脱炭素社会に向けた世界の動き  

TESLAイメージ
欧州などは、既に脱炭素社会に向けて大きく動き出しているところである。なかなか利害関係等の調整が容易でなく大胆な決断がしにくい日本社会において、今回の菅首相の方針発表は素晴らしい英断だと思う。

ただ、これをどのようなプロセスで実現していくのかについては今後の検討課題であり未知数な部分も多い。今回の方針表明が絵にかいた餅で終わらないように、日本全体でこれを実現するための努力をしていくことが重要である。

ゼロカーボン 一歩先行く主要国

先日、大統領選挙が終了した米国では、次期大統領であるジョー・バイデン氏が、来年1月の大統領就任初日に「パリ協定」への復帰の手続きを取る見通しだ。同氏は、2050年までに温室効果ガスの実質排出ゼロを目指すことを公約として既に掲げていて、オバマ元大統領の政策であるグリーンニューディール政策を踏襲するのではないかと見られている。

一方、中国では、習近平主席が2060年におけるカーボンニュートラルを目指すと表明している。中国汽車工程学会(汽車=自動車)は、2020年10月27日に発表した「省エネルギー・新エネルギー車技術ロードマップ2.0」において、2035年にはガソリン車をゼロ、HV車は50%、新エネルギー車を50%とする目標を掲げている。

また、脱炭素化の動きが進んでいる欧州の中でも、英国においては、気候変動法で2050年カーボンニュートラルを規定するとともに、先日、ガソリン車とディーゼル車の新車販売を2030年まで前倒して禁止すると発表した。

このように、世界の主要国では、コロナ禍にも関わらず脱炭素化に向けた動きが活発化している。日本もこの世界の脱炭素化の潮流の中、先進的な動きを見せていく事が期待される。

CO2排出の要因構成比

図表1

日本におけるCO2排出量は合計11.4億トン(2018年)であるが、その発生要因の構成比は以下の通りである。
石炭やLNGから電力等のエネルギーに転換(発電)する際に排出する量は4.6億トンで約40.4%を占める。次いで産業部門要因が2.8億トンで約24.6%、運輸部門要因が2.0億トンの約17.5%、民生部門要因(注1)が1.1億トンで9.6%を占め、これら4大要因で約9割強を占めている(図表1参照)。
このため、脱炭素社会を目指すためには、これら4大要因について対策を検討することが必要となる。
 
注1 :家庭から排出されるCO2と第三次産業に属する企業の事業所内で排出されるCO2の合わせたもの

ゼロカーボンへの転換行程のイメージ

図表2

2050年に脱炭素社会を目指す際に、そこに至るまでの転換行程のイメージはどのようなものだろうか。資源エネルギー庁が主催する総合資源エネルギー調査会基本政策分科会の「令和2年11月17日付資料19頁では、ゼロカーボンに向けた転換イメージを図表2の通り示している。

これによると、2050年のゼロカーボンの世界は、

1.電力部門を、非化石燃料(再エネ、原子力、火力+CCUS、水素・アンモニア等)で構成
2.産業部門、運輸部門及び民生部門を、電化(電気エネルギーへ転換)、水素(水素還元製鉄、FCV)、メタネーション合成燃料(注2)、バイオマス等で担う
3.超過したカーボン部分を植林やDACCS(注3)による炭素除去にて対応する

上記3つを実行することで、実現できるイメージだ。

注2:水素と二酸化炭素(以下、CO2)から天然ガスの主成分であるメタンを合成する技術
注3:大気中から二酸化炭素を抽出し、濃縮物として貯留する技術を言う。

もちろん、このイメージは、コスト面や技術面等から未だ実用化されていない技術も含まれているため、実現可能性は流動的である。

「電化」と「非化石エネルギー」

ここでのカギとなる点は、「電化」と「非化石エネルギーの大幅増強」であろう。

これが進まない場合には、水素化やアンモニア化といった発生したCO2を吸収する仕組みの大幅な技術進化がないと、ゼロカーボン社会の実現は困難である。
そのため、「電化の促進」を経てゼロカーボン社会を実現するためには、非化石燃料でどれだけの発電ができるのかということが最重要課題となる。

