読了目安:10分
NCP×FMI対談【後編】「出口」から逆算した支援で、会社を最も価値ある状態に
企業の成長支援と地方経済の活性化に取り組むファンド運営会社「フロンティア南都インベストメント合同会社」(本社・奈良市)が設立されて1年半がたった。南都キャピタル(NCP)とフロンティア・マネジメント(FMI)が手を組んだ狙いとは何だったのか。そしてこの会社の強みとは。これまでの実績を交えながら、事業を担う堺敦行氏とFMI松井佑磨に話を聞きました(前編と後編に分けてお届けします)。
話:南都キャピタルパートナーズ 代表取締役社長 堺敦行氏、フロンティア・マネジメント 松井佑磨
聞き手:Frontier Eyes Online編集部
<記事前編はこちら>
NCP×FMI対談【前編】ノウハウと信頼感を掛け合わせ、「すべての課題に立ち向かう」
手がけるのは「経営のコクピット」作り
――これまでの投資実績はどうなっていますか。現在はどのような支援に取り組んでいるのでしょう。
松井: ファンドを組成して1年あまり経過しましたが、投資実績は2件あります。1件目は関西の印刷機械メーカー(ファブレス)。2件目は都内の食品関係の会社に投資しました。
私たちが手始めに手がけることとして、会社のかたちをしっかりと整えることに注力しています。やるべき会議を行い、賃金規定などの規則類も整える。まずはインフラ整備です。それは今後、投資先の会社を事業会社等に引き継ぐことを見据えてのことです。
当然、その際には私たちがデューデリジェンスをされる立場になるわけですから。そうした場で指摘を受けないよう、しっかりと企業体として成立させるわけです。
堺: 中小企業の中には、確かな技術力を持ってはいても、組織としての体制が十分でないところも少なくありません。
いかに良い技術があったとしても、組織としての体制作りができていなければ、売却先にとってのコストになってしまう。仮により効率的な組織体制ができている会社とのコンペになればディスカウント要素になってしまうわけですね。
技術面に私たちが手を突っ込んでしまうと、価値を毀損することになりかねませんが、私たちの持つ力で社内体制の整備を進めることはできる。それによって会社の価値をさらに高めていく。
松井: 事業承継の問題も大事ですね。長年培った技術は、確かにいまの社長の頭の中に入っている。それをどう誰にでもわかるかたちで形式知としていくか。社長がいなくなったら、立ちゆかなくなるようではダメなのです。
社長が引退した後も、これまで通りの技術を生かせる体制をどう築くか。マニュアルに落とし込むなど、誰が見ても理解できるかたちでどう形式知化するのか。オーナー経営の中小企業では、こうした課題にも取り組んでいかなければなりません。
2件目は先月投資したばかりですが、企業規模や事業内容としても企業価値を向上させるドライバーが多いと考えており、様々な事業施策を推進していきます。
――支援を始めた印刷会社では、どのような変化が出てきていますか。
松井: 経営会議を通じて事業見通しを社内で共有するようになった、というのが大きな変化だと感じています。この業界は受注型のビジネスなので、今後の受注の見通しというのは先々まで見通せるものです。
会議をきちんと開くようになったことで、現在の社内的なリソース、売上目標に対する現状の数値、それを補うための営業活動など、今後の見通しを持ちながら足元の経営ができるようになってきており、少しずつ良い動きが出てきました。
堺: 社内体制の整備というのは、経営のコクピット作りのようなものですね。社長だけが「俺は分かっている」という会社は意外に多いものです。
私たちファンドが関わるということは、いずれ誰かにバイアウトすることになるわけです。売却先からすれば「社長の頭の中だけにノウハウがあっても……」となる。だからその経験、ノウハウ、知識を広く共有できるように「仕組み化」するんですね。私たちが得意としている支援です。
――それが安定したエグジットにもつながるということですね。
松井: そうですね。私たちも投資する際にデューデリジェンスで実態把握を行い、いろんな問題を検出すると思うのですが、逆に売却する際にもデューデリジェンスをされるわけですから。ですから、私たちが問題として認識したことはすべて手当をするということが基本です。
堺さんがおっしゃった、経営のコクピット作りというのは、まさにその通りで、組織体として経営を持続可能なかたちにすることが、企業の一番の価値につながると考えています。
