大手ゼネコン、低採算受注の「負のスパイラル」から抜け出せるか

大手ゼネコンの2023年3月期の決算は、過去最高益を更新する住宅・不動産セクターの決算とは対照的に、大型の低採算工事の影響で、利益水準は低位に終わった。大手ゼネコンは過去にも建設需要が減少サイクルに陥ると、大型工事を低採算で受注して仕事量を確保し、それが一定期間を経て収益を圧迫する悪循環を繰り返しており、過去20年間で実質的な利益成長はみられない。この原因は、日本のゼネコンの仕事のやり方に根ざす構造問題と考えられる。しかし最近、鹿島がこのトレンドから抜け出てきた。大手ゼネコンが本気で環境変化への適応と成長を目指し始めた兆しと考えられる。

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図表1:大手ゼネコンの営業利益の推移(10憶円) 図表2:2023年3月期営業利益 業種別決算サマリー(10憶円)

大手ゼネコン決算、低採算の大型工事が足かせに

大手ゼネコン決算、低採算の大型工事が足かせに

今年も4月から5月にかけての企業の決算発表の季節が過ぎた。建設、住宅、不動産という民間施設や公共インフラの開発・建設・管理を行うセクターの決算発表では、大手ゼネコンをはじめとする建設セクターと、大手ハウスメーカーや大手不動産デベロッパーが属する住宅・不動産セクターでは、それぞれの発表内容の印象が正反対であった。(図表2)

すなわち大手ハウスメーカーや大手不動産デベロッパーの決算発表では、いずれの会社も23年3月期の利益は「期初公表を上回り」、発表の随所に「過去最高」や「過去最高を更新」との文言がちりばめられていた。また今後についても、金利水準や景気動向等の不確実性やリスクはあるものの、増収増益を目指す意志と自信が感じとれた。

一方、大手ゼネコンは、そもそも期末決算の発表前に鹿島を除く3社が期初の利益予想を下方修正していた。3社の決算発表では、期初の利益目標未達の理由は、受注時から採算の厳しい複数の低採算の大型工事が完成工事高として計上されたこと、および資材価格の高騰が利益率を低下させたことにあるとの説明がされた。

今後についても、24年度から建設業に適用される改正労働基準法による時間外労働時間上限規制に、スムーズに対応出来るかという点に不透明感が残った。総じて大手ゼネコンは、現在の利益水準の底上げは簡単ではない、との印象が残る決算発表であった。

「オリンピック特需」終了の不安、低採算受注の口火に

「オリンピック特需」終了の不安、低採算受注の口火に

大手ゼネコンの利益率が悪化したと言っても、受注したすべての工事が等しく低採算だったわけではない。大手ゼネコンの単体の完成工事高の2割強を占める土木工事は、官庁の発注する工事が大半を占め、比較的高めの安定した利益率を出している。直近の決算で利益率が悪化したのは、完成工事高の約8割を占める建築工事だが、その中でも中・小型の工事やリニューアル工事は比較的採算がよく、収益性も安定している。

大手ゼネコンの利益率を大きく悪化させる要因となったのは、主として東京都心で進む再開発プロジェクトなどの大型工事だ。建設市場では、2021年に開催された東京オリンピックの2~3年前から、にわかに受注競争が激化し始めた。背景にあったのは、「オリンピック特需」が終わり、仕事が減ることへのゼネコン各社の不安だ。各社は仕事量の確保を優先するため、低採算を承知で再開発などの大型工事の受注に動いたわけだ。そうした案件が工事進行基準に沿って、足元で本格的に収益計上されるようになったことに加え、折からの資材価格高騰も重なり、各社の利益を圧迫した、という構図だ。

大手ゼネコンが低価格受注に走るのは、近年始まったことではない。

建設需要が減少サイクルに入るタイミングではこれまでも、非上場の竹中工務店を含む5社による受注競争が激化。落札したゼネコンからすれば低採算受注となり、それがタイムラグを経て利益を押し下げるというプロセスが長年、繰り返されてきた。

20年前比の利益成長、わずか1.0~1.1倍

20年前比の利益成長、わずか1.1倍~2.5倍

過去をさかのぼると2008年のリーマン・ショック後に需要が激減し、少ない案件をめぐって受注競争が激化し、低価格の受注が横行した経緯がある。2012年末からのアベノミクスの頃のように建設需要の改善サイクルでは、受注が増えて利益率も改善して大幅増益となる一方、需要の減少サイクルでは大型工事を低価格で受注して、その後に減益トレンドが続く。そこには、年月を経て利益が積み重なって成長するという姿はない。

直近の2023年3月期の営業利益を20年前の2002年3月期の営業利益で割って倍率を出してみると、大成建設が1.0倍、清水建設が1.1倍で、この2社は20年間ほとんど成長がない。(図表2)