東日本大震災以来低下した原子力の割合 日本の電源構成

図表3

日本、米国、中国及び英国の電源構成を示すと、図表3の通りである。まず原子力と再生可能エネルギーの非化石燃料発電合計が占める割合は、英国50.7%、米国36.6%、中国28.7%及び日本23.1%であり、日本は最もその割合が低い。
これには、日本の原子力発電が2011年の福島第一原子力発電所の事故以来、再稼働が十分に進んでいないという要因が大きい。ただ、再生可能エネルギー(水力を含む)だけで比較すると、英国29.6%、中国25.0%、米国16.8%、日本16.9%であり、欧州との対比では出遅れ感があるものの、全体としてはまだまだ世界と戦えるポジションにあると言うことができる。

電力部門における各電源の特徴

図表4

現在の主たる電源の特徴を比較すると、図表4の通り一長一短がある。
環境適合性からすると、原子力と再生可能エネルギー(太陽光、風力、水力)の両電源はいずれもCO2排出がゼロなので、これだけで電源を構成することが望ましいはずだ。

しかし、平地である国土が狭い日本において、太陽光発電や風力発電(陸上)の電源を増やすとしても限界がある。
近時注目されている洋上風力発電は、それに適した地域は東日本が中心となり限定的であることや、漁業協調の問題もある。このため、再生可能エネルギーの主要電源の一つとして期待されるものの、発電容量の増大には限界がある。
コスト面からみても、太陽光発電や風力発電は未だ高めであり、今後のコストダウンのための技術の進展が期待される。

水力発電は、ベース電源として安定した発電量を維持することができ、コスト競争力もあることから大変優良な電源ということができる。しかし、今後日本国内で新しいダムを増設していく事は容易でない。既存のダムの容量増加及び効率化による発電量の増加が期待されるが、飛躍的な電力量の伸びを期待することはできない。

このような中、日本は世界第三位の地熱資源量(2347万KW)を有しており、今後の導入の拡大が大いに期待される。しかしながら、現時点では開発リスクや開発コストが高いという難点があり、精度の高い探査技術の開発や掘削性能が高い掘削技術の開発が期待される他、資源量調査や様々な公的な支援が必要であろう。
ちなみに、日本よりも多少地熱資源量(3000万KW)が多い米国は、既に日本の6倍の地熱発電施設設備容量(372万KW)を保有しており、日本はやや出遅れ感がある。

ゼロカーボンには原発が不可欠

図表5

なお、原子力発電は、東日本大震災時の福島第一原子力発電所の事故以降安全面の不安が残るものの、その点を十分配慮する限り、コスト面や環境適合性の点で有効な脱炭素電源である。
再稼働が想定される原子力発電所が稼働することができれば、2030年の原子力の電源構成比は約20%~約22%になることが想定される。しかし、2050年までに寿命を迎えた原子力発電所に代替する新設の原子力発電所建設を進めない限り、原子力発電の構成比は約10%前後にまで下がることになる。
ゼロカーボンの実現のためには、原子力発電所の新設も検討課題となる。

EV(電気自動車)は普及するか 東京都「純ガソリン車」禁止へ

leafイメージ

ゼロカーボンの実現のためには、前述した通り、「電化」と「非化石燃料の容量増加」が重要であるが、「電化」において急速な取り組みの増加が期待されるのはEV(電気自動車)である。
2050年ゼロカーボンを実現するためには、自動車の耐用年数(ここでは15年と仮定する)を考慮すると、遅くとも2035年頃までには、新車発売におけるガソリン車の禁止規制を行う必要性がある。
この点、東京都の小池知事は先日、2030年までに純ガソリン車の新車発売禁止を宣言している。これに多くの他都市も追随してくることが想定される(環境省は、2050年までにゼロカーボンを目指す旨の表明を推奨しており、それを表明した地方公共団体を「ゼロカーボンシティ」として位置付ける。)。

ハイブリッドからEVへ、傾く流れ

このようなこともあり、ここ10年で、EVの普及は大幅に加速するものと推察される。
なお、ここでいう「純ガソリン車」にハイブリット車は含まれないため、ハイブリット車の販売は禁止されない。
しかし、ここ10年で世界の潮流がEVに傾斜することが想定されるため、日本でも2030年までにEVのうち平均的な車種の価格が300万円台にまで下がれば、EVが新車販売の主流になる可能性は大いにあるものと推察される。