堺: エグジットに向けて一番大事なのは、「エグジット先は誰か」という問題です。投資というものは、基本的に「出口」を考えなければ投資しちゃいけないものです。ですから、私たちは投資するタイミングから「出口」を考えておくんです。
同業他社、上流工程や下流工程、場合によっては異業種からの参入企業というものもあり得ます。複数のシナリオを描きつつ、実際に投資して支援が進んでいく中で、想定していた「出口」に対して現状はどうなのかを正しく見抜いていかなければなりません。そのためにいまやるべきことを明確にしていくのです。
松井: ゴールをイメージしておくというのが大事ですね。投資先の会社が一番評価してもらえる状態とは何か。そこから逆算して、支援の方法を考えていく。これがポイントでしょうね。
――今後の展望については、どのように考えておられますか。
松井: 足もと投資を検討しているものを含めると、1号ファンドは埋まると思うんですね。だから次の仕掛けをどうしていくのかを考えなければならない。2号ファンドを組成し、更なる投資ニーズに対応していく。コンサルファームのなかで、こうした流れができたら面白いと思っています。
堺: そうですね。いかに持続的に投資ができるかが大事ですね。1号ファンドの実績ができれば、「これだけの実績があるのだから次もやろう」となり、2号ファンド、3号ファンドとつながっていく。まずはきちんと投資先を見つけ、投資をすること。これが一つ目の実績です。
そしてきちんとリターンを出す。これが二つ目。このサイクルを築くことで、2号ファンドへとつながるわけです。お金を出して下さっている出資者の方にも「前回はここまで実績をあげられました。次のファンドをやりたいので、このような条件でいかがですか」と納得感のある説明ができる。
「株主はどんなことが起きても逃げられない」(松井)
松井: まずはしっかりと実績を積みたいです。中小企業のガバナンス不全という問題は結構大きな問題だと感じてきました。かつては融資している銀行側が経営についても口出ししていましたが、いまはそういうことが難しい時代になっています。
投資するということは結局、株主になるということです。どんなことが起きても逃げられない。あらゆる課題にも責任を持って対処しなければならない。ここで実績をしっかりと上げられれば、コンサルというサービスそのものの更なる信頼感にもつながっていくと思うのです。
堺: 私たちファンドのような第三者が入ってくることの意義のひとつは、ガバナンスの強化につながるということです。
強力なオーナー社長で成り立ってきた中小企業では、社長に「ノー」と言える人が社内にいるかというと、絶対にいないわけです。それで成長できていれば良いのかもしれませんが、すでに成長が止まっていて、誰もが「このままだとまずい」と思っていても社長の言いなりになるしかない状況は、現実にはよくあるものです。
こういう時に第三者が入ってきて「ここはこうしてみたら?」と提案することによって、ガバナンスを効かせるというファンドの使い方もあると思っています。私たちが株主になるからといって、がっつりと経営権を握り、経営者の首根っこをつかむというわけではないんです。ちょっとした監視の目を入れるということなんですね。常識的なことを常識的に言う。それだけでも価値があると思うんです。
かつての日本では銀行がそういう役割を担っていたと思いますが、そうした時代は過ぎました。誰かがこうした役割を担わなければならないのではないかという問題意識をずっと抱いてきました。
投資を通じ、コンサルの「原点」に立ち戻る
――堺さんは、銀行員の方にもファンドの経験を積んで欲しいというお話でしたね。
堺: ファンドのスキームについて考えること自体が、銀行員としては新しい頭の使い方ですし、行員の成長にもつながるものです。
「ファンドって、こういう使い方があるんだな」と行員たちが興味を持ってくれることで、取引先にも紹介できるようになったら新たな可能性が広がると思っています。投資をやることにより、マネジメントの本質的な課題を「ここだ!」とつかむことにもつながる。勘どころを磨くことにもなりますね。
松井: 特定の専門分野を見るだけでなく、経営課題をトータルで判断して対処していく。コンサルを手がけてきた私たちにとっても、投資を通じてコンサルの源流に立ち戻るという感じでしょうね。投資というものはいざとなったら何でもやるものですから。
堺: 同感です。投資は総合格闘技ですね。依頼されたことだけでなく、しっかりと経営の中に入り、FMIさんと手を組んで課題に取り組んでいく。私たちもそういう脱皮を図りたいと思っています。
コメントが送信されました。