を取って「これは前例じゃないでしょうか」と無理やり前例らしきものを探しにいく方法もありますが、それよりは好戦的に進める方法をおすすめします。

そもそも「前例がないから」と反対しているのはどうしてなのか? その人が役割上、慎重な立場を取っているだけというケースも多いのです。会社として「慎重に考えなさい」という意味合いで象徴的に前例がないからとネガティブな発言をした可能性もあります。反対意見をを言わざるを得ない立場の人もいます。だからこそ、「その発言、ごもっともです」とまず相手を立てたうえで「だからこそ、やりましょう」と言い切ってみてはどうでしょうか?

おそらく、反対意見は会社を代表するものではなく、「慎重に検討するための楔」としての発言であるケースもあります。その楔を乗り越えてやるべき強い意志が自分にあるのであれば、やると決めるべきです。 一つ一つの発言をまともに受け止めて、モチベーションを下げてしまうのは大いにもったいない。自分の意志をつらぬく発言で、悪い流れを止めてしまいましょう。

ちなみに多くの会社では理念や方針に「挑戦」や「新しいことに取り組む意欲」が掲げられています。そういったものを確認し「この会社は新しいことにあくなき挑戦をしてきた」と社長が語られていますよね、と反対意見に臨む方法も覚えておいてください。

3.「前に聞いたことある話だね」

情報をたくさん知っている人ほど過去の事例を並べて評論家のようにコメントしがちです。そのような人が仕事の意欲を下げるのです。

例えば、若手社員が社内で新規事業を検討・起案し審査委員から「過去に検討して無理と判断した案と同じ」や「もう聞き飽きたパターンですね」などと言われ、「もう二度と新規事業の起案なんてやるものか」と落ち込んでしまうことがあります。

「前例がない」以上に登場する場面かもしれません。それだけ似たものを探すことが得意な人が多いからです。過去の議事録や取り組みががしっかりと残されているからこのような発言がたくさん出るのでしょうが、こうした発言でモチベーションが下がるのは残念で仕方ありません。

何をやるかは、誰がやるかで大きく変わります。今回の話が過去の似たような話と「本当に同じと判断していいのか?」と問うべきでしょう。例えば、何回も社内で案にあがりながら「収益性がみえない」と実現できなかったプランが事業化されて、成功したケースはたくさんあります。例えば、リクルート社の結婚情報誌ゼクシィは同じような事業プランを何件も起案されていたので、「聞いても意味がない」と頭ごなしに否定されていた時期が長く続いたようです。ただ、まったく一緒ではないポイントをしっかり伝えることで事業化に至ったようです。

頭ごなしの反対にめげる前に、違いをアピールする心がけを持ちましょう。さらに「前例がない」という反対意見は見方を変え、肯定的な発言と捉えられます。、相手をうまく巻き込み、前向きなほうに持っていきましょう。「それだけ、可能性があるということです。だから一緒に考えてください」「似た事例をご存知なのですね。とても貴重な情報なので、ご協力いただけると心強いです」など褒めて協力を仰ぎましょう。

4.「情熱を感じないですね」

4.「情熱を感じないですね」

そもそも「情熱」とは何でしょうか? 「情熱を持て」「情熱を感じろ」と、やたらに情熱という言葉を使う人がいますが、この言葉は曖昧なまま使われがちです。ちなみに情熱という言葉を辞書で引くと「熱く高まった気持ち」「意気込み」「熱意」といった意味が出てきます。似た意味の「気合」や「根性」も熱く高まった気持ちを表現しているという点では、情熱と似た要素があるように思います。しかし両者には違いがあり、その相違点は「持続性」です。

気合や根性は精神を集中させて乗り越えないといけない、そんな瞬間に脳にアドレナリンを分泌させて気持ちを高ぶらせます点。情熱は瞬間的なものではなく、熱く猛々(たけだけ)しい気持ちを一定の期間、持ち続ける。気合と根性は、大声を出したり、自分の頬をぶったりすることで手に入るわけですから比較的簡単。しかし情熱は持続性が求められるため簡単ではありません。情熱を傾ける物事に対する意義や思い入れが必要となってきます。だからこそ、仕事で問われるのは情熱です。瞬間的な気合だけでなく、継続的な取り組みで成果が出せるかが重要なのです。