注目される急速充電器ビジネス

EVに関連してビジネスとして面白いのは、急速充電器の設置ビジネスであろう。現在すでに行われているガソリンスタンドやスーパー等における設置のみならず、住宅地のコインパーキングでの充電器設置も普及すると思われる。

また、最終的には、一戸建てやマンションにおいて設置できるワイヤレスの急速充電機が普及すれば、EVの需要の高まりと相まって充電器ビジネスは隆盛を極めるのではないかと思われる。

一方で、太陽光発電や蓄電・省電を実現するスマートハウスやAI・IOT等を駆使してスマホで家電をコントロールするスマートホームのビジネスの進化も想定される。

自宅でも再生可能エネルギー創出

日本では、太陽光発電パネルの価格が低減してきたものの、未だ設置に伴う工事費が高止まりしているという問題点はある。
しかしながら、ゼロカーボン社会に向かう中で、自宅でも再生可能エネルギー創出の一端を担う意識は急速に高まっていくものと思われる。
従来は、長期的な「電気代の削減」のために自宅に太陽光パネルを設置していた。それが、環境意識の高まりから、エコカーを購入するのと同様に、太陽光発電パネル付き住宅に住むのが「社会の一員として当然」という動機に変化していくのである。

加えて、電力小売事業者が、太陽光パネルとその設置コストを含めた額を一戸建て所有者やマンション管理組合にリースし、リース料として電気代と一緒に代金を長期に回収していくようなビジネスモデルも発展が見込まれる。ちょうど、通信事業者が、スマホ代金を通信料とともに分割回収していくのと同様である。

脱炭素社会へ 重視されるSDGs、ESG投資

chargerイメージ

SDGsやESG投資等が資本市場において重視される中で、企業が環境に適した企業活動を行うことが事実上スタートしている。このような中、社用車や敷地内で使用する自動車のEV化は進むであろうし、ゼロカーボンシティ宣言をした地方公共団体等も非ガソリン車を利用する傾向が予想される。

このような中、日本政府は、国内での水素利用量を2030年時点で1000万トン規模とする目標を設ける見込みであり、2050年のゼロカーボン化を目指すもう一つの手法としてCO2を出さない水素の活用で発電や燃料電池車(FCV)向けの燃料として利用することも注目されるところである。

合わせ技一本でゼロカーボンを実現

前述した通り、非化石燃料による発電だけでも原子力や再生可能エネルギーによる発電を併せても2050年のゼロカーボンを実現されるために十分でないのが実情である。そのような意味で、柔道でいう「合わせ技一本」のように、いろいろな非化石燃料由来のエネルギーを組み合わせてゼロカーボン社会を実現するというのが日本の進むべき道である。

そして、ビジネスの世界においては、更なる新しいエネルギー源を求めて技術開発が進められていくものと思われる。

誰が「電化」「非化石化」の主役を担うのか

森林イメージ

2050年ゼロカーボンに向けた動きは、ようやく日本でも本格的にスタートしそうな状況にある。東京都も先日、2030年にガソリン車の新規販売を禁止する方針を打ち出したように、2030年が近づくにつれ、「電化」や「非化石化」の変化が加速するものと思われる。
場合によっては、2050年のゼロカーボンの目標時期を前倒しした宣言をする国も出てくる可能性がある。

このような中、従来の自動車産業とエネルギー産業、住宅産業とエネルギー産業のように、各産業とエネルギー産業の間の緊密な連携や融合により、「電化」、「自動化」及び「無線化」の動きが加速するものと思われる。
一般的なビジネスでも、近時は、産業と産業の谷間のエリアで、顧客ニーズに適した新たなビジネスチャンスがある可能性は高いのと同様である。

電力会社は、脱炭素の主役となれるか

大手電力事業者はこれまで、需要家であった各産業の担い手の進化に伴って対応するといった、受動的な動きが中心であった。
今後、エネルギー関連産業の主役として、「電化」、「自動化」及び「無線化」にわたって行われる連携と推進のドライバー的役割を果たすのか。それとも、大手が柔軟に役割を果たせず、新興のエネルギー関連ベンチャー企業が各産業とエネルギー産業の繋ぎを果たすのか。