大林組は5.3倍、鹿島は2.9倍だが、この2社は2002年3月期の営業利益の絶対額が他の2社と比べて低すぎるため、他の2社並の500憶円が当時の実力と仮定すると、大林組が1.9倍、鹿島が2.5倍となり、鹿島は成長の名に値するものの、大林組の変化は緩やかなものにとどまる。

ちなみに大手ハウスメーカーの大和ハウス工業は10.1倍、積水ハウスが3.5倍、大手不動産デベロッパーの三井不動産、三菱地所、住友不動産はそれぞれ3倍強である。大手ゼネコンが他のセクターと比べて成長に乏しい企業群であることがわかる。(図表2)

「利益なき受注」に潜むゼネコンの構造問題

「利益なき受注」に潜むゼネコンの構造問題

ここでひとつ疑問が浮かび上がる。それは、たとえ需要の減少サイクルであっても、なぜ大手ゼネコンは利益の出ない工事を積極的に取りにいくのか、という疑問だ。

この疑問に対して各社は、「大規模な再開発などの大型工事の受注は、受注時の採算のみでは計ることのできないプラス面がある」と答えるのが常である。何をプラスと考えて利益の出ない工事を受注するのかを推測すると、次のような項目が考えられる。

まず第一に、ゼネコンが受注した工事を実際に施工するのは下請け業者であるという点だ。一般的に財務の脆弱な下請け業者は、仕事が減って収入が減れば経営危機に陥るリスクがある。下請け業者への支払いは出来高で決まるので、たとえゼネコンにとって利益が出なくとも、大型工事を受注して下請けに一定量の仕事を回すことが重要だ。それにより、ゼネコンを頂点とする下請けの重層構造を維持することが出来るからだ。

第二に、都市部の再開発などの大型工事の開発主体=施主は、多くの案件で大手不動産デベロッパーであり、これらの会社は将来に向けて多くの開発案件をパイプラインとして保有している。そこでこれらデベロッパーからの受注は、単独案件としては利益が出なくとも、長い目で見ればリピートオーダーが期待できるので、将来見込めるオーダー と合算して利益がでればよいとの考えがある。

第三に、過去の経験則では、施工中のVE(value engineering)により利益率は受注時の見込みから改善することが多いので、受注時の採算が低いことを過度に気にする必要はない。

第四に、都心の大規模な再開発などの大型工事は、ランドマークとしての著名な建物が多く、そのような建物を施工することは、建設会社としてのブランド力の強化につながる、などの項目が、ゼネコンが考える低採算受注の理由として挙げられる。

これらの理由の妥当性について、ここでは触れない。ただし、これらの項目が示唆するのは、大手ゼネコンが大型工事を利益なしで受注することで、下請けの重層構造を維持する一方、案件ごとの収益よりも特定顧客との長期的な関係を重視する、独特の構造問題が存在するということだ。

横並び体質に変化の兆し

オリンピック特需後の仕事量を確保するため低採算で大型工事を受注して自滅したのが、大手ゼネコンの23年3月期の決算であった。しかし、大手ゼネコンの中でも鹿島の決算は他の3社とは明らかに違っていた。(図表2)

すなわち、
① 23年3月期の期中に下方修正することなく、
② 23年3月期を前期比で営業増益で着地し、
③ 翌24年3月期も前期比で営業増益のガイダンスを出す、
という大手ハウスメーカーや大手不動産デベロッパーなら当たり前の3項目を満たしたのは、大手ゼネコン4社の中で鹿島だけだ。

もちろん、これはたまたま偶然の出来事かもしれない。鹿島も価格競争が激しかった19年3月期に,虎ノ門一・二丁目地区再開発や渋谷駅桜丘口地区再開発という二つの再開発の大型工事を受注している。ただし、この二つの工事とも今年中に竣工予定であり、これらの大型工事が低収益であれば、工事進行基準により2023年3月期決算に反映しているはずだが、その痕跡はない。

とすると、鹿島が価格競争から距離を置き、受注時の利益確保に焦点を当てていた可能性が高いと思われる。鹿島についてはもう一つ特徴的なことがある。それは、23年3月期の営業利益1,234憶円のうち、単体の建設事業からの利益は6割強の760億円にすぎず、残りの4割弱は国内外の開発事業と海外での建設事業で生み出しているという事実である。即ち、収益構造の多角化が進んでいる。

人口減少が続く日本で建設需要が伸びる見通しが立たない中、価格競争による安値受注で収益を毀損させることを繰り返していたのでは、大手ゼネコンといえども未来はない。中期経営計画で目指す成長・変革に本気で取り組んでいると思われる鹿島に、他の大手ゼネコンも追随して、単なる価格競争ではなく環境変化への適応と成長を競うレベルの高い競争を、すべてのゼネコンに期待したい。

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