ところが、気合と情熱を混同しているように思える上司もいます。知人のEさんは上司から「情熱が足りない」と指摘され、その翌日に居酒屋に連れていかれました。上司は「この店のスタッフは情熱を感じるよね」と言いながら「情熱をもって仕事してほしい」と語ってきたのです。ちなみにそのお店は居酒屋甲子園というイベントで高い成績を出したスタッフがいるお店のようで声が大きく、元気にサービスするのが特徴。その元気さを情熱と捉えて、部下に見せたいと思ったようです。もちろんスタッフは情熱をもって仕事に取り組んでいるように思えましたが、上司は大きな声や表面的な姿勢ばかりを情熱と感じているようでEさんは「大きな声で話すようになれば情熱を感じてくれるんですかね」と嘆いていました。

ちなみに居酒屋甲子園における情熱の評価も大きな声ではなく、仕事に対する想いや夢、さらにそれを体現する仕事ぶりが重視されます。大きな声というよりはテキパキした姿勢やスピード感を評価しています。こうした本質的な情熱の意味を理解して要求しているのであれば部下も理解できます。ところが、ずれた情熱を求めているように感じるとモチベーションが下がるのではないでしょうか?

情熱というのは、仕事で一般的に表現するなら「こだわり」かもしれません。ビールメーカーの営業が「休日も散歩しながら自社製品の陳列状況を観察してしまいます」と仕事に対する想いを語ってくれると情熱を感じます。さらに「繁盛している店舗の陳列方法はメモをして取引先にも紹介するように心がけています」などと話してくれると、声が小さくても情熱は感じるのではないでしょうか?

情熱は想いを語ること、さらにその想いが掘り下げられていれば情熱の量を感じるもの。上司にはこうした情熱の意味を理解して求めてもらいたいと願います。仮にそうでない気合系を情熱と勘違いした要求をすればモチベーションが下がるだけ。でも、そんな気合系情熱を求める上司が多いのも事実。おそらく、自分も求められていたからだと思います。ならば上司に合わせて気合系を試みるのはどうか? それは自分のモチベーションを上げることにはつながりません。

古い話ですが俳優の高倉健さんが「不器用ですから……」と小声で語るCMがありました。言葉も少ないですが情熱を感じたものです。つまり、自分のペースで仕事に対する想いを語るだけでも、十分に伝わる場合が多いのです。それでも伝わらないようであれば、その上司は情熱と気合いを勘違いしているだけでしょう。その人の要求に応えるか否かでモチベーションを下げるのはあまりにもったいないです。時代遅れのマネジメントばかりの人は、いずれ淘汰されていきます。

ただ、あまりに負担になる状況が続けば、上司を飛び越えて「時代錯誤のマネジメントが行われている」と人事や役員に伝えてもいいかと思います。今の時代、気合を強要することはパワハラに該当します。おそらく同じような要求にモチベーションを下げている同僚がいる可能性が高いのではないでしょうか? 複数人で声を上げたとしても、問題はないと思います。

5.「期待していたので残念です」

あるオーナー経営者は、右腕として起用した人にこの言葉を言ってしまい、何年かおきに去られています。その理由はオーナーの関心と期待が何年かおきに変わるからです。当初は業務の効率化に関心があって、その専門家を右腕に起用。それなりの成果をあげるのですが、何年か経つと、その右腕の仕事ぶりをオーナーも覚えてしまう。すると、さらに高いレベルの成果を期待するのですが、右腕はその期待には応えられない。そこで冒頭の言葉が発せられて、右腕は居場所をなくして去ることになるのです。

ただ、オーナーは新たな関心が生まれるので新たな右腕を採用。右腕は同じように当初は期待に応える存在として高い評価を得るのですが、数年後には同じように残念と言われて会社を去るということが繰り返えされます。私は「オーナーのマイブームが気まぐれで変わる問題」と指摘して、右腕で転職を考えている人に注意を喚起しています。同じように残念だと言って、モチベーションを下げる人にはたくさん遭遇します。そんな人と仕事するなら、勝手に期待値が上がりすぎないように自分の等身大を伝えておくことが大切かもしれません。

プロゴルファーで全英女子を制覇した渋野日向子プロは国内ツアーで優勝できなかった試合の後、周囲から「残念ですね」と期待値の高い声をかけられました。しかし彼女は「こんなものですよ」「過大評価しないでください」と、等身大の自分をアピールしていました。本当にクレバーな選手だと感じます。

同じ状況で「期待していてください」や「頑張ります」と、むやみに期待値を上げる発言をしてしまう人が大半ではないでしょうか。周囲にのせられてしまうのでしょうが、その発言で自分の首をしめていることは自覚した方がいいかもしれません。もし誰かに「もっとできると思っていた」と言われても、「いや、それ過大評価ですよ。等身大の自分はこんなものです」と肩の力を抜いた回答を心がけてください。

※著書「モチベーション下げマンとの戦い方」は本記事の執筆者が「西野 一輝」名義で出版した書籍です。

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