今後の動きに注目していきたい。

日本でも待たれる、新興企業の登場

英国の新興の電力小売事業者で「Octopus Energy」がある。太陽光発電をベースとした再生可能エネルギーの電力を約150万世帯に供給しており、英国内の市場シェアは5%と急成長の英国のユニコーン企業である。同社は、再生可能エネルギーの電源をもとに、卸電力・ガス市場に連動した形で家庭向けに提供しているほか、EV向けに「Octopus Go」という電気メニューも展開。毎晩午前0時30分~4時30分の間、電気料金を格安の5ペンス/kWh(約6.9円)で提供している。私は、このような新興企業が日本でも生まれ、大手電力小売事業者の中で再生可能エネルギーを契機とした革新的サービスを展開して、急成長をする企業が出現する日も近いように思う。
以 上

関連記事

GDP2065年までに4割減予想 中小企業の生産性向上が不可欠

日本の生産年齢人口がこのまま減り続け、企業の生産性が向上しなければ、日本のGDPは現在より2065年には約4割減ることになる。そうならないためには、企業数の99%以上を占める中小企業の生産性向上が不可欠だ。中小企業再編の議論が高まる中、特に地方企業が何をするべきか、考察した。

テスラの躍進とESG/SDGs投資 GAFAに続くプラットフォーマー

イーロン・マスク氏が率いるテスラ社の時価総額が2020年中にトヨタ自動車を上回り、一時US$8000億を突破し、既に4倍近い差をつけた。20年中に7倍以上という株価上昇の背景は、ESG/SDGs投融資資金の拡大、同氏が率いる宇宙開発会社「スペースX」社(非上場)の企業価値急拡大などと推測される。この記事では、テスラの急伸長の背景にあるESG/SDGs投資の拡大と、エネルギー分野におけるプラットフォーマーを視野に入れた成長戦略について考察する。

工作機械受注に回復感 中期的なEVシフトのリスクとは

日本工作機械工業会が公表している工作機械受注は、5月をボトムに回復しており、11月(速報)は前年同月比8%増の882億円と2年2カ月振りの前年比プラスに転じた。一方で、国内外で電気自動車(EV)の普及を加速させる政策を打ち出すニュースも相次いでいる。EVシフトは金属部品の使用を減らすことにつながり、工作機械業界にとってネガティブファクターであり、中長期的なリスク要因となりそうだ。

ランキング記事

1

パワー半導体の世界シェアは?注目市場の今後の動向を解説

パワー半導体(パワートランジスタ)は、家電や電気自動車をはじめとして、さまざまなデバイスの電源管理に使われています。 多くの分野で需要が伸びており、長期的な成長が期待できるマーケットです。 日本の企業や大学発ベンチャーが競争力を保っている分野でもあり、「パワー半導体強国」として世界市場でのシェアを獲得するべく、積極的に研究開発を行っています。 本記事では、世界規模で成長をつづけるパワー半導体の市場規模や、今後の展望を解説します。

2

2021年展望  化粧品業界 急回復もレッドオーシャン化する中国市場

国内化粧品市場は厳しい環境が続く中で、多くの化粧品企業が来期以降の業績回復の牽引役として、中国経済圏での売上拡大を掲げている。しかし、中国市場は欧米、中国、韓国メーカーの勢いが増しており、レッドオーシャン化しつつある。グローバル競合が激化する化粧品市場において、消費者に向き合ったコミュニケーションの進化が差別化のカギとなる。

3

「7+1」のキーワードから読み解く 2021年のM&A展望

「今年は厳しかった」 この時期のM&A業界に携わる人々の一年の感想である。しかし、振り返ってみると日本企業によるM&Aは緊急事態宣言期間中こそ手探りであったが、6月以降は活況であったとみていい。

4

コロナ禍に有効なアーンアウト条項とは シンガポール案件からの考察

コロナ状況下でもASEAN地域においてPEファンドによる売却が積極的に行われている。アーンアウト条項を通じ、コロナ状況下のリスクを買い手と売り手で分担している例もみられ、危機時の参考事例として紹介・考察したい。

5

事業承継M&A オーナー経営者に配慮すべき4つの視点

事業承継M&Aを進める際に最も大切なのは、売り手側のオーナー経営者との向き合い方だ。多くの場合、オーナー経営者は大株主であり、資産家であり、地域の名士でもある。個人と会社の資産が一体となっている場合も多く、経済合理性だけでは話が進まない場合も多い。M&A交渉においてオーナー経営者と向き合う際の留意点を4つの視点からまとめてみた。

人気のキーワード

海外スタートアップ情報はこちら!  寄稿・執筆者募集中